閑話
主に召される日は近い、私はひとり呟いていた。
激動の時代であった。前教皇が世を儚んで離任されて、この世は終末の笛の音を響かせようとしている。その最中で私は出来る限りの行いをしたのだ。
そんな私が崇高な聖女を祝福したとしても、なにも恥ることはないはずだ。
幼い頃に母から聞かされた、伝説の聖女の話。私は感極まった。祖国を救わんとする高潔な精神。主に祈るかのような闘いをした彼女の逸話。
全身に雷が走るが如き衝撃とともに、いまだ列聖されず冷遇されている現状を、許すことが出来なかった。それこそが今の私の地位を築き上げたのだ。
決して平坦な道とは言えなかった。時代もそうさせたのだ。だが何度挫折しようとも、彼女の高潔な精神が、私を奮い立たせた。
天啓を受けて祖国を救い、野蛮人に汚されながらも、最期は火刑に処され、美しい顔を苦痛に歪ませながら、主のもとへ召された彼女。
その生涯を考えるだけで、アガペーが満ち溢れて、私自身が激しく奮い立つ。
想像で描かれたであろう彼女の肖像画に、毎朝私の祝福を浴びせることが、教皇として日々欠かすことのない務めとなった。その務めを見てしまった従者たちはもういない。
そしてようやく、彼女を私の名の下で、列聖することができたのだ。これ以上の幸福など望むべくもない。ならばこれからは、朝昼晩と祝福を彼女へ浴びせ続けよう。それが私の使命なのだから!
おお、ハレルヤ!おお、ハレルヤ!
聖女列聖から数年後、聖女の肖像画に祝福を浴びせながら果てた教主の姿を、従者が発見した。