chapter1-4
神殿から歩いて20分くらいの所にこの街のギルドはあった。
ギルドは、主に冒険者たちの支援を行っている団体だ。冒険者たちを冒険者として登録し、街の人々からの依頼や街周辺地域のモンスター討伐のクエストを冒険者たちに提供する。そして、個人依頼であれば彼らからの依頼金を、そうでなければ国からの資金を、クエストクリアした冒険者に渡す。さらに、倒したモンスターの死骸が他のモンスターの餌になるのを防ぐため、モンスターの死骸に価格をつけて買い取っている。これら金が冒険者たちの主な収入だ。
さらに建物内では、軽い装備品やちょっとした冒険アイテムを売っていたり、食堂を開いていたりもする。
それをいい事に、朝から晩までクエストに行くでもなくずっと酒を飲んで過ごす輩もいるようだ。
少なくともクロルとカレンが着いた時にはそれと思わしき連中が数人いた。
その大きな木造建築の中は20m四方程あり、入って反対側の壁に階段があり、その上に受け付け場所や冒険者登録カウンターがあるようだ。その下、つまり1階は食堂や小さな鍛冶屋になっていて、沢山のテーブルが並んでいる。10人ほどが昼間から酒を飲んで騒いでいる。THE・荒くれ冒険者って感じの男達だ。
それを無視して2階へ上がると、予想通り冒険者登録カウンターとクエスト受付カウンターがあった。俺らと同じ思考をして、早速神殿からこっちへ来た者達で少し列が出来ている。クエスト受付カウンターの向かいには大きなボードと数枚の貼り紙があり、上にクエスト掲示板と書いてあるからわかりやすい。
2人はその列の最後尾に並んだ。
「あ!君、宝具を手に入れたカレンさんだよな?!」
急に隣から話しかけられる。当然、相手はカレンだ。
「うん、そうだよ。何か用?」
「俺は、去年冒険者になったヒルズだ。槍を扱ってる。このあと登録が済んだらパーティに入ってクエスト行ってくれないかな?冒険の基本とかも色々教えてあげるよ」
おぉっと、隣の幼馴染は人気者だ。先輩からのいい誘いだが、カレンは即答した。
「ごめんなさい、私、後ろのクロルとパーティ組む予定なの。クロルも一緒ならいいんだけど、どう?」
「ん?クロルって言ったら...」
「宝具【天命の剣】を持つ法具所持者だよ」
「え...正気?」
おいなんだその返答。なんだその目。喧嘩売ってんのか。
「大真面目だよ!んで、クロルと一緒なら入っていいけど、どう?」
「あー...じゃあ遠慮しとくな。また今度誘いに来るわ」
「そっか、わかった。お誘いありがと!」
カレンは手を振ってヒルズと名乗った冒険者を見送る。彼は下の階に行ってしまった。
「全く、クロルのこと舐めやがって」
「ステイステイ。俺の今の実力に宝具が加わったって勝てっこないから」
俺が馬鹿にされてただけなのに猛犬のように唸るカレンをなだめる。
「だけど、今日はほんとに軽いクエストに行くつもりだからいいけど、今後は後方支援の人とパーティ組むのがいいのかもねー」
確かに、まだカレンの契約士としての能力はわからないが、少なくとも急に魔導師になることはない。今のところ2人とも前衛か、俺が前衛でカレンが後方支援型となるかの二択。前者だった場合確実に魔導師やプリーストが必要になってくるだろう。後者でも、魔導士は必要になってくるだろう。
「いい人がいるといいな」
「いい人に来てもらうためにも、まずは経験をしないとね!」
そうこうしている内に、登録が俺らの番に回ってきた。ここでやっと、宝具の能力を文字に起して見ることが出来る。
カレンと俺は別のカウンターで同時に登録を行えた。
俺の担当の受付嬢は若い女性だ。ちょっとタイプ。
「はい、登録ですね。早速ですが、ステータスを数字にする作業を行います。この魔道具を10秒ほど持ってください」
彼女はそう言って、片手で握れるほどの小さな球を取り出し、俺に渡してきた。その球はとにかく透明で、手で握らなければあるか否かさえ分かりかねる。
それを見つめてグッと握る。するとだんだん、透明の中に黄色の光が生まれ始めた。
「はい、充分です。ありがとうございました。では、早速【冒険者パス】を作っていきます」
