下級巫女と『ウテナ』 ⑥
目の前で『ウテナ』の面々が巫女たちの前で劇を披露している。
――生き生きとした様子で、凄まじい演技力。それでいて身体能力も高く、だからこそアクションシーンは迫力がある。
「誰もが素晴らしい技術を持っていますね」
「うん。『ウテナ』の皆は本当に凄いよね」
『ウテナ』の面々は誰もが認める技術を持ち合わせている。だからこそ『ウテナ』の劇を見る面々の目は輝いている。
トリツィアは仲良くしている『ウテナ』の技術を周りから褒められていることが嬉しいと思う。
トリツィアは身体能力が高い。それでいて巫女としての力がとても強い存在。
でも彼女は『ウテナ』のように人の心を揺さぶるような劇は出来ないだろう。
それに今回の『ウテナ』は彼女に劇を見せるためだろう。張り切っている様子を見せている。それだけ『ウテナ』の面々にとって彼女は特別なのだと、分かる人には分かるだろう。
劇だけではなく、身体能力が高いからこそできる芸も披露する。例えば魔物の一部を手なずけて披露されるショーだったり、美しい踊りだったり、圧巻の芸の数々。劇だって一つだけではなく、複数披露された。一度目の劇ではか弱いヒロインを演じた女性が、二つ目の劇では盗賊の女頭を演じていたりなど、意外性も満載だった。
トリツィアは一目で同一人物だと分かったが、レッティや他の者たちは同一人物が演じていると分からなかったらしい。まさに変幻自在である。
『ウテナ』の面々は卓越した変装技術を持ち合わせており、それは情報収集にも多く使われている。国の中核の情報もそういう技術を駆使して手に入れたものばかりなのだ。真正面から力づくで飛び込むタイプのトリツィアとはまた違うタイプの力である。
(シャルジュも色んな恰好しているなぁ。女の子に扮していたりもするし、凄いなぁ)
トリツィアは単純にその変装技術が凄いなとも関心している。よくトリツィアの元へ訪れるシャルジュも普段とは違う姿も見せており、それも彼女にとっては楽しめることの一つだった。
その劇の場には、侵入者の姿もあった。
それらに関してはオノファノや『ウテナ』の面々が対応しているようである。
(うーん、神殿騎士たちも忍び込ませることを許すなんて困ったものだよね。それだけ隠密行動によっぽど慣れている人なんだろうけれど……)
幾ら神殿騎士とはいえ、防げないものは防げない。そもそも何か事件が起こらなければそういう忍び込んでいる人がいるなど考えないものである。
だから神殿騎士たちからしてみれば、今は侵入者など一人も居ない状況だという認識だろう。ただし、実は忍び込んでいるが。
最もシャルジュだっていつも忍び込んでいるので、この大神殿の警備は厚いように見えて全くそうではない。
(ほとんどが『ウテナ』目当てだろうけれど、もしかしたらレッティ様とか他の巫女たち目当ての可能性もある? それは嫌だなぁ)
『ウテナ』や巫女。
一般的に考えれば特別な存在。
その存在達が一同に集まっているので、何かを起こそうとする存在は少なからずいるのだ。
「トリツィアさん、どうしましたか?」
「ちょっと考え事です。レッティ様、ちょっと『ウテナ』の人たちを味方につけたい人が多いみたいです。だから色んな人が此処に来てます」
「まぁ……、それは困ったことだわ」
「はい。今の所は表立って何かをしてはないですけれど、ちょっと面倒だなとは思っているのです」
レッティはトリツィアの言いぐさに、本当に緊迫した状態ではなく面倒だと思っているだけだというのが分かり笑った。
「本当にトリツィアさんは相変わらずですね。もしあなたの手でも負えないことや私の立場があればどうにか出来ることがあれば相談してくださいね」
「はい。困ったことあれば相談しますね! でも、大丈夫ですよー」
トリツィアも対応はしているがどちらかというと『ウテナ』自身が適切な対応を進めて処置している。トリツィアが把握していない以上に彼らは面倒な相手の対応をしていることだろう。
「そういえば、レッティ様。『ウテナ』が私をモデルにした劇を作ってくれてるんです! 先に私にだけ見せてくれるらしいので、一緒に見ませんか?」
「……それは私も同行していいものなのかしら?」
大神殿全体で公開されている催しの最中、トリツィアに軽く言われた言葉にレッティは驚く。
トリツィアの言葉を聞く限り、『ウテナ』の面々は彼女だけにその劇を見せるつもりであろうことは明白である。
「問題ないですよー。『ウテナ』には私が一緒に見たいって言えば問題ないので!!」
元気よくそう答えられて、レッティはトリツィアと『ウテナ』の関係は実際にどういうものなのだろう? と不思議に思った。
しかしトリツィアが問題ないとばかりににこにこ笑っているので、レッティはその誘いに乗ることにした。
そういうわけで全体向けの催しが終わった後、彼女たちはトリツィアをモデルにした劇を見ることになった。




