下
おばあさんは、自分の分だけの洗濯をしていました。おじいさんが柴刈りに行ってから三日経ちましたが帰ってきません。やはり、神隠しの噂は本当だったようです。
しかし、その日の夜、おじいさんが脇には小さなつづらを抱えて現れました。
おじいさんは
「ただいま」
と言いました。その声は、少しおじいさんの声とは違うような気がしました。
「どこに行ってんだい。心配したんだよ」
おばあさんは、震える声で尋ねました。
「いや。何せ不思議なことがあったんじゃよ。これを見てみろ」
おじいさんはそう言って、小さいつづらを開けました。中には大判小判がどっさり入っています。おばあさんはきょとんとしてつづらの中を見ていましたが、大判小判を両手に取ると小躍りを始めました。
その後、おばあさんはおじいさんにつづらをどこから持ってきたのか尋ねると、おじいさんは、こう答えました。
「切り株に座っておむすびを食べようとしたら、おむすびを落としてしまったんじゃよ。おむすびが転がっていくので、わしは必死に追いかけたんだが、おむすびが穴に入ってしまってな。すると、中から声が聞こえたんじゃ。おむすびをもうひとつ落としてみると、また声がきこえてな。それで気になって穴を覗き込んだんだが、つい覗き込みすぎてな、穴に落っこちてしまったんじゃ。するとそこはネズミの國でな。ネズミたちが餅をついておった。しばらく見ていたんだが、ネズミたちがおむすびのお礼に、この小包をくれるというんで、もっらって来たんじゃ」
しばらくたったある日、隣のおじいさんが家を訪ねてきました。おばあさんはなんとも綺麗な着物を着ていました。
「どうしたんだい。最近、妙に羽振りがいいみたいじゃないか。何かあったのかい」
隣のおじいさんが尋ねると、おばあさんはおじいさんから聞いたことを話しました。隣のおじいさんはそれを聞くと、すぐに帰っておむすびを準備し、山に出かけました。
隣のおじいさんは穴を見つけると、おにぎりを穴の中に落としました。すると穴の中から、
「おむすびころりんすっとんと」
もうひとつおむすびを落とすと
「おむすびころりんすっとんとん。もひとつころりんすっとんとん」
とまた声がしました。
隣のおじいさんは、思い切って穴に飛び込みました。
穴の底には、人がたくさんいて餅をついていました。
「こんなところにも村があったか。何がネズミの國だ。妙な嘘をつきやがって」
と隣のおじいさんは思いました。
しかし、よく見てみると、もちをついているのは人ではありません。裸で肌は雪のように白く、目はつぶれていて、鼻突き出ており、耳は非常に大きく、まるで、人とネズミとモグラを混ぜたような生き物です。隣のおじいさんは悲鳴を上げ、穴を登ろうとしますが、土が崩れてきてなかなか登れません。気が付くと、周りは白い化け物に囲まれていました。そして、腰を抜かした隣のおじいさんの顔を、化け物は杵で殴りつけたのです。杵は右頬にあたり、隣のおじいさんはうめき声を上げました。化け物がまた杵で殴りつけると、隣のおじいさんは地面に倒れ込み、意識を失ってしまいました。
しばらくたったある日、隣のおじいさんが村を歩いていたそうです。その鼻は高く、目は小さく、耳が非常に大きく、右頬にはあざがあったそうです。