chapter1-6(前半)
「はー、いっぱい薬草集まったね。お疲れセリカ」
「ほんと、一日頑張ったかいがあったよ。これで回復薬を当分作らなくてよさそうだ」
「それならまた僕たち2人で討伐クエスト行けそうだね」
「そうね」
そう言って、笑顔を浮かべる2人。セリカと呼ばれた女性は美しく、魔術師特有のローブを羽織っている。もう1人は『僕』という1人称にも関わらず可愛らしい顔で、聖職者の着る修道服を着ていた。共に服が土で汚れていて、その土は2人の整った顔にも付着したいた。
魔法使いの少女が切り出す。
「このあとは草原を突っ切って街に戻るのよね?」
「うん。この季節に草原にいるモンスターは壮年カメくらいなもんだし、安全だね」
「1匹くらいなら討伐してってもいいんじゃない?稼ぎにもなるし」
「それもそうかも。セリカの魔法で足を抑えて、その間に僕が仕留めるよ」
「ふふ、余裕そうね」
計画を練ったところで、森を抜け視界が開く。優しい風が吹いていて、心地いい。
ここは森がU字になっていて、一本道のように見える。見回すと近くに早速、件の壮年カメが見つかる。長蔵のように動かず、固まっている。この風で気持ちよくなっているのだろか。
「お、さっそくいた!んじゃセリカ、予定通りよろしく!」
「ええ、任せなさいな。《束縛魔法・然》!」
セリカと呼ばれる魔導師がそう唱えると、壮年カメの足元から細い木の根、枝のようなものがグネグネと生えてきて、足を中心的に束縛していく。これで動けなくなったはずだ。
「ナイス、セリカ!あとは僕がーー!」
そういって駆け出す聖職者を目前にして突如、カメがグオオオ、という咆哮と共に光を放った。それは彼女らの視界全体を覆うほどだ。
「うわぁっ?!」
思わず閉じた目を開くと、目の前には先程より体が大きく、甲羅の緑色が綺麗になったカメがいた。
「え、これってもしや...」
「...このタイミングで進化した?」
進化したばかりの老年カメはグオオオオ!、と先程と比べ物にならないほどの重低音を放つ。大気がビリビリと痺れる。そして、セリカの放った束縛魔法を何事も無いように破壊し、動き出す。
「なーー?!」
そして、傍で固まる2人を発見し、再度咆哮。とてつもないほどの空気の流れが2人を襲う。
「これって....」
「「やばいやつだ!!!」」
そう叫び、2人は確信とともに森の方へと走り出した。だが、老年カメはそれを許さない。5m超えの巨体がブォン、と跳ねて、森に向かう2人の前に立ちはだかった。
「「えええええええ?!?!」」
驚愕で固まる2人をみた老年カメは、2人に向かって走り出す。その速さは人間の全力疾走と変わらないほどだ。
「待って待って待って速くない?!」
「しかもこっちには逃げ場がない、開けた草原じゃ隠れる場所がない!」
「それじゃどうすんのおおおお?!?!」
「知らないったらああああああああ!!!」
絶叫と共に、逃走が始まったーー!
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「《螺旋拳》ッ!!!」
カレンがスキルを使って、壮年カメの顎をしたから撃ち抜いた。ゴンッ、という鈍い音と共にカメの上半身が浮いて、墜ちる。これでもう動かない。
「よっし、残るはラスト1匹ね。でも見える範囲だといなくなっちゃった」
「壮年カメをおびき寄せるようなアイテムない?」
「ないなぁ...」
カレンはポーチをゴソゴソ漁っているが、ありそうにない。
「移動するか?ちょっと入り込んだところにいるかもだし」
「それもそうね。行ってみよっか」
そう言って歩いてみるが、なかなか見当たらない。俺らより知識があるやつがいてくれればいいんだけ...ど......?
