表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

堂々と片付けない

作者: 京本葉一

 同期のタカコは、部屋の掃除をしない。

 映画の好みは同じで、いままで何度となく遊びにきているけれど、そのたびに部屋の片づけから始めている。

 私ひとりで。


「いや、ちょっとは手伝いなさいよ」


 ベッドに鎮座するタカコは、プシュッ、と缶ビールをあけた。


「だいじょうぶ。ちゃんと見守っているから」

「スマホをいじらなければいいってものでもないの。ビール片手にポップコーンを食べながら見物されても応援されている気がしないの」


 タカコはあきれたように首をふり、二本目の缶ビールに口をつけた。


「そもそも掃除をする理由がない」

「私にはあなたの衛生感覚がわからないのだけれど? このテーブルも絶対にアルコール除菌してないでしょ?」


 さすがに生ゴミの類は処分できているようだけれど、服や下着は床に散らばっており、部屋の端にはホコリの塊ができている。


「むかしむかし、あるところに潔癖症の女の子がいました」

「えっ?」

「毎日毎日、除菌に追われていた女の子は、ある日、どんな願いも叶えてくれる魔法のランプを手に入れました」

「どうして物語っているの? どうやってランプを手にいれたの?」


 私の問いかけに応えることなく、タカコはポップコーンをひとつまみ。


「女の子はランプに願いました。わたしの周りから汚いものを消してください。汚れはもちろん、すべての細菌を消し去ってください……そして、女の子は死んでしまいました」


 私が無言で見つめるなか、タカコは缶ビールをあおった。


「そう、人間はさまざまな細菌と共存している。すべての細菌を敵とみなしていた女の子は、体内にいる腸内細菌さえも消滅させてしまい、死に至ったのです」


 腸内細菌が大切なのは知っている。


「つまり?」

「細菌は味方」

「すべてが味方でもないでしょう?」

「敵の敵は味方でもある。他の細菌が繁殖すれば他の細菌は繁殖しづらい。つまり、アルコール除菌などしないこの部屋では、危険な細菌が侵入しても数を増やすことができない」


 常在する細菌が防護壁となりうるのだから、除菌はもちろん掃除もする必要がない、と言いきったタカコは、体内を除菌するような勢いで二本目のアルコールを飲みほした。


 なんであれ、私は部屋を掃除するし、タカコがそれを止めることはない。


 損をしているような気もするけれど、タカコの部屋に遊びに行ったあとは、ライブの抽選に当たったり、ちょっといいことがおこるあたり、世の中はたぶん、うまくできているのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 常在する細菌が防護壁となるという発想は、今までなかった。 うっかり、納得してしまいそうになりました笑笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