第二十二話 勝機を見出すため
剣戟が鳴る。イリスとリュウの剣技が、ぶつかり合う。火花が散り、金属音が響き渡る。
剣技は、イリスのほうが上だった。しかし筋力は、リュウのほうが上だ。総合的に、戦闘力は拮抗していた。
「≪スラリア≫!」
剣同士が弾かれた瞬間を狙って、イリスは詠唱した。
現れたのは、雷。普段、形を持たないはずのそれは、形を成していく。槍に変形し、リュウに向かって飛んでいく。
彼は右手を伸ばしていた。無謀にも、雷の槍を手でつかむ。
「……くっ!」
全身を電気が伝う。しかし、怯まない。自分が死なないと分かっているからこそ、できる芸当であった。
「や、やぁ!」
マリルが鈍ったところを狙って、隙をついて行く。彼女の攻撃は、リュウの肩口を深く傷をつけた。
肉に剣をめりこませたまま、リュウがマリルの剣を握る。
「……ッ!」
彼女が剣を抜こうとするのだが、びくともしないようだ。
「何をしてる、離れろ!」
ラルフが叫ぶと同時に、マリルが剣から手を放して退避した。イリスもリュウから離れる。
リュウの瞳が輝く。魔力が、全身を駆け巡っているのが分かる。
「……≪フォルカッチャ≫」
静かに呟かれた。同時にリュウの体が、爆散する。
轟音と爆風が巻き起こる。血と肉が細々になって、周囲に飛び散った。
煽りを受けて、イリスたちは数メートル吹っ飛んだ。リュウの肩に刺さっている剣が勢いよく飛んで、すぐ近くに刺さる。
幸いなことに、気絶している村人たちへの被害はなかった。イリスは頬についた土と血を拭った。
「う……う、うぅ……」
マリルは臭いと周囲に飛び散った血の光景からか、口元を抑えていた。よろりと立ち上がり、顔をしかめていた。
「……休んでる暇はないよ」
イリスが言うと、彼女は首を縦に振る。
地面に刺さった剣を抜いて、マリルは再び構える。
周囲に飛んだ肉片や血が集まっていく。再び、体を形成しようとしていた。
現実離れした光景に、もはや化け物だなと心の中で舌打ちをする。
「……?」
肉片が集まっていく光景を目にして、違和感を覚えた。
体が形成していくとは別に、リュウの体から“光る何かが霧散していく”。
血がなくなった地面を見ると、白く輝く何かのかけらが落ちていた。
イリスは気がつけば、それを手に取っていた。
それは徐々に輝きを失って行き、砕け散るように霧散する。
わずかだが、魔力の流れを感じたような気がした。魔力を宿らせた石のことを、イリスは覚えがある。
――魔晄石?
確かに、込められた魔力が尽きれば魔晄石はなくなってしまう。これはゲームの時からの知識だ。
しかし、この石は何の魔力を込められていた?
リュウの体から散っているところを見ると、彼が所有していたものに違いなかった。だけれども、リュウは魔晄石を使うようなそぶりをどこにも見せていない。
「どうした?」
ラルフが怪訝そうな瞳をこちらに向ける。
「……いや、ちょっと考え事を」
「そんなことしてる場合か?」
「そうなんだけど……」
頭をフル回転させる。
結論、思い至る。頭の中によぎった可能性を、首を振って否定する。だが、それ以外に思いつかない。
もし、本当にイリスの考える答えがあっているなら、勝機を見出せるかもしれない。
「ふぅ、いつものことだけど、体が元通りになる感覚って気持ち悪くていやだね」
リュウは動作を確認するかのように首を鳴らしている。ご丁寧に、服まで元通りだ。
「……そんな感覚、あんた以外感じないでしょ」
「ま、その通りだ。まだやるかい? いくら僕を殺しても意味がないって分かっただろ?」
「そんなの、やってみるまで分からないでしょ」
イリスは静かに剣を構える。マリルも気持ちを落ち着かせて剣を構えた。
剣術が不得手なラルフは、一歩後方に下がってこぶしを握る。
「……マリル、確かめたいことがある」
「な、なに?」
「身体を斬るふりをして彼の服を斬ってくれない?」
イリスが言ったことの意味が分からず、マリルは首を傾げていた。少しして、分かったと首肯する。
イリスの予想が正しければ、まだいくつか持っているはずだ。リュウの死を肩代わりする魔晄石を。
そんなことがあっていいのか。あってしまえば、死さえも超越する恐ろしいものを持っているということになる。
本心は否定したかった。否定したいのだが、心の奥底がそれしかないと言っている。
確かめるすべは――
「この目で見るしかないよな」
わずかな勝機に賭けて、イリスは踏み込んだ。