「っ!そうだ!おいカレン、アラファウスに探し方聞いてみようぜ」
「なるほど、それは頭いいかも!んじゃーー」
カレンは立ち止まって、ペンダントを握る。目を閉じ、俯いて、何かを呟き始める。するとそこらじゅうからエメラルド色の光の粒子が発生し、ひとつの形を織り成していく。脚、胴、腕ーーそれは人間の形になっていき、人間離れした美女との2度目の遭遇をもたらした。
「どうされましたか、マスター?」
「あなたの知識を見込んでの事なんだけれど、ターゲットの壮年カメが見当たらなくなっちゃって。探す方法ってか、おびき寄せる方法みたいな、そーいうの無いかな?」
「なるほど。それならば、私の風で解決できそうです。」
「ほんと?!」
「はい。彼らにとって心地の良い風を吹かせてあげれば良いのです。そうすれば、隠れているような壮年カメたちも出てくると思います。私の魔力量であれば、ここら一帯の風を変えることが出来るでしょう」
「なんかすごい!やっちゃお!」
「わかりました。それではーー《やすらぎの風》」
アラファウスがスキル名を唱えた瞬間、あきらかに風が変わった。心地いい風が優しく頬を撫でる。すると、何故か地面のなかから壮年カメがゾロゾロと湧いて出てきた。
「え、風って地中に影響あるんだ」
「ええ、自然はすべて繋がっているのですから。」
「急に深いな?!」
「ほら、敵が向こうから出てきてくれたんだ。ぱぱっと終わらそ」
「おっけ」
「それでは、これで私は」
「うん、ありがとアラファウス」
「いつでもお呼びください、マスター」
そう言うと、アラファウスは光の粒子となって拡散し、消えてしまった。
それを見届けて、俺は一番近いところにいる壮年カメに向かって走った。その足音に気づいて、そのターゲットはこちらを向き、腕を上げる。だが。
「遅いんだよ!」
頭をこちらに向けているので、一気に頭前まで距離を詰める。遅い、なんて言いながら、俺も大した速さじゃないが。
「オラァッ!」
威勢のいい声のわりにしょぼい斬撃が、カメの頭に直撃する。
『《超会心》が発動しました』
2度目となる天の声が聞こえたと同時、カメの頭から胴まで縦の切れ目が入り、裂けた。剣の振りからは考えられない威力だ。
「やっぱすっげぇ」
「ナイス!これでクエスト終わりだね、楽チン楽チン」
「はは、ほんといけるもんだな」
イエーイ、とハイタッチを求められ、それに従う。
「さてじゃ、これの死骸処理の委託終わったら早速帰ろっか。お風呂入りたい」
「風呂好きだなお前」
「だって気持ちいいじゃんかー」
雑談をしながら委託を済ませ、帰る準備を済ます。なんかやばいことでも起こるんじゃないかと思って心配した俺が馬鹿みたいだ。まあ壮年カメなんてほんと一番弱いモンスターの部類なのにそんな心配も要らなかっ「ぎゃぁぁぁぁ!!!」俺は何も聞いていない俺は何も聞いていない俺は何もーー
「ねぇ!なんか悲鳴が聞こえたんだけど!」
「おい何も聞こえないだろ!何言ってんだよやめろよ!面倒なのに巻き込まれるのは嫌なんだよ!!!」
「必死すぎじゃない?!でもダメ!助けに行かなきゃ...あ!」
キョロキョロ周りを見ていたカレンが指を指す。すると俺らの後方から土煙が立っている。目を凝らしてみてみる。
「女の子2人が追いかけられてる!」
「ほんとだ!しかも二人とも超可愛いじゃん」
「言ってる場合かバカ!行くよ!」
そう言って、カレンは2人の方へ駆け出す。
「くっそ、やっぱ悪い予感してたんだよ!!!」
そう叫んで、走り出した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「大丈夫ですかーっ?!」
