下級巫女と『ウテナ』 ①
誰よりも力があり、魔王と魔神をペットにし、勇者を弟子にしている。
加えて女神とは友達。
そんな規格外の下級巫女、トリツィアは今日もいつも通りのんびりと過ごしている。
「ふんふんふ~ん」
今日も楽しそうに鼻歌を歌いながら、大神殿を歩くトリツィア。
他の巫女たちはトリツィアに近づこうともしていない。
その日も元気に雑用と祈りを行い、オノファノと模擬戦を行い――いつも通りである。
「お姉さん」
そんなトリツィアに声をかけるのは、『ウテナ』のシャルジュである。神殿騎士たちの目をかいくぐっていつも通り侵入している。
「こんにちは、シャルジュ」
「こんにちは、お姉さん。今日もいつも通りだね……」
どんな時でもにこにこと笑っているトリツィアにシャルジュは呆れたような様子を見せる。
(お姉さんは本当にどこにいてもいつも通りだ。何があったとしても変わらない。その様子はなんだかほっとする。だって世の中に不変なものは何一つないけれど、それでもお姉さんはきっと本当に予想外のことがあってもこのままなんだろうな。それこそおばあさんぐらいになっても……)
人は何かしらの経験をしたら変わっていくものだ。出会った時は親しく出来ていても、しばらくすればその様を変えるなんてことはよくある話である。
だけれども、トリツィアはきっと変わらないだろうなとシャルジュは思っている。
「お姉さん、僕たち『ウテナ』に他に頼みたいこと何かないの? 僕らはお姉さんの頼みを聞きたいなって思っているのだけど」
「んー? 今の所、ないかなぁ」
「でも僕たち、お姉さんに凄く感謝してるんだよ。もっとお姉さんの役に立ちたいんだけどなぁ。何かないの? 長老たちもお姉さんにまた会いたいって言ってたけど」
「シャルジュみたいに忍び込めない?」
「長老たちは年だからなぁ。お姉さんの方からきてもらえるか、それか『ウテナ』でこの神殿に劇を見せに来るとかは?」
「それもいいかも。神官長に確認してもらえたら来れるかも。ついでにレッティ様も呼んだら、喜びそう」
「お姉さんが仲良くしていた上級巫女様だっけ」
「うん。レッティ様は結婚してもう神殿を出てしまったけれど、『ウテナ』の劇が見れるって聞いたら遊びに来るかも。」
トリツィアはにこにこと笑いながらそう言った。
嫁いでいったレッティとは手紙で交流をしている。幸せそうな様子にトリツィアは嬉しい気持ちでいっぱいである。
「じゃあ、神官長に手紙を出すように長老に言っとくよ。お姉さんは『ウテナ』と交流していること
周りに言ってなさそうだし」
「それがいいかもー。私も『ウテナ』の劇、楽しみ。前に見せてもらったのと違うものを見せてもらえるの?」
「うん。僕たちは色んな劇を準備しているから。お姉さんのことをモデルにしたものも作っているから、お姉さんに先に見せたいな。お姉さんが許可してくれたら他でも披露してもいいかなって思っているんだけど」
「一回見たいかも」
「それは個別で見せるね。大神殿と約束付けれればこっちに長老たちも来やすくなるし」
シャルジュはそう言いながら嬉しそうにしている。
シャルジュとしてみても、『ウテナ』を救ってくれたトリツィアに感謝している。それでいてトリツィアと接しているうちにその性格もとても好ましく思っている。だからこそ、こっそり会いに行くではなく真正面から『ウテナ』の面々で来れるというのは喜ばしいことである。
『ウテナ』の他の面々にもトリツィアの様子をよく聞かれるので、彼らにとってもドーマ大神殿にやってきて劇を行うことは良いことである。
「じゃあ、お姉さん。ちょっと話をつけたらまた報告しに来るね」
「うん。またね」
シャルジュはそのまま他の誰かに悟られることなく、去っていくのだった。
まるで雲か何かのようにシャルジュは掴みどころがない。
『トリツィア、面白そうなことをやるのね』
(女神様、こんにちはー。女神様も一緒に劇見ましょう。私をモデルにしたものもあるらしいので、楽しそうですよね)
『そうね。是非見たいわ。『ウテナ』の劇は面白いわよね。私も前にこっそり見たことあるわ』
(そうなんですねぇ。個人的に見せてもらったのと、祭りのときに見たぐらいですからね。見たことない劇見れるかなとか考えると凄く楽しみです)
トリツィアが女神様をさそうと、女神様も楽し気に笑っている。
そういうわけで女神様もこっそりその劇の際に見に来ることになった。
『でもトリツィアは劇を見るのは楽しんでいるけれど推しなどはいないわよね』
(推しって、なんですっけ?)
『お気に入りの人ってことよ。ほら、劇団の中でこの人がお気に入りといったものがあったりする人もいるでしょう?』
(なるほどー。そういうのはないですね! 女神様はいます?)
『私の一番のお気に入りの人は、やっぱりトリツィアね。見ていて楽しいもの。そう考えるとトリツィアが推しと言えるのかもしれないわね』
(そうなんですね!)
そんなにこやかな会話をトリツィアと女神様はするのだった。




