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下級巫女です!!  作者: 池中織奈


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勇者がやってきた。⑨



「ヒフリー、走るの遅いね」

「トリツィア、そう言ってやるなよ。ヒフリーは他の連中と比べればついてこれている方だろう」

「それはそうだけど、勇者って言われるぐらいだからこの位走れるかなぁって」

「勇者を過大評価しすぎだろ。特にヒフリーは勇者だと判明したばかりだぞ」

「そっかー」



 勇者の目の前で、そんな和やかな会話がなされている。



 当の勇者はと言えば、息切れしながら地面に座り込んでいた。トリツィアとオノファノが走って移動すると言ってしばらく……実際に彼らは走って移動していた。短い時間なら勇者もついていくことが出来ただろう。

 しかしトリツィアもオノファノも体力が化け物である。軽い調子で馬車よりも速く移動しており、勇者だと判明したばかりのヒフリーは途中でへばっている。





「ヒフリー、飲み物持ってきた? 飲んだ方がいいよ」

「……はい」


 勇者はごくりと水筒に入れている水を飲みこむ。幾ら一口水を飲んでも、しばらく地面で休んでいてもすぐには回復する兆しはなかった。



 その間、トリツィアは自由気ままに行動している。

 オノファノに一言、「ちょっとあたり見てくる」と言ってその場を離れたりするので、勇者は驚いてしまった。マオとジンも連れてご機嫌な様子で颯爽と歩いていったので、止める暇もない。





「オノファノさんは、師匠と一緒に行かなくてよかったんですか?」



 巫女とは、普通ならば守られるものである。聖なる力を宿した神の声を聞く者。それを一人で出歩かせるというのは、基本的にはない。



「ヒフリーを置いていけないからな。それにトリツィアは一人でもどうにでもするし、マオとジンがいるから問題はない」

「……俺がついていけないせいですね。すみません」

「寧ろトリツィアの無茶ぶりについていこうとしているだけ凄いことだ。トリツィアの異常性を知るとついていくことさえしない奴らの方が多いから」



 それはオノファノの心からの言葉である。


 トリツィアという少女は一言でいうと色んな意味で普通ではなく、おかしな存在だ。

 誰よりも強い力を持ちながら、自由気ままに生きている。だから自分とは違う存在だと、比べてはいけない存在だと――そんな風に思ってしまう人の方が圧倒的に多い。



 こうやってトリツィアの無茶についていこうとしているだけでも勇者は根性があると言える。




「師匠はずっとあんな調子なんですか?」

「そうだな。トリツィアは、ずっと昔からああだった。もちろん、今よりも昔のトリツィアは強くなかったけれど」

「オノファノさんは師匠と付き合いは長いんですか?」

「育った場所が一緒だったから、昔から知っている。トリツィアは巫女として神殿に見いだされる前から、独特だったけれど」



 オノファノはそう言いながら、昔のことを思い起こす。



 トリツィアは六歳の時に巫女としての力を発現し、神殿に行った。

 しかしその前からもどこまでもマイペースで、突拍子のないことを行ったりするような少女だった。

 巫女としての力を徐々に高めていくにつれて、今のトリツィアが出来上がった。



 ――どこまでも無邪気に、自分のペースで、楽しそうに力をぐんぐん身に付け、留まることを知らない。

 そしてその力をもってして、魔王と魔神でさえも下した。





「師匠は凄いですね。そんな風に昔からそうだったなんて」




 その強さに感服しているからこそ、勇者は恐怖を感じることなくキラキラした目を浮かべている。



「トリツィアは何か目的があってああなったわけじゃなくて、ただやりたいようにやっててああだからな」

「オノファノさんもそうなんですか?」

「……俺はトリツィアについていきたいと思ったから。俺が弱いままだったら、こうやってトリツィアの出張についていくことも出来なかっただろう」

「そうなんですね」



 もしオノファノがそれだけの力をつけなくても、トリツィアはマイペースに生きていただろう。しかし今とは違った関係性になっていたことだろう。




 そうやって会話を交わしている間に、勇者の体力も少しずつ回復してきたらしい。トリツィアはまだ戻ってきていない。





「師匠、遅いですね」

「また何か見つけて寄り道しているのかも」

「そういうことよくあるんですか?」

「トリツィアは自由だからなぁ。今は俺とヒフリーを待たせているから、そのうち戻ってくるとは思うが」



 トリツィアはマイペースであるが、人が待っているという状況でそのまま放置してどこかに行くということはしない。


 しばらく待っていると、トリツィアが「ヒフリー、元気になった? これ食べる?」などと言いながらやってきた。




 その右手には兎型の魔物を引きずっている。その大きさは、トリツィアよりも巨大である。その後ろをマオとジンがついてきている。






「……師匠、それは?」

「襲い掛かってきたから倒したの。美味しそうでしょ?」



 簡単にそういったトリツィアはにっこりと笑うのだった。



 それからその魔物を解体し、三人で間食を取るのだった。




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