「だいじょうぶじゃないですぅぅぅぅ!!!」
「変わります!」
そう言って、2人を自分の後に隠れるように立たせるカレン。その後で2人は肩で息をしている。
「何があったんですか?」
「はぁっ、はぁっ、えっと壮年カメが...」
「壮年カメが?」
俺らが割り込んできたからか、目の前の巨体が止まる。それによって、土煙で隠れていた相手の姿が見えてきてーー
「壮年カメがっ、老年カメに進化しちゃったんです!」
現れたのは、その言葉通り、壮年カメより大きく甲羅の綺麗なカメだった。
『グオオオオオオオオオ!!!』
「っ!やっべぇ、大ピンチじゃねぇか」
「でも、倒さなきゃ私たちだって無事でいられるかわからない!私はやる!《風纏》ッ!」
カレンは何の躊躇いもなく《風纏》を発動した。また露出の多い服装に変わり、髪が緑色へと変わる。すぐに、「クロルは2人の守護を!」と言って消える。現れた先はカメの頭前でーー
「はああああああ!」
その瞬間移動のような速度をそのまま足への力へと変換、頭を蹴り上げる。だが。
「っ!硬くて重いっ!」
鈍い音はしたものの、老年カメの頭はビクともしない。そして、噛みつき攻撃に移行する。
「クソッ!」
それを後に跳んで難なく躱す。着地した後そのまま跳躍して頭の上を取った。
「《螺旋拳》!!!」
螺旋の風を伴った拳を頭に叩き込む。ゴォンッ!、と今日1の轟音が鳴るが、それでも効いているようでない。カレンが頭を蹴って跳躍し、隣まで戻ってくる。
「ぜんっぜん効かない!」
「ぼ、僕!」
急に後ろから声が掛かる。見てみると、修道服を着た少女が続ける。
「僕、聖職者です!補助魔法覚えてます!今までも《走力上昇》をかけて逃げてました」
「ほんと?!掛けてくれると助かる!」
「もちろんです!《筋力上昇》、《スキル威力上昇》、《走力上昇》!」
それぞれ唱える度に、カレンに綺麗な光の粒子が降りかかる。
「あと、僕も前に出ます!」
「え?!大丈夫なの?」
「やれるだけやります!効果がありそうな物はいくつかあるので!」
「わかった!でも効かなさそうならすぐ引いてね。ーーんじゃ、行きますか!」
2人は駆け出した。と言っても、カレンは一瞬でカメの目の前に現れ、あらん限りの打撃を与えていく。だが老年カメもだまって攻撃を受け続ける訳では無い。鋭く、速くなった噛みつき、鍵爪をカレンに向けて放つが、悉くをカレンは躱す。
そこに、聖職者が追いつくと、手にはナイフが握られており、それを投擲。それがカメの振り上げた片腕に刺さった直後。
「ガァ?!」
老年カメの動きが止まり、小さく痙攣し始めた。
「麻痺ナイフです!今のうちにトドメを!」
「わかった!《螺旋拳》!!!」
《螺旋拳》を発動し、腰を据え、溜める。すると、腕に纏われる螺旋がどんどん大きくなる。それをーー、
「くらえええええええええええ!」
叩き込まんと左脚を踏み込んだ、その時。
『グオオオオオオオオオ!!!』
最大級の咆哮が、2人を襲う。
「ーーっ?!」
「なん...で......?!」
麻痺ナイフの効果をかき消し、怯むカレンに向けて振り上げていた鍵爪を振り下ろした。咄嗟に回避を試みるが、間に合わない。
「ダメ...か」
「まだだッ!」
カレンの前にクロルが飛び込む。
だが、そこから咄嗟に剣でカードが出来る技術はなく、ただ剣に当たっただけになった。これでは攻撃は防げないことなど明白だ。だがーー
『《クリティカルガード》が発動しました』
ーー【天命の剣】は違った。
次でこの戦い終わらせたいですね