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序章 少女の死に何を想う

 金属の擦れる音が鳴る。火花が散る。剣戟が、野原で行われていた。


 一方は大男だった。身長は一九〇は超えているだろう。筋肉は膨れ上がり、見える浅黒い腕は細かい傷がついていた。不格好な軽鎧姿でも、数々の死線を潜り抜けてきたのだと容易に想像できる。

 もう一方は小柄な少女だった。銀色の流麗な髪は、動きに合わせて揺れるたびに美しい。肌は白く、腕は細い。到底、剣を振り回すには似合わない少女である。


 銀の少女は白銀の鎧をつけていた。傷一つなく、きれいに整備されていることは一目でわかる。


「おりゃぁっ!」


 大男が、剣を振り下ろす。少女は受け止めた。甲高い音が鳴り、再び火花が散った。


「……っく」

「いい加減諦めたらどうだい? お嬢さん」

「……っ」


 じりじりと、大男の剣芯が少女の顔に近づいてくる。力の差は歴然であった。しかし、彼女の蒼い双眸には諦めるという文字はなかった。


「≪フォルテ≫!」


 少女が叫ぶと同時に、男の眼前に炎が巻き起こる。驚いた彼は、数メートル後方に飛んだ。


「おっとと。まだ、そんな余力が残っていたとは、髪の先が焦げちまったぜ」

 わざとらしく髪先を触っている。

「往生際が悪いなぁ。仲間は全員死に、王女は殺され、街は滅んだ。投降すれば、優しくいたぶってやったっていうのによォ」


 男が大っぴらに手を広げた。


 風が吹く。少女の鼻先を血の臭いが掠める。

 今まで彼女たちが戦っていた場所は、かつて戦場だった場所である。仲間たちの死体が、そこかしこに転がっている。


 遠くにいる大男の仲間が、嘲り笑っていた。


「例え肉体が朽ちようとも、私の魂は死にません」

 しかし、少女の目は死なない。

「守るものがいなくなったとしても私は戦います。お前ら【暴挙】の思い通りになりません!」


 彼女の口上を聞いて、さらに嗤いが巻き起こった。

 みんな誰しもが、少女のことをバカにしている。いまさら何を言っているのかと。お前はもうすぐ死ぬんだと。


「辞世の句はそれでいいのか?」


 口の端をゆがめた大男が、剣を構えなおした。手に力を込めている様子を見るに、これで決着させるつもりだろう。


 少女は剣を縦に構える。顔の前に剣芯を持ってくる。まるで何かに敬意を示すかのように。


「“我、イリス・フォーゲルの名において”」

「なんだ? 諦めたか?」

「“魂にこの苦痛を刻み付け”」

「おいおい、戦い中だぞお嬢さん!」


 大男の言葉に、彼女は目もくれない。ただただつぶやき続ける。

「“その宿命を果たすまで”」

 彼が駆けた。少女目がけて、剣が降りかかった。


 右肩から左わき腹にかけて、斬りつけられる。彼女の血が周囲に飛び散った。


 後方に倒れていく中、彼女――イリス・フォーゲルは最期の言葉をつぶやく。



「“我の魂は……蘇り……続けるだろう”」



 地面に倒れたイリスは、二度と起き上がることはなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 詠唱かっけーお洒落。 そして文章表現も良き!! [一言] Twitterから来ました!! これは期待! 読み進めるであります!!(`・ω・´)ゞ
2020/05/21 22:52 退会済み
管理
[良い点] ・バトルシーンが、かっこいいです。 [一言] 面白かったのでブックマークさせてもらいました。 今後とも読み続けていきたいと思います。
[良い点] 中世ってところがまたいい
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