下級巫女と『ウテナ』 ②
トリツィアはご機嫌な様子で大神殿の中を歩き回っている。
久しぶりにレッティがこの場にやってくるのがトリツィアは嬉しい。それと同時に、何か問題がないか見て回る。
(んー? なんかいるなぁ。あれ、なんだろう?)
トリツィアは歩いているうちに何かを見つける。
……それは、小さな生物。おそらくどこかの術者の放った使い魔である。
彼女はこういう人知れず忍び込んだものを見つけることも得意である。というか、まず彼女に気づかれずにあることは難しい。
すぐにトリツィアに察知されて捕まってしまうというのもあり、この大神殿にそういった使い魔を放つものの数は少ない。とはいえ、なんだかここ数日、その数が多いことにトリツィアは気づいていた。
「ねぇ、オノファノ。なんか使い魔的なのがやたらといるのだけど、何か心当たりある?」
小さな鳥型の使い魔の足を持ちつつ、通りすがりのオノファノにトリツィアは問いかける。
「俺には心当たりはないが……あれだな、『ウテナ』が大神殿にやってくるから探ってきてるとかはあるんじゃないか?」
「そんなに皆、『ウテナ』のことを気にしているの?」
「最初に出会った時もシャルジュが言っていただろ。色んな国と関わりを持ちすぎて、後ろ暗いことを知ってしまったって。それだけ『ウテナ』の連中は一か所にとどまらずに色んな場所に赴いて、それで様々な情報を手に入れているんだろうな」
「『ウテナ』に皆、そんなに興味津々なんだね。情報が欲しいってことかな」
「それもあるんじゃないか? 自分たちにとって役立つ情報を『ウテナ』が持っているかもしれないというのもあるだろうな。それに『ウテナ』の連中って優秀な奴が多いだろう。シャルジュみたいに騎士たちに気づかれずに此処に忍び込める奴とか」
トリツィアとオノファノは呑気にそんな会話を交わしている。ちなみに使い魔にその話を聞かれないように、きちんと処理はしてある。
「情報が欲しいっていうなら自分で集めればいいのになぁ。あとどこかに忍び込みたいとかなら、自分で忍び込めばいいし」
「トリツィアみたいに自分でなんでも出来るやつは少ないからな。それに自分の手を汚さずに、他人任せな奴は多いぞ。『ウテナ』を手中におさめたいって思ってんじゃね?」
「ふぅん。そっかぁ。別に『ウテナ』が自分たちからそうしたいって望んだら、誰かの下についてもいいと思うけれど、そうじゃないなら私は嫌だなって思うかな。誰かの自由が阻害されるのってあんまり良いことじゃないと思うもん」
トリツィアは自由を好む。自分のやりたいように生きているので、交流を持っている『ウテナ』が自分の望みではないのに何かに従うのは嫌だなと思っている。
だから、こういう風に『ウテナ』を手中におさめたいと思って大神殿にちょっかいをかけてくるのは何とも言えない気持ちである。
「『ウテナ』が神殿相手に劇を披露するのはちょっと珍しいことらしいから、何かあるんではないかって思われているのかも」
「確か貴族たち相手に披露していることが多いんだっけ?」
「そうだな。わざわざ大神殿にやってくるというのはおそらく珍しいことのはずだ」
「だからかぁ。でもこうやってちょっかい出してくるのって困るね。シャルジュたちだってこういう風に沢山の人に来られたら迷惑だろうに」
トリツィアはそんなことを言いながら、別の侵入者を見つけたのですぐさま捕まえる。
「使い魔だけじゃなく、人もいたよ。忍び込みすぎじゃない? この大神殿の警備がざるするぎるの?」
「いや、こいつらが優秀なだけだろう。神官長や他の騎士たちにも言っておく」
「そうだね。それがいいかも!」
「あとトリツィアにも接触してくる恐れがあるから、その辺は対応を派手にやりすぎないようにな」
「私の方にも来る?」
「ちゃんと調べれば『ウテナ』の奴らが此処に来るのがトリツィア目当てだと分かる奴もいるだろう。だから、トリツィアの方を懐柔しようとしてくるのもいるかもしれないだろう」
トリツィアはオノファノから言われて不思議そうな顔をする。そんなトリツィアにオノファノは呆れた様子である。
「トリツィア自身は懐柔される気がないのは俺はよく知っているけれど、お前をよく知らない奴はただの下級巫女であるトリツィアのことを簡単にどうにでも出来ると思っているはずだからな」
「ふぅん」
トリツィアはそんなことを言われても、そういう人が来ても言うことを聞く気は全くないのでそんな様子である。
トリツィアの地位はただの下級巫女である。
幾ら『ウテナ』の決定権を持っていたり、魔神や魔王を従えていようが、表面上ではそうなので『ウテナ』を手中におさめたい連中が何かを餌にトリツィアに手出しをしてくることは容易に想像が出来るのだった。




