第5話
熟れたザクロの様にパックリと頭を割られた団長が、勢いよく血潮を撒き散らしながら倒れていった。
すぐそばには、息の途絶えた仲間が転がっている。まだ無傷の奴も何人かいたが、すでに及び腰で大男に挑むことはなかった。
村と死体が焼ける匂いが立ち込めるなか、誰かが口を開いた。
「どうすンだこれ?」
たった一言で、動揺は一気に広がった。
「おれ知らねえ」「やばくねえか?」「次の団長決めようぜ、はい俺!」
元々たいして人望のなかった団長の死は、まるで問題にならなかった。
本気でまとまりのない野盗の集団一歩手前の状態となって、全員がばらばらに逃げ出そうとしたところで、少し冷静になった団員が叫んだ。
「馬鹿野郎!このままじゃ騎士団の連中に嬲り殺されるぞ!」
逃げる前に百姓一家をひん剥いて犯そうとしていた何人かが、正気に戻った。
ほとんど全員が忘れていた、この襲撃は死んだ団長が騎士団と交わした契約だった。
正確には城攻めの支援を名目に、お目溢しで略奪を働いたのだが、話を纏めた団長は死に、唯一副官と呼べた馬鹿は、おそらく大男に殺されていた。
つまりは結果的に、無法を働いただけの野盗集団となってしまったのだ。
「どうすンだよ、このままじゃ砦に帰るどころか、領内から逃げるのも無理だぞ…」
「おい、まずハゲを殺ってから考えねぇか?今ならやれるだろ」
「じゃあお前いけよ」「ふざけんな!無傷のてめぇがいけ!」
大男は血塗れになりながらも、荒い息のまま手斧の構えを崩さずにいた。
相手が虫の息だとして、手負の怪物と戦う度胸は、虫けら以下の屑達にはみじんもなかった。
いくら大男が全裸であったとしてもだ。
「……い」
「あ?なんか言ったか?」「は?俺じゃねえよ」
「……ない」
「昔飼ってた男娼の声がしなかったか?」「死にかけの蝉みてぇだったな」
「…じゃない」
「え?嘘だろ…?」「あのハゲから聞こえなかったか?」
「 ハ ゲ じ ゃ な い も ん ! ! 」
甲高い大男の絶叫で、一瞬の静寂が生まれた。
そして一番に爆笑した団員の首元に、手斧がはえていた。