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前世より剣戟を  作者: 水無月秋名
第一章 始まりの輪廻
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第四話 冒険者

 冒険組合に登録するのは簡単である。受付に話して名前を登録して、自分の戦闘力を登録する。

 ゲームをしていたときは、そこがキャラクリエイト画面になっていた。

 

「はぁーい、この紋章に手を載せてくださいねぇ」


 冒険者たちの喧騒の中でも、はっきり聞こえてくる受付嬢のお姉さんの言葉。ガラス越しのお姉さんは、営業スマイルを見せていた。

 促されるままに、受付近くの白い紋章が描かれている台に手を乗せた。ウィンドウのようなものが手元に表示される。

 

――ゲームのステータスウィンドウに似てるな。


 表示されていたのは、自分の今の能力値。筋力、魔力、体力、カリスマ、俊敏性、運。やっていたゲームに酷似しているのは、見やすくて助かった。

 

――こう見ると高いな。


 ステータスは最高がSSで最低がF。イリスは筋力がC以外はすべてがS。運に至っては測定不能という文字が出ていた。

 分かりやすく比較をだすとすれば、前に使っていた長身の騎士のステータスは、平均がA。こう見ると、初期ステータスからこれは非常に高いと言えるだろう。

 受付嬢が椅子を鳴らすように立ち上がった。その顔は焦っているように見える。

――無理もないか。

 イリスは一つため息を漏らした。

 

「どうしました?」


 極めて冷静に、立ち上がった受付嬢を見上げ、首を傾げた。

 

「い、いえ。イルアスさんの冒険者登録が完了しましたぁ。まずは、五級冒険者として登録しますねぇ」

「分かりました」


 冒険者にもランクがある。五級冒険者は最底辺。というより、新米の冒険者。一級になれば昇格の試験があり、さらなるランクへと昇格のチャンスが与えられる。まぁ、このあたりの説明などは今は不要だろう。

 できれば、一級スタートがよかったのだけれど、そこは文句は言えない。冒険者の証のブレスレットを受け取って、そのままの足で依頼が貼りだされている掲示板に向かう。

 振り返れば、受付嬢同士がヒソヒソと話している。噂になるのも時間の問題かもしれない。

 

――そのほうが都合がいいか。それよりも……だ。


 掲示板を見て絶望する。五級用の依頼など、雑魚魔物狩りや迷子のペット捜索。これといって知名度を上げれそうにない。だったらと、横を確認する。

 大男が立っていた。身に付けているブレスレットを見ると、三級冒険者である。この町なら最高ランクに等しい。

 

「あの……」


 できるだけ笑顔を作って話しかける。

 

「よろしければ、僕と一緒に依頼をしませんか?」

「あぁ……?」


 男が睨めつけるように、イリスを見下ろす。ブレスレットを見て、鼻を鳴らした。

 無視して振り返り、男は仲間のところに行ってしまった。

 

――だよな。


 五級冒険者など、誰も相手にしない。

 

 こうなったら地道に稼ぐしかないのか。どれほど時間が残されているか分からない今、できるだけ近道をしたいのだが。

 掲示板から一つの依頼を取ろうと手を伸ばしかけた。

 

「あ、あの……」


 か細い声がイリスの動きを止めた。

 

「い、イルアスさんですよね……?」


 振り返ると、そこには同じ背丈の少女が立っていた。黒髪赤目の少女だ。ショートカットの前髪をいじり、気弱そうに目じりが下がっていた。いかにも自信なさげな少女である。

 ブレスレットを確認する。どうやら三級冒険者のようだ。

 

「そうですが、あなたは?」

「ひゃ、ひゃい! わ、わたしはミャリュ」

「ミャリュ?」


 あわあわと、少女は口元を抑えている。

 

「落ち着いて、深呼吸してから話してください」

「は、はい……っ!」


 イリスの言葉を聞いて、少女は深呼吸している。

 

 こんな少女が三級冒険者ね。大丈夫なのだろうか。

 

「わ、私はマリル・シュゲル……です! よ、よければ一緒に依頼をしませんか!」


 彼女は言えたことに喜び、その場でガッツポーズを作っていた。

 心配だ……。

 

「別に良いですが、僕は五級ですよ?」

「さ、さっき……受付さんとのやり取りを……聞いて……」


 なるほど、だったらお言葉に甘えようかと首を縦に振った。

 彼女の表情が輝く。振り返り、嬉しそうに仲間たちの元へと駆け寄っていた。しばらく何事かと話していると、仲間たちは喜ぶように腕を突き合わせている。

 

