ペットが増えたよ ①
「ほら、マオ、ジン、餌だよ。食べて」
魔神は結界に閉じ込められたことで、トリツィアにかなわないことを理解した。
そして出してもらうためにはどうしたらいいか……とトリツィアに問いかけた後、どうなったかと言えば……。
「わぉおおん」
「わふぅ……」
トリツィアの目の前には、小さな犬のような姿をした二匹。
……色違いの二匹は、鳴き声をあげながら、トリツィアを見上げている。
そのうちの一匹は、何とも言えない表情である。
「ジン、もっとご飯ちゃんと食べないとだめだよ? ほら、食べて」
「わぅ……」
トリツィアから声をかけられたジンと呼ばれたその存在の正体は、件の魔神である。
……魔王であるマオと同じく、漏れなくペットとしてトリツィアに飼われることになってしまったのだ。
これは女神との相談で決まったことであった。
巫女姫も魔神がペットへと下った場を目撃していた。トリツィアという巫女の圧倒的な力を前に、魔王も魔神も等しく平等である。
ジンと名付けられた魔神は、大人しく餌を食べていた。
トリツィアは餌を食べたジンの頭を撫でまわすと、「後でまた来るからね」と言って去って行った。
残されるのはマオとジンだけである。
「……我を下しておきながら、ペットにするとは」
「文句を言っても仕方がない。ご主人様はそういう人なのだ」
「お前は……順応しすぎではないか? 魔王でありながら、人の子に下ったままで満足しようとしているのか? もっとどうにかあの者の支配から免れようと思わぬのか?」
ジンは何とも言えない表情で、マオのことを見ている。
魔王であるというプライドなど、もう既にマオにはない。そんなものを持っていたところでトリツィアとオノファノの前では無意味だと既に理解しているのだ。
「思わない。というより、ご主人様とオノファノ様にはどうあがいても勝つことは出来ないと我は理解しているのだ」
「あきらめが早すぎる。お前があの巫女に下ったのは最近のことだろう? あの巫女だっていずれ老いる。寿命が短いのだからどうにでもできよう」
「おそらく無理だと思う。我らはご主人様に縛られている。おそらくその力はご主人様が亡くなったあとも継続するだろう。……それにあれだけ力のあるご主人様たちが何を成し遂げるのか見るのも楽しいものだ」
「ふんっ、すっかり飼いならされおって。なんと情けない。確かにあの力はすさまじいものだが、だからといってこのままでいいはずがなかろう。我は必ず、あの者を下して見せる!!」
ジンは今はまだトリツィアに縛られていても、このままで終わるつもりはないようだった。
――いつか、トリツィアから解放され、魔神として好き勝手生きていくことを夢見ている。
トリツィアの力を目の当たりにしたはずなのに、いまだにそういう風に考えてしまうのは彼女の力がどれだけ凄まじいかを理解出来ていないからだろう。
マオは決意するジンの様子を見ながら、水を飲んでいる。
(……ご主人様とオノファノ様の力の一部しか、魔神は理解していないのだろう。だからこそまだいつか勝てるはずだと夢を見ているのだ。ご主人様は特にどうしようもないほどの規格外なので死したあともどうすることも出来ないだろう。……それにご主人様たちの命が失われるまでの間、ペット生活を続けていれば……我も魔神もどんどん影響されて変わっていきそうだ)
マオは今のペット生活をなんだかんだ気に入っている。
のんびりとしたただ養われるだけの日々。トリツィアとオノファノをどうすることも出来ないのだから、大人しくのびのびと過ごしている方が楽である。
下手に抵抗をしても痛い目に遭うだけだ。
(きっとその力を目の当たりにして、我と同じようになるだろう。魔神にとってもこのようなペット生活はしたことがない経験のはずだ。そのままその生活にきっと慣れていくのだろう)
マオには、ジンのその未来がすぐに想像できる。それはマオ自身が歩んだ道である。
「我が解放された後には、お前のことを配下にしてやろう。お前は腑抜けた奴だが、仮にも魔王だ。我の役に立つが良い」
「……おそらく無理だと思うが」
「無理などと言っているから無理なのだろう。我は絶対にまた返り咲くのだ!!」
決意するジンに対して、マオは適当に返事をしていた。
それも絶対にトリツィアをどうにかすることは出来ないと、その力を信頼しているからである。
そのまま放置していても問題ないが後から面倒なことに巻き込まれたら困るので、マオはトリツィアにジンのことを念のため報告していた。
「いい子ね。じゃあジンのことは悪いことしないように躾けないと。本当に悪さをし続ける子は駄目だもんね!!」
トリツィアはマオの頭を撫でながら、そう言って笑うのだった。
そしてペットであることを認められないジンの無駄な努力が始まるわけである。




