chapter1-6(後半)
諦め、立ち尽くすカレンの前にクロルが割り込む。だがクロルの剣術では完全な防御は出来ず、鍵爪に剣を当てるだけとなってしまった。
だがそれは、【天命の剣】であれば充分な防御となった。
振り下ろされた鍵爪が当てただけの剣で、止まった。完全にだ。加速し、最高速度となっていた鍵爪に、もう力は働いていない。
「ーーっ!おらああああああ!」
それに驚いたクロルだが、これを好機に剣で鍵爪を跳ね上げ、斬る。天の声と共に、クロルの振った剣ではありえない威力の斬撃が老年カメの腕を襲う。だがーー
「斬れねぇ!」
腕に深手の傷を喰らった老年カメは、絶叫をあげる。そのうちにクロル、カレン、聖職者は後ろへ下がる。セリカと呼ばれている魔導師が駆け寄って来る。
「あなた達、大丈夫?!」
「うん、無傷だよ。ほんと死んだと思った、クロルほんとにありがと!」
「正直俺も死んだと思った」
「ほんとにすみません!僕の麻酔ナイフが効かなかったせいで...」
「いやいや、それは違う!まぁとにかく、俺の剣でも全部斬れないとなると...。セリカさん、使える魔法は?」
「え、えっと...《束縛魔法・然》と《水刃一閃》、《水操作》です」
「オーケー、じゃあーー」
俺は思いついた作戦を手短に3人に伝える。限られた手持ちの中で戦略を考えるのは実は得意だったりする。
「ーー全員の力が必要になる。全力で行こう!」
「うん!」
「「はい!」」
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思いもよらない重傷のおかげで追ってこなかった老年カメに、再び俺とカレンは戦闘態勢を取る。
「よし、作戦開始!」
「はいっ!《筋力上昇》、《スキル威力上昇》、《走力上昇》!」
作戦開始と共に、優しい光の粒子が俺を包む。普段より体が軽い感覚を確認して、老年カメに突っ込む。
「う、わ、めっちゃはええええ!」
想像の数倍速い自分の走力に驚く。それに呼応して聖職者の子も走って位置取りをする。
正面から突っ込んでくる俺に老年カメがさっき斬られなかった方の腕を持ち上げ、鋭い鍵爪で俺を狙う。だが
「それはさっき見たんだよ!」
今度はしっかり防御の態勢に入り、剣に当てる。
『クリティカルガードが発動しました』
その天の声と同時、剣に鍵爪が当たる感覚があるが、それだけだ。クリティカルガード、恐るべし。
さっきと同じ動きで鍵爪を跳ね上げ、剣を振るう。いつもより剣の動きが速い。そして。
『超会心が発動しました』
その振りから想定される斬撃の何倍もの威力の斬撃がカメの腕に直撃する。さっきは傷こそ負わせられたが斬れはしなかった腕が、輪切りになって真上へ打ち上がった。
「よし、予想通り!」
『グオオオオオオオオオオオオ!!!』
老年カメは自分の腕の先が斬られたことで絶叫をあげる。しかしなお、こちらへの敵意は削がれない。無傷の顔で噛みつき攻撃を行う。
だがそれは想定通りかと言わんばかりにクロルが回避。その回避によって空いた頭へ、一本のナイフが突き刺さる。
『ッ!!!』
老年カメの動きが硬直する。聖職者の投擲した麻痺ナイフだ。
「《束縛魔法・然》!」
噛み付いくために伸ばした頭に、地面の植物のモノと思われる蔦や根が何重にも重なって、グネグネと早い動きでカメの頭を束縛していく。麻痺ナイフによる麻痺によって老年カメが硬直していたため、ほぼ完璧な出来で束縛魔法が完了した。
そこに、カレンが特大の螺旋の風を右腕に纏わせ、緑色の髪をたなびかせながら走り込んでくる。次の瞬間、消えたーーかと思うと、跳躍でカメの頭の上に現れたようだ。そしてーー
「《螺旋拳》ッ!!!」
先程決めようとした特大の《螺旋拳》を頭部に叩き込む。鈍い重低音共に、カメの顔が顎から地面に激突する。
そこには待っていたと言わんばかりの表情でクロルが剣を構えていてーー
「これでーー終いだあああああああ!!!」
【天命の剣】が、彼史上最高の振りでカメの頭部に直撃する。
『超会心が発動しました』
天の声、ズザァンッ、という轟音と共にカメの頭部は真っ二つに裂けた。
それから老年カメが動き出すことは無かった。
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「では、壮年カメ5匹の討伐クエスト達成に加え、老年カメの討伐を果たしたということで臨時報酬が出ると思います。緊急のことですので支払いは後日となりますが、それで宜しいでしょうか?」