【冒険者パス】は学校で聞いたことがある。これには自分のレベル、職種、取得スキル、持っている武器のスキルなどを表示できる。さらに、経験値の上がったスキルを見ることが出来て、あとどれ位で新しいスキルが取得できるかあらかた分かる。
このパスを持っているか否かで冒険者かを判断でき、さらにその人が誰かを確認することが出来る、身分証明書のような活躍も果たす。
俺が渡した球を受付嬢は別の白くて四角い、小さめの岩ほどの大きさの魔道具の型にはめ込んだ。するとその魔道具が小さな機械音を発し、30秒ほどで側面から小さなカードを吐き出した。
「はい、こちらがあなたの【冒険者パス】となります。常に持ち歩いて、無くさないようにしてください。これで、登録完了です。登録料、1000ラス頂きます。」
彼女はそう言って、先程出されたカードを差し出した。
ありがとうとか言いながら金を払い、脇にそれた。後からカレンが来た。
「ねね、早速見てみよーよ!」
「おう。【天命の剣】がどんなんか気になるし」
と言って、カードを見つめると、真っ黒だった表面から光が灯り、文字を織り成していく。
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氏名/クロル・フォルティス
レベル/1
出身/フリューデン
所持スキル/なし
経験値獲得スキル/なし
所持武器/宝具【天命の剣】
武器スキル/《超会心》《クリティカルガード》《幸運顕現》
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そう書いてあった。
『ステータスをチェック』という欄が気になり、試しに指で触れてみる。
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ステータス(/100)
筋力:34 走力:41 HP:100 幸運:99
魔力(因子別)
炎:10 水:12 風:9 光:24 闇:2
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正直強いのか弱いのか分からない。いや、弱いのだろう。だが、気になる点がーー
クエスト受付カウンターに人がいないので、一番近くにいた受付嬢のお姉さんに聞いてみる。
「ステータスの幸運って、どれくらいが普通なんですか?」
「あら、学校で習いません?」
「へ、あ、すみません忘れちゃって」
「ふふっ。ではこれで覚えてくださいね。幸運のステータスは、ステータスで唯一、変化しない値です。幸運が高ければ高いほど、当然運がいいということになります」
「あ、そこは教えられた記憶が...!」
「思い出してきましたか、ふふふ。幸運値は冒険者ではあまり使いどころがありませんが、カジノなどは、幸運を使ってプレイするゲームが多いようです。また、数少ない使い所ですが、冒険者として1番幸運が関わってくるのが、【クリティカル攻撃】です。まぁこれらはある研究者の研究で最も有力、と言うだけですが。」
「そんなこと調べてる人いるんですね...。どんな内容なんです?」
「ステータス魔力以外の最大値って、全て100でしょう?だから、幸運の数値はそのまま○/100というパーセント化出来るんです。それを使って、カジノの勝敗やらクリティカル攻撃の出るか出ないかは幸運値のパーセント分の確率で出るのではないか、というものなんです。」
「突拍子もないのね!」
横からカレンが入ってきた。飛びつかれる形になって、ちょっとよろける。
「そうなんです。みんな信じてなかったんですが、10人の冒険者で実験したそうなんです。幸運値が50の冒険者を10人集めて、コイントスを1人ずつ、それぞれ20回行ったそうです。すると、皆9,10,11程度しか当たらなかったそうなんです!当たった方の人でも14回当てたのが最大、最小は6回だったそうで。」
「凄いですねそれ。でも、幸運値50の人でしかやってないんですか?」
「そうなの。まだ研究途中なのもあるし、まず幸運値をどこに揃えるか、あと揃えたとしてその幸運値の冒険者を見つけるのが難しいってことらしくて。だから研究者たちったら冒険者パス見たいものを自分たちに作れって言ってるんです。アレ作るのにすごーくお金かかるんですよ。どうするつもりなんでしょうね」
