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chapter2-1

気がついたらそこは暗黒だった。ただひたすらに、闇。いや、それはまだ気づいていないのかもしれない。意識出来ていないーーことはない、そう彼は感じる。意識は確かにあるが、見えていないだけ。

だが、彼にはそれがとても心地よかった。まるで、父に抱擁されているかのような、妙な安心を覚えた。

突然、目に光が入ってくる。闇が横に開いた。目は開いていたのだ。視界が完全に開き、風景が入ってくる。この場所は...記憶で覚えている。旧城だ。

そう、ここは旧城。かつて魔王とその従者らが住まい、勇者に敗れた場所。抜けた天井、崩壊した玉座、割れたステンドガラスーー等がその戦いの激しさを物語っている。無機質で重い雰囲気をもつ石造りの建物は、城としての役割を果たせず、その雰囲気だけを残し、彼を囲んでいた。

あっ、と少年がなにかに気づく。14歳ほどの見た目で、年相応の整った顔は表情豊かなようで、目を丸くしている。


「とうさん、俺の名前、なにかなぁ?」


誰もいない空間に、とうさん、と話しかける。当然声での返事はないが、彼はまるで本当に答えが返ってきたかのような表情を見せる。


「ーーえんど。エンド!わぁ、いい名前をありがとう、とうさん!」


やったやったと、父親にプレゼントをもらった子供のようにはしゃぎ回る。容姿も幼いが、行動はそれ以上に幼い。


「よし、じゃあまずは仲間を集めればいいんだね?とうさん。


『ーーーー』


うん、初めはじゃあ【剣鬼】に会ってみるよ!


『ーーーー』


とうさんが俺でもそうするんだ!気が合うね、流石親子だなぁ。


『ーーーー』


その4柱を集めて、俺が魔王になればいいんだね!


『ーーーー』


よし、じゃあ早速行ってくるよ!じゃあね、とうさん」


そう言うと、少年の周囲から黒い煙のようなものが発生し、蠢き始める。その黒色に少年が完全に包まれた直後、黒色は少年とともに消えてしまった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ねぇねぇ、おじさん」


後から誰かに呼ばれる。振り向くと、そこにはここらでは見た事がない、美形の少年が、自分を見上げて立っていた。


「ん?どうしたんだい?」


「えっとね、今日の日にちを教えて欲しいな〜」


「今日の日にち?また妙なことを聞くねぇ。4月17日だよ」


「わぁ、ありがとう!おじさん物知りだね」


「はは、ここらでは割と物知りな方かもね?」


「ほんと?!すごいなぁ......じゃあーー」


少年がニタァ、と笑みを浮かべ、手をかざす。おぞましいそれに恐怖を覚えた直後。


「ーーおじさんの知ってること、全部頂戴!」


「ーーあ」


突如足元から現れた黒い物体に、全身を包まれる。巨大な蛇が丸呑みしているような感じだ。その黒色は男を丸呑みにしてしばらく、まるで消化でもするかのように蠢いた後、少年のかざした手の中に消えて行く。その間、わずか2秒ほどだ。


「とうさんも最近の出来事には疎いみたいだったし、こうやれば近頃の人間達の話題もある程度わかるよね。...ふーん、スターウィンって街で3つも宝具が出たんだ。しかもその1人は...勇者の息子。へぇ...ふふ」


笑みを浮かべる。先程喰らった男に向けたのと同じものを。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


真っ暗な玉座に男が独り、座っていた。

暗い周りに映える真っ白な縮れ毛。つり上がった細い目からは大きく綺麗な真紅の瞳が覗いている。高い鼻、真っ白な肌、短い胴体、対照的にスラリと伸びる長い脚。この世の女性全員に美しいと言わしめるような、美形の男だった。

ただ、その男の口には、鋭い犬歯がチラリとみえていたし、爪も鍵爪と呼べるくらいに長く鋭い。

明らかに人間ではない。

突如玉座の下に、男と同じ種族であろう一体の人...では無いものが現れる。その背中からは一対の黒い翼が生えていたが、フッ、と消えた。


「どうした、シュミッド。こんな昼間からなにか起こったのか」


「はい、一体の人間が城の目の前に現れました。少年です。そして、『【剣鬼】さんいるー?』などと叫べ始めたのです」


「全く、馬鹿な子供がいたようだな。こんな山奥まで来るとは。親の躾がなっていないのか。一応向かうが、お前らで丁重にお帰り願え」


「はっ、かしこまりました」


従者らしい男は立ち上がり、先程の翼を出して、飛び上がって消えた。それを見届けた男は、玉座からゆっくりと立ち上がり、歩き始める。


「しかしなぜ私は...子供1人に自らが向かわなくてはならないような気がしたのだろうか」


その不思議な心情に、男は小さな違和感を覚える。その違和感は、だんだん大きな心配へと、男の心を塗り替えていきーー


「ーーチッ」


男は城内を駆け出す。とてつもない疾さで廊下を走り抜け、階段を飛び降り、門を開けたそこにはーー


「あ、もしかして君が【剣鬼】さんなのかな?こんにちは〜」


少年が1人、高い所から門を開けた男に手を振った。その足下には約10人の男女が横たわって、積まれている。いや、人ではない。その背中には、先程の従者と同じ漆黒の翼が生えていた。


「俺は、新しく魔王になったエンド。とうさんから君を紹介されたよ。さあ、僕の仲間になってこの世界を弱肉強食の、モンスター達の楽園にするんだ」


「そこから...」


「ん?」


「そこから降りろ!!!」


【剣鬼】、そう呼ばれた男は腰に据えた2本の剣のうち下に柄が伸びている方の柄を握り、地を蹴った。

ここから新章ですね。いっときクロル達はお休みです。

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