中
おじいさんがおむすびを食べようとすると、手が滑って、おむすびを落としてしまいました。
おむすびがころころころころと転がっていきます。
おじいさんは、ころころと転がっていくおむすびを必死になって追いかけました。
しかし、おむすびはころころころころと転がり、穴に落ちてしまいました。
おじいさんは穴の中を覗き込みます。すると、穴の中から
「おむすびころりんすっとんとん。ころりんころりんすっとんとん」
と楽し気な声が聞こえました。
おじいさんは、聞き間違いかと思い、穴の中に、もうひとつおむすびを投げ込みました。すると穴の中から、
「おむすびころりんすっとんとん。もひとつころりんすっとんとん」
とまた声が聞こえました。
おじいさんは、目を丸くしました。
「はて、この中に誰かいるのかな」
穴のなかは暗かったので、よく見ようと、おじいさんは穴の中に頭を突っ込みました。
そのとき、最後のおむすびが穴の中に、ころころと落ちていきました。
「あっ」
おじいさんは、慌ててそのおむすびを止めようと手を伸ばしました。その拍子におじいさんは、穴の中へゴロゴロと落ちていきました。
「おむすびころりんすっとんとん。も二つころりんすっとんとん
おじいさんころりんすっとんとん。おじいさんころりんすっとんとん」
おじいさんが顔を上げると、目の前には、たくさんの人が、餅をついたり、踊ったりしていました。いや、人のようなものといった方がいいかもしれません。その人のようなものは、肌は雪のように白く、服は着ていません。つぶれた目。突き出た鼻。そして何より、耳がとても大きいのです。まるで、人とネズミとモグラを混ぜたような生き物です。
おじいさんは、妖怪だと思い、震えだしました。
しばらくすると、餅つきや踊りがぱたりとやみました。そして、一人がおじいさんに近づいてきて、
「ようこそ。根の國へ。歓迎しますよ、おじいさん。おむすびをたくさんありがとうございました。おかげで餅つきがはかどりました」
と言い、頭を下げました。
「いやいや、皆さんのためになったのなら良かったです」
と、おじいさんは、少し安心して言いました。
「おむすびのお返しです、おじいさん。ぜひ、私たちのついた餅を食べていってください」
おじいさんは、目の前に出てきた餅に、よだれを我慢できませんでした。
「では遠慮なく」
そう言うと、おじいさんは、勢いよく餅を食べ始めました。おじいさんは、その餅が少し苦いと感じました。
「この味は、何の味ですかな?」
おじいさんは尋ねました。
「さあ。少し体に悪いものかもしれませんね」
見ると、人間のようなものの口もとが笑っていました。
次の瞬間、おじいさんは力が抜け、地面に倒れ込んでしまいました。