ペットが増えたよ ④
「トリツィアたちが躾けるっていうなら、とりあえずそれでいいわね。ねぇ、トリツィア、この歌を歌って欲しいわ。きっと似合うもの」
「分かりました! 前に女神様が教えてくださったものですよねー。あんまり自信ないですけど、歌をささげます」
女神様は、トリツィアに歌を所望した。
女神様の目から見て、トリツィアは大事な友人でとっても可愛い女の子である。それでいて誰よりも自由気ままで見ていて楽しい。
そんな愛らしいトリツィアの歌を聞くことも、女神様は大好きだ。
トリツィアが楽しそうに女神様に向かって歌を披露する様子を、にこにことしながら見ている。
「トリツィアの歌は本当に素敵だわ。カラオケってやっぱり楽しいわね」
それからしばらくの間、歌を歌っていたが二人だが女神様はビールを飲みすぎて酔っぱらっているのかうとうとしている。
「女神様、大丈夫ですか? お酒って飲みすぎるとそんな風になるんですね……。いつもより沢山飲んでません?」
「だって、トリツィアとのカラオケ楽しいんだもん」
女子会の時にいつもビールを持ち込んで、酔っぱらっている女神様。
しかし今回はトリツィアと一緒にカラオケが出来ることがよっぽど楽しいのか、いつもよりハイペースで飲んでいたようである。
「クドン様、呼んだ方がいいですか?」
「えぇ? まだもうちょっと楽しみましょう、トリツィア」
「でも女神様、眠たそうじゃないです?」
「ぜんぜん! トリツィアの歌、もっと聞きたい」
トリツィアは酔っぱらいというのをそんなに見たことはない。大神殿ではそこまでお酒におぼれている人はいないし、基本的には周りに酒飲みは女神様以外いない。
(こんなに酔っぱらうものなんだなぁ。でもこういう女神様も可愛い。それに女神様がこんな風な姿を見せてくれているのは、友達だと思ってくださってるからだろうし。それにしても酔っぱらっている女神様のことをどの段階でクドン様に任せるべきなのかなぁ)
トリツィアはそんなことを考えながら、周りにいる精霊たちに目配せする。
「精霊たち、クドン様に一応連絡だけしてくれる?」
『分かった!!』
「もぅ、まだ呼ばなくていいわよぉ」
へにゃりと笑う女神様。しかし一応呼んでおいた方がいいだろうなとトリツィアは精霊たちに頼んだ。
「トリツィアは本当に可愛いわねぇ」
酔っ払い女神様はトリツィアの顔をまじまじと見ながらそんなことを言う。
「女神様の方が可愛くて綺麗ですよー」
「ふふっ、ありがとう。トリツィアは可愛くて、強くて、いい子よねぇ。髪の毛もさらさらだし」
女神様はそんなことを言いながら、トリツィアの長い髪をいじり出した。
「トリツィアは髪型変えたりしないわよねぇ。ちょっと、いじってもいい?」
「いいですよー。でも髪留めとかないかもです」
「精霊たち、持ってきて!!」
女神様は顔を赤らめたまま、精霊たちに命じる。
……そうすればすぐに美しく輝く青色の宝石のついた髪飾りがその場に現れる。
「女神様、これ、貴重なものじゃないですか?」
「そうねぇ。ちょっと珍しいものかもしれないわ。でもトリツィアには似合うと思うの」
女神様はそう言って微笑むと、トリツィアの髪をいじり始めた。
その所作は慣れたものである。
「女神様って誰かの髪をこうやって結んであげたりよくしているんですか?」
「昔よくしていたの。私が人間だったころ、妹が二人いたから。年が離れていたから私がよく結んであげてたわ。なんだか懐かしいわねぇ」
ソーニミアは、この世界に昔から存在している女神様である。
その女神様が人間だったころというのは、随分昔のことだろう。しかしその頃のことは女神様にとっては特別なものなのかもしれない。
トリツィアは女神様が楽しそうにしているので、されるがままになっている。
彼女自身は自分の髪をいじることに特に何の関心も持っていない。しかし女神様が楽しんでくれるのならば、時折髪型を変えてもいいのかもしれないななどと考えている。
「やっぱりトリツィアはどんな髪型も似合うわね。可愛いわ。ね、この髪型のままこれを歌ってみて」
「わかりました!」
女神様に望まれるままにトリツィアが、アニソンを一曲歌えば女神様は大変満足した様子を見せていた。
「トリツィア、最高だわ!! ふふ、トリツィアって可愛くて強いから、私が好きなアニメの主人公みたいなのよねぇ」
女神様は一通り騒いで、はしゃいだ後に気づいたら静かになっていた。
女神様に望まれるままに歌を歌っていたトリツィアは、静かになった女神様を見る。
すやすやと気づいたら女神様は眠っていた。
「ええっと、とりあえず毛布だけかけてあげましょう」
神である彼女が風邪を引くことはまずないであろうが、念のため毛布をかぶせる。
しばらく女神様の寝顔を見ていると、その場にクドンが現れる。
「ソーニミアは寝ているのか」
「クドン様、こんばんは!! 女神様は眠ってしまいました。酔っぱらいすぎるとこうなるんですねー」
「よっぽどトリツィアに気を許しているんだろう。ソーニミアは他の神の前でもこんな風には気を抜かない」
「それは嬉しい限りですねー。女神様が楽しんでくれたのならばよかったです」
ソーニミアの夫であるクドンが急に現れたにもかかわらず、トリツィアはいつも通りの様子である。
「トリツィア。魔王と魔神が手に負えなくなったら俺かソーニミアに言うように」
「ありがとうございますー。でも大丈夫ですよ。私がきっちり、躾ますから」
「そうか。ならいい」
それだけ言うとクドンは、ソーニミアをお姫様抱っこしてそのまま神界へと帰っていくのであった。
その後の片づけはトリツィアと精霊たちで行った。




