第6話
「ううっ、顔が痛えよぉ…」
気絶して難を逃れた雑魚は、目覚めると、馬鹿の頭と目が合った。
「うひゃあっ!気持ち悪りぃ!」
曲がった鼻筋を無理やり戻して、詰まった鼻血を一気に吹き出してから、ようやく周りの光景がはっきりとした。
燃え盛る村と、仲間の死体、全部真っ赤に染まっていた。単色の地獄絵図だ。昔盗んだ教会の絵画より迫力があった。
ついでに犯した修道女の体を思い出して、愚息に元気が出てくる。
「動くな!」
「ひぃ!」
股間を弄ろうとして、背後に気が回らなかった。
首筋に当てられた刃物は、僅かに震えている。
肌が切れて血が滲んだ。
「どっどど、どうかお助けくださいぃ……!」
「…両手を後ろにまわして!」
幼さの抜けない声で制される。両手を縛り上げられても、相手が子供だと雑魚はまだ気付いていなかった。
「命だけは勘弁して下さい!なんでもしますんで!」
「うるさい!」
思い切り背中を蹴られても、何故か怒張は収まることなく続いていた。
「股間が痛え!お願いです旦那ぁ、後生ですから縄を外して下さい!本当に痛えンです!
これじゃ腐っちまう!ほんのちょっと血抜きするだけです!」
「…なら質問に答えて!どうして村を襲ったの!」
「どうしてって、そりゃあ…」
首から流れた汗が、刃物に伝った。
「この愚図!はやく答えなさい!」
「し、知らねえ!本当に知らねえンです!大体村襲うのに深い理由なんてないンです!」
しまった。最悪の返答をしたことに雑魚は気付いた。
こいつらは、自分達が被害者だと思い込んでいる。だが普通なら襲撃に抵抗するだけの備えがあるはずだ。大男は予想外だったが、ほかに戦えるやつはいなかった。
この時代にあるまじき、まるでお花畑の様な村だったのだ。そんなもの蹂躙されて当然だ、むしろ今まで無事なのがおかしい。
「……」
「ち、ちげぇんですよ旦那、いまのは言葉のアヤってんで…!」
当てられた刃物に力が加わるのを、震えながら感じていた。なのに怒張は益々増す、まるで天を衝く神話の槍の様だ。
せめて死ぬ前に一発でもいいから、マスを掻いて死にたいと、雑魚が涙を流した時、両手の縄が解かれた。
「…へ?」
「素直に答えた褒美です、好きになさい。ただし終わればお前の人生の最期です」
雑魚にとっての、最後の審判が急に訪れた。
後ろには幼い声をした、神か悪魔が立っている。
神の如き悪魔は、思いついたように提案した。
「そうだわ、そこに落ちてる口を使いなさい」
雑魚はぞっとした。馬鹿の首のことを言っているのか。悪魔の如き神の発想だった。
「はやくなさい!」
「ううっ、馬鹿、すまん」
詫びの言葉とは裏腹に、かつてないほど怒張した愚息は、首の断面から穂先をちらつかせた。
「本当に浅ましい。あなた達は獣だわ、恥を知りなさい!」
「許してぐだぜぇ…! 許してぐだぜぇ…!」
背後からの罵倒とともに、激しさは一層増していく。
「もうダメよ、きっと神はおゆるしにならないわ!」
「神さまぁ、許してぐだぜぇ!もっと罰をぐだぜぇ!」
早漏ぎみの雑魚が小刻みに震えだした。最期が近づいていく。
「代わりにわたしが許してあげるわ、さあ逝きなさい!」
「ゔうっ!聖女さまァ!逝かしてぐだぜぇっ!」
雑魚の放った命は、単色だった地獄に、色を加えた。