「はい、もちろんです」
「ありがとうございます。それでは、本当にお疲れ様でした。しっかり休んで、次の冒険に挑んでくださいね」
俺、カレン、聖職者の子、セリカと呼ばれる魔導師は老年カメを討伐後、4人で街へ帰ってきていた。今、カレンがクエスト達成報告を済ませたところだった。
「はいこれ、クロルの分。あんま使い込んじゃダメだよ?」
「わかってる...ってかお前は俺のお袋か。でも、ほんとに助かったよ2人共。ありがとう」
そう、今回の老年カメ討伐はこの2人がいなければ達成出来なかった。カレンは死にかけてたし。
「いえいえ、私たちがやつに手を出さなければ済んだ話なんです。本当にすみませんでした」
話を聞くと、回復薬を作るための素材を草原を抜けた森で採集していて、その帰りに壮年カメが居たから仕留めようとした時に突如進化し、逆に襲われたそうだ。
「今2人でパーティ組んでるんですか?」
「ええ、そうですね。討伐クエストでも、私の束縛魔法で抑えて、リタが仕留めるような感じです」
「え!じゃあ丁度いいじゃん!私たちも2人で組んでて、2人とも前衛だから後衛がいなくて困ってたんです!」
「お、確かに。どうです?俺らとパーティ組みませんか?」
「え、本当ですか?!ぜひ組みたいです!セリカもいいよね?」
「ええ、もちろん!あなた達のようにすごい前衛2人と組ませてもらえるのならこの上ないです」
「やや、俺らは今日から冒険者になりまして。全然経験ないんですよね...。たまたま上手くいきましたけど」
「え、逆に今日からでそんなに強いの?!もしかして宝具持ちとか?」
「うん!そうだよ!私とクロルは宝具貰っちゃって!」
「「えっ」」
2人が固まる。半分冗談で言ったようで、驚きが目に見えてわかる。
「ほ...本当にですか?そんな方達と私たち組ませてもらえるんですか?」
「うん、もちろん!束縛魔法なんて珍しいし、補助魔法の数も多いし。完璧だよ」
「いやいやいや、僕、《ヒール》ですら使えなくて。ていうか覚えれなくて...」
「私だって、魔法での火力はほんとにありません!それなのに、宝具持ちという将来有望な方達と組むなんて...」
「気にしないでください。俺らなんか自分のスキル一個も持ってないんです。一緒に成長出来たらいいなって思います。なのでぜひ」
実力もあって可愛い子2人とパーティ組めるなんて最高だろ?カレンも乗り気だし、絶対にパーティ組んでやる!
「そうそう!クロルも珍しくいい事言うじゃん」
「お前よりは珍しくねぇよ」
「はああああああ?」
カレンがキレ気味で胸ぐらを掴んでくる。こいつの気性の荒さは喧嘩屋レベルだな。
胸ぐらを掴まれる俺を見た2人は、クスクスと笑い出す。可愛い。
「ふふ、そこまで行ってくださるのなら、喜んでお受けします。よね、リタ?」
「うん!これからよろしくお願いします!」
「わ、やったー!目標の後衛職ゲットじゃん!良かったねクロル」
「そうだな。まぁパーティだし、これからはタメで話すか。んじゃよろしく...えーっと?」
「あ、まだ自己紹介して無かったね。僕は、リタ・カルネア。滅魔専門...とは言わないけどそんな【聖職者】だよ。よろしく!」
「私はセリカ・ブレンナー。メティゾック魔法学校を一応卒業しているわ。冒険者になったのは1年半前くらいで、すぐ出会ったリタとずっとパーティを組んでたの。よろしくね」
「え!2人ともあんだけ言ってた割にすごいじゃん!私は、カレン・ウィンズ。風の精霊と契約してる【契約士】だよ。よろしくー!」
「俺はクロル・フォルティス。【天命の剣】っていう宝具を与えられて、冒険者になっちゃった男だ。よろしく」
「あはは!なっちゃったんだね」
俺の自己紹介にリタが笑う。明るいなぁと感じる。カレンとは別な感じに。
「今回は助けられちゃったから、次は僕達が頑張れるクエストを受けてみよっか」
「それはいいわね。それでいいかしら?」
「それって?」
カレンが食いつく。少し間を開けて、セリカが口を開く。
「アンデッド系のクエストなら、私たち...特にリタの真価が見れるわ」
俺らはリタの方を見る。ふふん、と言った感じに胸を張るリタ。
「ふふふ、僕の覚えてる【滅魔魔法】の数々を、お披露目しよう!」
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chapter1『パーティ結成』、完
次からchapter2に入っていきます。どうぞよろしくお願いします。