 

          ◆

 

 

「オレは、スレン・ホドフだ。このパーティのタンクをやってる! よろしくな!」

 三級冒険者用の魔物討伐に向かう道中、自己紹介をすることになった。

 最初に名乗ったのは、快活そうな青年だった。重鎧を身にまとった、黒髪赤目の男である。手を伸ばしてくるので、無下にも扱うことはできず握り返した。無駄に力が強かったことに苦笑いを浮かべる。

 

「あたしは、ドミーア・シュバ。魔法使いよ、よろしくね」

 黒い長髪の女性だった。長身で、赤い瞳がこちらを見下ろしていた。どこか妖艶な雰囲気を出して、唇を触っていた。舌をちろりと出すのは彼女の癖だろう。

 

 ここに勧誘してきたマリル。そしてイリスを加えて四人というわけだ。

 マリルはこう見えて、前衛の剣士を務めている。ホドフとスイッチをして戦いながら、後ろでドミーアが援護するといった戦術で、今までやってきたと予想する。

 

「わ、私たち……さ、三級になったばかりで、さ、三人でやっていけるか不安……だったんです」

「ほぼS判定のイルアスさんが仲間だと頼もしい頼もしい! オレとしても、タンクとしてやりがいがあるよ」

「回復のことはあたしに任せてくれたらいいよ」


 三人は和気藹々としている。イリスは謙遜しながら、頭の中で目標を反芻した。

 

 目標はウルフェンのボス。狼型のモンスターだ。ここらでは一番の脅威となっている魔物である。集団で襲ってくることが特徴。個体では大したことないが、油断はできないモンスターとなっている。

 四級冒険者が一人では、まるで歯が立たない。三級冒険者が一人だと、苦戦は必至。そういう評価をされている。

 

「三級になったばかりだったら、もっと簡単な任務もあったのではないですか?」

「そ、そうなんですが……」

「オレたちは、帝国に力を早く示したいんだ。そして、近衛兵になる」

「あたしたちは村にそう誓って、出てきちゃったからねぇ」

「なるほど」


 力を示したいなら、難しい任務を遂行する。そこはやはりどこも一緒らしい。

 利害は一致している。彼らと一緒にいない道理はない。

 

 さて、数値化では自分の戦闘力を見たが、やはり実戦でステータスを把握するしかない。この体の動きにも、慣れるしかないだろう。ゲームの時のような自分のリーチを生かしての戦闘は、無理と考える。

 それに、筋力が低いため、重い装備も持てなかった。今まで両手剣を使っていたが、片手剣にクラス替えをするしか選択肢がない。

 マデルとノデアが用意してくれた軽装鎧。そして銀色の片手剣。突貫で用意されたにしては、まだ良い装備だろう。

 軽く装備に触れる。初期にしては上々、ここら一帯で死ぬことはまずない。

 

「あ、あの……」


 いつの間にか隣にいたマリルが話しかけてきた。

 

「ひ、引き受けてくださって……あ、改めてお礼を言わせてください」

「こっちも都合がよかっただけです。お礼を言われることはありません」

「そ、それでも……う、うれしかったです」


 怯えながらも笑う彼女の表情は、どこか犬を彷彿とさせた。自然とイリスは微笑みを返していた。

 

 

          ◆

 

 

「子犬がぞろぞろやってきて~♪ 狼わんわん吠えている~♪」


 紅い目をした童女は、町中でスキップする。

 楽しそうに手を上げ、楽しそうに歌う。

 

「狼舐めてかかって返り討ち~♪ 子犬たちは久しぶりの食事にありつける~♪」


 その姿は年相応に見えた。しかし、瞳はどこか酷く濁っており、見つめる者を凍らせてしまうような気配を帯びている。

 自然と、本当に自然と町中の人々は、彼女のことを避けている。

 

「でも、気を付けてね銀色さん。“赤い瞳”は裏切りの証。あはは、あっはははははは!」


 彼女は嗤う。

 

 ただ、楽しそうに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは。「前世より剣戟を」読みました。実はこういうタイプの小説読むのは初めてなんですが、読みやすかったです。 [気になる点] まだ序盤なので、これから色々展開していくのだとは思いますが…
[良い点] 読ませていただきました。明人以外にも、プレイヤーが複数異世界に転移してきているというところに興味を惹かれました。彼らと王国復興のために協力し合うのか、はたまた帝国側の強敵として描かれるのか…
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