セクハラするやつは殴っていい。by女神 ①
ドーマ大神殿は、女神であるソーニミアを崇めている神殿である。他の神殿では他の神をまつっていたりするが、この場所はソーニミアの神殿である。
トリツィアは、この大神殿がソーニミアを祀っている神殿でなければもしかしたら違う存在と友人になっていたかもしれない。
――時と場所が違えば、人の人生なんて変わっていくものである。トリツィアの人生も今とは異なっていたかもしれない。
ソーニミアはこの世界でも有名で、多くの人たちに崇められている女神である。
ソーニミアは多くの人々から信仰を集められており、その神聖さを知られている。
実際のソーニミアがどういう存在であるかというのは、限られた者たちしか知らないのである。
「女神様って本当にクドン様と仲が良いですよね」
「ええ。クドンは私のことを愛してくれているわ。……私もクドンの事を愛しているわ」
「ふふ、とても素敵です。私も誰かと結婚するなんてことが万が一あるのならば、そういう風に素敵な夫婦関係を築きたいものです」
「トリツィアなら大丈夫よ」
ソーニミアは、トリツィアのことをオノファノが好いていることを知っているためそんなことを言いながらにこにこしていた。
ちなみに今日も女神様はトリツィアの部屋にきていた。
結構軽率に、女神様はトリツィアの所に遊びに来る。これはトリツィアが周りに影響を与えないような結界を形成できることと、トリツィアが女神様がいても影響を受けないからというのが大きいだろう。
あとはただ単にソーニミアはトリツィアのことを気に入っていて、トリツィアと楽しく会話を出来ることを楽しんでいるからというのもある。
「ただトリツィア、貴方はとても可愛いから気を付けるのよ」
「気を付けるって?」
「貴方は大神殿の巫女だから、あまりよからぬ輩に近づかれたことはないでしょう。でも世の中には権力を笠に着て、女性の意志を無視して無理やり迫ってくるような人もいるのよ」
「それは凄く殴りたくなる」
「殴っていいわ。セクハラしてくるやつは殴っていいものなのよ。……思えば私がOLをしていた頃もそういうセクハラ上司がいたわ。あの時は殴らなかったけれど殴っていればよかったわ」
――さて、事が起きたのはトリツィアとソーニミアがそんな会話をしてしばらく経った日の事である。
その日、ドーマ大神殿は少し騒がしかった。
それはこの大神殿に滞在している上級巫女の元を訪れている貴族の子息がいるからである。
上級巫女たちは巫女としての経験を積んだ後に、優良物件な結婚相手と結婚していくことが多い。外でソーニミアの言う婚活パーティーを行うことも当然あるが、こうして王侯貴族の男性がこの大神殿を訪れることもある。
子息たちにとっても、女神に仕えていた巫女と婚姻を結ぶことは一種のステータスである。巫女との結婚を望む者は多い。過去に巫女と婚姻を結んだ者がその巫女を蔑ろにした時に不幸が起きたという事例もあり、巫女の事を蔑ろにするものは少ない。
とはいえ神も万能ではなく、この世界の不幸をすべて救えるだけの力はない。だからこそ世の中には不幸な巫女もいないわけではないだろう。
下級巫女という地位であるトリツィアにとってみれば、正直言ってそういう王侯貴族が訪れようとどうでもいい話だ。
彼女にとって恋愛なんてものは、思考の片隅にあるものの、特にそれを望んでいるわけでもない。下級巫女としてこの大神殿で過ごすことを心から楽しんでいるというのもあり、結婚して巫女をやめるなどということを考えていない。
それはトリツィアだけではなく、他の下級巫女にも言えることである。下級巫女はよっぽど行動を起こさないと王侯貴族の子息となんて結婚出来ないものである。中には下級巫女でありながら、上級巫女目当てにやってきた子息を射止める者もいるが、それはよっぽど見た目が良いか、運が良いものたちだけである。
(何だか皆、おしゃれだなぁ。今日って貴族の子息がくる時だっけ? 私には関係ないけれど、おしゃれしている女の子達を見るのは気分がいいよね)
トリツィア本人は、あまりおしゃれをしない。ドーマ大神殿の巫女服を気に入っているし、そうやって化粧をしてまで誰かの気を引く気もない。だけれどおしゃれをしている女の子達を見るのは嫌いではなかった。
――自分の将来のために、化粧をしたり、装飾品を身に着けたり、そういう努力をする姿が嫌いではない。
(この大神殿の巫女たちはそこまで酷い性格の人たちもいないし、皆幸せになればいいよね!)
……この大神殿の巫女たちが大人しくしているのは、トリツィアがいるからという理由も大きい。巫女として真摯に神に仕えている者が多く、ドーマ大神殿の巫女は王侯貴族の子息たちにだって人気である。




