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前世より剣戟を  作者: 水無月秋名
第一章 始まりの輪廻
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第二十話 ――そして、相対する

 サーシャの絶叫が響き渡る。彼女の周りを渦巻くように、黒い波が湧き上がっていた。イリスは直感的に、まずいと感じる。

 

「マリル! ラルフ! 離れて!」


 イリスの声に反応するように、二人は離れた。彼女に操られた村人たちは、もうすでに全員気絶している。できればサーシャの近くから避難させたかったが、そんな余裕はもうない。

 

――まずい。

 何がまずいかさえ分からないから、まずい。今、ここで、彼女を中心に、何かが起ころうと、している。

 

「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!」


 絶叫が響き渡り、そして――

 

「……まったくもって、いつまでも世話が焼ける」


 聞き覚えのある声が、聞こえてきた。

 頭を抑えて喚くサーシャの近くに、リュウが立っていた。

 

 彼は有無を言わさず、彼女を斬りつけた。

 

「……――ぁ」


 小さな声を漏らして、童女は倒れる。赤い血に濡れて。彼女の魔力暴走は止まっていた。

 

 イリスの心内に、助かったという気持ちと仲間を躊躇なく斬ったリュウへの嫌悪感がない交ぜになる。

 

「なんだ? その顔。君にどうこう言われる筋合いはないな」


 イリスの表情で心をくみ取ったリュウは肩を竦める。

 

「この娘が暴走すれば、君たちも助かっていなかった。むしろ、僕は君たちの命の恩人だと思うけどね」

「……」


 言葉を返す気にはなれなかった。ただ、リュウを睨みつける。

 

「りゅ、リュウ……」


 そんな中、か細いサーシャの声が聞こえた。彼女は血だまりの中で、震える手を伸ばしていた。

 その手を誰もつかむ者はいない。

 

「ありが……とう…………」


 彼女がお礼を述べると同時に、黒い魔力に奔流されて消えた。その様子を見て、リュウは苦々しい表情とともに舌打ちをする。

 

「“やつら”は、まだあの娘を酷使するつもりらしいな」


 さてと、振り返り近づいてくる。

 

「長くなったけど、勝負をしようか。今は厄介なあの姉妹はいない」


 彼は一歩近づいて、片手で剣を軽く振る。そんなリュウに、マリルが飛びかかった。

 

「――ッ!」

「そう急ぐなよ。君には君の使い方がまだある」


 振り下ろした剣を弾き飛ばされて、そのまま押し返される。一歩、二歩と後ろによろけたマリルの首根っこを掴む。

 

「……か……はっ」


 呼吸ができないのか、マリルはのど元を抑えて足をばたつかせている。

 

「女の子に暴力を振るうべきじゃないな!」


 続けてラルフが、こぶしを握って飛びかかろうとする。しかし、掴まれていたマリルを、投げ飛ばされる。思わず彼は受け止めていた。

 

「僕にとっては関係ない。宿願を果たすため、お前たちを殺すだけだ」

「戦わないって選択肢はないみたいだね」


 イリスは小さくため息を吐く。剣を抜いて、相対する。

 

「【死なずのリュウ】の名に懸けて。帝王の名の下に、イリス・フォーゲルを討ち滅ぼす」

「こっちは何も懸けるものはないね。ただ僕たちを殺すっていうなら、受けて立つだけ」

「悲しいね。名誉も何もないとは」

「ないさ。そもそもお前にもないだろ?」

「そうだな――」


 リュウが駆ける。イリスも駆ける。

 

 リュウが上から振り下ろす。イリスが下から振り上げる。剣芯どうしが揺れ、甲高い音を立てる。二人とも同じように剣が弾かれる。

 そのままイリスは踏み込んで、脇腹に向けて水平に剣を振る。同時に打ち込むように、彼が剣を受け止める。

 また二人は剣同士が弾かれて、一歩下がる。

 

「どうやら、力は同じようだ。剣技も悪くない。少し前に召喚されたものとは思えないよ」

「VRゲームで、剣技は鍛えられてるからね」

「VRゲーム……?」

「知らなくて良い!」


 片手を突き出して、イリスは炎を発生させる。小さな爆炎が起こり、煙が二人の視界を遮った。

 

「こんな小細工」


 煙の中から、リュウが振るった剣の先が出てくる。その刃を受け止めるように構えた。

 イリスの足元には、いつの間にかマリルが待機していた。彼女はイリスが剣を弾いたタイミングを見計らって、刃を突き出した。

 

「が――ッ!」


 リュウの声が響く。血が飛び散った。

 煙が晴れて、リュウの姿が露わになる。マリルの剣先は、彼の心臓部分を貫いていた。

 

「残念ながら、僕は一人で戦ってない」

「……なるほど」

「卑怯って言うなよ? 散々卑劣なことをしておいて」

「……は、言わないさ。これくらい、卑怯のうちにも入らない」

「それはどうも」


 腕に力を抜いた彼の首元目がけて、剣を振った。

 

 頸動脈が、深く傷つく。剣を抜くと血が溢れて、そのまま地面に倒れ伏せる。

 

「や、やったの……?」

 立ち上がったマリルが、自分の剣を見ていた。初めて人を刺したからだろう、その恐怖心から手が小刻みに震えていた。安心させるように、イリスはマリルの手を握る。

 大丈夫だと言うと、彼女はゆっくりと首肯した。

 

「案外、呆気ないものだな」


 拍子抜けという風に近づいてきたラルフを、イリスは慌てて押し倒す。

 

「……は?」


 意味不明といった様子のラルフの頬が、切れている。あともう少し遅ければ、彼の喉元に穴が開いていたことだろう。

 

 イリスは困惑していた彼を放ったらかしにして、すぐに立ち上がる。改めて剣を構えなおした。


「……まだやってない」

「あちゃー。さすがに、一回種明かししてるから奇襲はダメか」


 首の傷が塞がっているリュウが立ち上がっていた。


「な、なんで……?」


 マリルは訳が分からないとでもいうように、見つめていた。

 イリスは、マリルを庇うように立つ。

 

「奴は死なない。殺したとしても」

「そ、そんなの……は、反則」

「……いや、何か種はあるはずなんだ。それを探りながら戦う」


 三度みたび、イリスとリュウは相対あいたいする。

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