第一話 白き少女
今日は良い朝だ。雲ひとつない気持ちの良い青空。暑過ぎず寒すぎずのこのちょうど良い気温は誰もが好む天候だといっても過言ではないだろう。
こんな天気の日には、外にでも出てショッピングにでも出るのが妥当だろうが、あいにく、こういう天気だからこそ、体は睡眠を欲しがりだすというもの。
と、自分の欲に負けてばかりでいれば、人間は堕落してしまう生き物である。
平凡かつ平凡な人生を送ってきた平凡な俺こと『市原正之助』だが、どうしようもない平凡な俺なりに、これ以上堕落するのは少しばかり気が引けるといったもので、平凡ラインは守って生きていきたいだなんてわけのわからないことを考える次第である。
「ということで、たまには布団でも干してやるか」
何が、ということなんだ、という疑問はさておき、何もしないで一日をぐーたら過ごすよりかは、何かで体を動かした方が幾分気分が優れるというもの。それに長い間、日の目を浴びることがなかった、我がマイ布団は、今にもカビが生えてきそうな気がするように、なんとなくじめじめしていた。
一年のうち、半分近くの時間をこの布団で過ごすというのにこれではいけないな、と毎回干す時に思うのだが、何故にか行動に移せないでいたのが現状だった。
「はっきりいって面倒なんだよな……」
そんなこと言っていて、本当にカビが生えてもらっても困るので、意を決して布団を持ち上げて、ベランダに出る。
窓を抜けると爽やかな風が、前髪をなびかせる。
「いやぁ、気持ちい」
「ひとつ、尋ねたい」
爽やかな風の先にいたのは、背中に羽を生やした天使のような少女だった。
「……は?」
人間、本当に思いがけない状況に出くわすと、意外と大きな声を出せないものだとこの時に初めて知った。かろうじて出たのが「……は?」ぐらいなものだ。
俺が、住んでいるこの部屋は五階にあり、少女はベランダの塀の外にいて、つまりは空中にいるということになるわけだ。
「聞こえてる?」
「いや、聞こえてません」
反射的にそう答えて、何事もなかったように部屋に入り、窓を閉め、鍵をかけ、カーテンでさえぎる。
そう、今、俺は何も見ていないし、何事もなかったのだ。うん、そうに違いない。最近、バイトが連勤続きで疲れているんだろう。それに、昨日夜に再放送でやっていたアニメ『魔女っ子天使ルリカ』なんて寝る前に見たから、あんな、白いワンピースを着た少女に白い羽のオプション付きだなんてナイスな幻想が見えてしまったのかもれない。
ドンッ、ドンッ
窓を何かが叩く音が聞こえる。
心臓が少し音を立て始める。
ゆっくりとカーテンを指でつまみ、窓を覗いてみる。
「……は?」
本日二度目の「……は?」が入ります。
窓の外を覗いてみると、窓の前に立ち無表情ながら、上目遣いでこちらに訴えかけてくる。
どうする、開けてみて大丈夫なのか?と、思ったが、なんだかこちらが悪いような(それくらいのある意味の眼力で訴えてきた)気がしてきたので、窓を開けてみる。
「何故、閉めた?」
無表情な顔だが、明らかに機嫌を損ねているような、そんなオーラをかもし出すようにこちらを睨みつけてくる。いや、睨んでというのは、俺が誇張して言っているだけなんだが。
何故だ。何か俺はこの子に対して悪いことをしたのか?
そんな俺の意図も無視に、羽の生えた少女は口を開く。
「私は、尋ねたい」
「はぁ……なんでしょうか?」
少女は、一度息を吸い直してから、俺をまっすぐに見据えてこう言う。
「あなたは『市原正之助』?」
知らない奴に、いきなり自分のフルネームを言われて気持ちの良かったことは一度もないが、それが、得体の知れない羽の生えた少女だったらなおさらだ。
「そう、だけど……あんた、一体なんなんだ?」
白い肌、白いワンピース、日本人とは確実に思えない白銀のような色をした、腰にまで届く長い髪、そして、背に生える白い羽。
本当に、背から生えているのかは、ちゃんと確認をしているわけではないので、定かではなかったが、ふわふわとかすかに動くそれは、天使の背に生えているようなそれに思えた。
それとも、本当に……天使なのか。
「私の名前は、カルア・ディザイアルドゥ……」
「いや、名前を聞いているわけじゃなくて……」
俺の声をさえぎるように、少女の冷たい視線が突き刺さる。その風貌に似つかないほどの鋭い視線は、一瞬たりとも俺を離さず、そして、少女の小さな唇から、驚くべき言葉が無機質に吐き出される。
「私は……『死神』」
思い立ったが吉日、後は全てが凶日。
ってなことで、書き始めてみました『白き死神は』
構成がいまいちまとまってないですが、まぁ、のらりくらりやってこうかな、と思っている次第であります。
更新スピードは、いやはや、亀よりものろいですが、読者の皆様様がた
よろしくお願いします。