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前世より剣戟を  作者: 水無月秋名
第一章 始まりの輪廻
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第二十二話 勝機を見出すため

 剣戟が鳴る。イリスとリュウの剣技が、ぶつかり合う。火花が散り、金属音が響き渡る。

 剣技は、イリスのほうが上だった。しかし筋力は、リュウのほうが上だ。総合的に、戦闘力は拮抗していた。

 

「≪スラリア≫!」


 剣同士が弾かれた瞬間を狙って、イリスは詠唱した。

 現れたのは、雷。普段、形を持たないはずのそれは、形を成していく。槍に変形し、リュウに向かって飛んでいく。

 

 彼は右手を伸ばしていた。無謀にも、雷の槍を手でつかむ。

 

「……くっ!」


 全身を電気が伝う。しかし、怯まない。自分が死なないと分かっているからこそ、できる芸当であった。

 

「や、やぁ!」


 マリルが鈍ったところを狙って、隙をついて行く。彼女の攻撃は、リュウの肩口を深く傷をつけた。

 肉に剣をめりこませたまま、リュウがマリルの剣を握る。

 

「……ッ!」

彼女が剣を抜こうとするのだが、びくともしないようだ。


「何をしてる、離れろ!」


 ラルフが叫ぶと同時に、マリルが剣から手を放して退避した。イリスもリュウから離れる。

 

 リュウの瞳が輝く。魔力が、全身を駆け巡っているのが分かる。

「……≪フォルカッチャ≫」


 静かに呟かれた。同時にリュウの体が、爆散する。

 轟音と爆風が巻き起こる。血と肉が細々になって、周囲に飛び散った。

 

 煽りを受けて、イリスたちは数メートル吹っ飛んだ。リュウの肩に刺さっている剣が勢いよく飛んで、すぐ近くに刺さる。

 幸いなことに、気絶している村人たちへの被害はなかった。イリスは頬についた土と血を拭った。

 

「う……う、うぅ……」


 マリルは臭いと周囲に飛び散った血の光景からか、口元を抑えていた。よろりと立ち上がり、顔をしかめていた。

 

「……休んでる暇はないよ」

 イリスが言うと、彼女は首を縦に振る。

 地面に刺さった剣を抜いて、マリルは再び構える。

 

 周囲に飛んだ肉片や血が集まっていく。再び、体を形成しようとしていた。

 現実離れした光景に、もはや化け物だなと心の中で舌打ちをする。

 

「……?」


 肉片が集まっていく光景を目にして、違和感を覚えた。

 体が形成していくとは別に、リュウの体から“光る何かが霧散していく”。

 血がなくなった地面を見ると、白く輝く何かのかけらが落ちていた。

 

 イリスは気がつけば、それを手に取っていた。

 それは徐々に輝きを失って行き、砕け散るように霧散する。

 

 わずかだが、魔力の流れを感じたような気がした。魔力を宿らせた石のことを、イリスは覚えがある。

 

――魔晄石?


 確かに、込められた魔力が尽きれば魔晄石はなくなってしまう。これはゲームの時からの知識だ。

 しかし、この石は何の魔力を込められていた? 

 リュウの体から散っているところを見ると、彼が所有していたものに違いなかった。だけれども、リュウは魔晄石を使うようなそぶりをどこにも見せていない。

 

「どうした?」


 ラルフが怪訝そうな瞳をこちらに向ける。

 

「……いや、ちょっと考え事を」

「そんなことしてる場合か?」

「そうなんだけど……」


 頭をフル回転させる。


 結論、思い至る。頭の中によぎった可能性を、首を振って否定する。だが、それ以外に思いつかない。

 もし、本当にイリスの考える答えがあっているなら、勝機を見出せるかもしれない。

 

「ふぅ、いつものことだけど、体が元通りになる感覚って気持ち悪くていやだね」


 リュウは動作を確認するかのように首を鳴らしている。ご丁寧に、服まで元通りだ。

 

「……そんな感覚、あんた以外感じないでしょ」

「ま、その通りだ。まだやるかい? いくら僕を殺しても意味がないって分かっただろ?」

「そんなの、やってみるまで分からないでしょ」


 イリスは静かに剣を構える。マリルも気持ちを落ち着かせて剣を構えた。

 剣術が不得手なラルフは、一歩後方に下がってこぶしを握る。

 

「……マリル、確かめたいことがある」

「な、なに?」

「身体を斬るふりをして彼の服を斬ってくれない?」


 イリスが言ったことの意味が分からず、マリルは首を傾げていた。少しして、分かったと首肯する。

 

 イリスの予想が正しければ、まだいくつか持っているはずだ。リュウの死を肩代わりする魔晄石を。

 そんなことがあっていいのか。あってしまえば、死さえも超越する恐ろしいものを持っているということになる。

 本心は否定したかった。否定したいのだが、心の奥底がそれしかないと言っている。

 

 確かめるすべは――

 

「この目で見るしかないよな」


 わずかな勝機に賭けて、イリスは踏み込んだ。

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