VS魔神 ①
魔神と呼ばれるものは、その名の通り神である。
人の届かぬ領域にいる存在。人がどうにかすることが烏滸がましいとされている存在。
――しかし、人々はほかならぬ神の力を借り、力を合わせてその存在に立ち向かう。
巫女姫もそうして神からの神託を受けた上で、魔神への対応をすべくこの場所までやってきた。
だけれどもその場に出現したそれを見て、巫女姫はひるんでしまった。
歪んだ空間から現れた、人型の何か。
――明確に人ではないことは分かる。
その黒い何かは、人々を威圧するような力を常に放っている。
だからこそ、普通の人々はその存在を前にひれ伏すしか出来ない。
そのことを事前に巫女姫は聞いていた。そのため一緒についてきた者たちにはこの場から離れるように言っていた。神からの神託で、その対応も聞いていた。
これから魔神に対してどういう対応をすべきか分かっているのに、その足は怯んでしまう。
「そなたが今の、巫女姫か。……妙だな。お前じゃない」
その魔神は言葉を発する。
知性のある化け物。神と呼ばれる何か。
それは不思議そうに、巫女姫のことを見た。
「……貴方の対応は、私がします! 覚悟なさってください」
巫女姫は、怖れながらも声をあげた。その声は決意の証だった。巫女姫は、信託で教わった通りに神聖なる力を編んでいく。
――魔神をこの場から退かせるための聖なる力。
それは巫女姫が全力を出した力。
……その力は、魔神へと到着する前に消し飛ばされる。
「え?」
「ふむ。この程度か」
時に世の中とは、予測不能の事態に苛まれるものである。
神と言えども万能ではない。巫女姫に対して神託を下した神にとっても予想外の出来事。
――今までこの世界にやってきていた魔神よりも、それの力は強かった。
「この場で大きな力の波動を感じた。それの主はお前じゃないだろう。我にとっても脅威となる力の主は、何処にいる?」
もしかしたらこの魔神はトリツィアという強大な力に惹かれてこの場にやってきたからこそ、神の想像を上回るような力を持ち合わせているのかもしれない。
世の中は様々なものが影響しあって進んでいる。
トリツィアという、規格外の存在が産まれたからこそそういうことが起きているのかもしれない。
(ああ、怖い。恐ろしい。魔神と呼ばれる存在なだけあって、人が立ち向かえるようなものじゃない。神託で授かった術でも上手くいかなかった。それだけ、目の前のこの魔神が強大な力を持ち合わせているということ)
巫女姫は、確かに恐れている。
目の前の、自分の力が効かない存在のことを。
巫女姫はトリツィアという規格外の少女を抜きにすれば、最も巫女としての適性が強いものである。
だからこそ、基本的に今まで挫折というものをしてこなかった。
トリツィアという少女に出会って、自分よりも圧倒的に力のある存在のことを知ったけれど――それでも巫女姫としての意地はある。
(……ここで、トリツィアさんに助けを求めることは簡単なこと。トリツィアさんは私が出来ないことを簡単に成し遂げる人。……でも、私はこの国の巫女姫だからこそそんな風にトリツィアさんに甘えっぱなしでいいはずがない)
――巫女姫としての、意地とプライド。
それがあるからこそ、出来る限りのことは自分の力で成し遂げたいと思っている。
神にも予想外のことが起きているとはいえ、それでも自分が神によりなすべきとされたことだから。
――自分の力が通じない? 魔神は自分に興味がない? 大きな力を持つトリツィアを探している?
そんなもの、言ってしまえばどうでもいい話なのだ。
魔神への対応を定められたのは巫女姫で、今魔神と対峙しているのも巫女姫だから。
――彼女自身が決めて、そして此処に立っている。
「こちらを見なさい!」
――自分の存在なんてどうでもいいと言う風に、特に関心の目も向けない魔神。
その魔神に向かって、人生で一度も出したことがないほどの聖なる力をありったけ込める。
巫女姫は自分にこんな力があったのかと、驚く。今までどんな状況でもこれだけの力を込められたことなどなかったから。
その力は魔神をどうにかすることは出来なくても、興味を引くには十分だった。
その聖なる力は、魔神の身体の一部を焼いた。魔神は、巫女とは相いれない存在である。その力を魔神が脅威に感じるのは、巫女の力が自身を害する可能性があることを十分に知っているから。
――トリツィアの力に惹かれて此処にやってきた魔神は、巫女姫への認識を改める。
「ふんっ、そなたもそこそこやるようだな。しかしその程度では我をどうにかすることなど出来ぬ。しかしその力、そのまま放置も出来ぬ」
興味を引かなければ、そのまま捨て置かれただろう。
だけど巫女姫は自分の力を示してしまった。
だからこそ魔神は巫女姫を放っておけなくなった。
魔神が迫る。力を出し切った巫女姫は動けない。
――そのまま、巫女姫は魔神に取り込まれてしまうはずだった。
「巫女姫様に何しているのー?」
トリツィアという規格外さえいなければ。