「ははは...」
おもしろい研究だな、と思った。情報ありがとうございましたと言ってその場を離れる。
「クロルー、その剣の能力ってどんな感じだった?」
「ん、見せていいんかねこういうの」
「いいに決まってんじゃんパーティメンバーだからねっ!」
「んじゃお前の先に見せてよ」
そう言うと、何のためらいもなく宝具の情報を見せてきた。
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所持武器/宝具【精霊の契約・アラファウス】
武器スキル/《精霊召喚》《風纏》《螺旋拳》
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「なに《風纏》てかっけぇ」
「ふ、変身して戦うのさっ!ほら早く、クロルのも見せてよ」
見せてやった。
「常時発動系しかないっぽいねぇ」
「え、なにそれ」
「色でわかるじゃん。習ったでしょ、赤色が一時発動系、青色が常時発動系だって」
「そんなんあったっけ」
「これだから劣等生は」
「ツッコミも否定も出来ないからやめて?」
「そんな劣等生くんはまず、常時と一時のスキルの違いわかるのかな?」
「舐めんな、スキル名叫ぶか叫ばないかだろ」
「ん、まぁよろしい」
そう、一時発動系スキルはスキル名を口に出す必要がある。常時発動系スキルは逆に叫ばずとも、条件を満たせば自動で発動する。つまり俺のスキルは言わなくていい分、楽ではある。
「だけど、このスキルってどんな感じなんだろ」
「スキル名のとこ押せば詳細見れるって教わったでしょ劣等生くん」
「......」
どこまで習ってるんだろう俺ら。
無言のままそれぞれのスキルを押してみた結果、
《超会心》:クリティカル攻撃の威力が上昇。
《クリティカルガード》:防御成功時、会心判定を行う。クリティカルの時、相手の攻撃を弱化させる。
《幸運顕現》:戦闘中、幸運なことが起こる。
と書いてあった。正直アバウト過ぎてよくわからない。カレンのスキルもそんな感じだったらしい。
まあいいか、なんていいながら掲示板を眺める。
「これいいんじゃね、『ツチウサギの捕獲』。簡単そうじゃん」
「やだ簡単なのって言っても討伐クエストがいい」
「前衛職二人でか?」
「火力でなんとかなるって」
「初陣なんだぞ?」
「なんとかなるって!『壮年カメ5匹の討伐』、これいいじゃん?」
「んまぁ壮年カメならいっか、カレンの技量あればスキル発動しなくても仕留めれそうだし」
「あんたも働け」
返答せずに受付カウンターに持っていく。
「はい、受付完了です。初クエスト、頑張ってくださいね!」
「はーい!」
なんて呑気なカレンの返事を聞いて、ほんとに大丈夫かと心配になるが、まぁなんとかなるだろう。宝具の性能を見るだけだし。実力はあるカレンもいるし。
ーー壮年カメ。カメの寿命的に壮年期に入る頃のカメらしい。このカメの説明にはこのカメの成長の過程から解説するのが良いだろう。
そのカメの若い個体はビックタートルと呼ばれる。ビックタートルは全長2〜3mの大きなカメだ。のろいので攻撃は捕食、鍵爪の2種類で大したことないが、何より甲羅が硬い。自分より強いと感じたビックタートルはすぐに甲羅の中に引きこもってしまうため倒すのが難しい。上級魔法を幾度も連発してやっと壊れるか壊れないかレベルの問題だ。この甲羅は硬いので盾に使われることが多く、そのため報酬金も高くなる
このビックタートルは、老年カメという種に進化する。老年カメという名は壮年カメと同じ由来だか、なぜかビックタートルと比べ物にならないくらいに強い。動き自体は速くない(でもビックタートルより速い)が、全長5〜6mにも成長しているため速く見える。さらにその巨体から繰り出される鍵爪はかなり広い範囲攻撃となる。さらに少しながら跳躍も可能になり、踏みつけ攻撃もしてくるようになる。これを貰えば即座に体が紙のようになってしまうだろう。だが老年カメの甲羅はビックタートルに比べ少し柔軟で、加工しやすくなっているため素材としての汎用性が広がり、1頭狩れば5年は遊んで暮らせる程だそうだ。
そして壮年カメだが、ビックタートルが老年カメに進化する途中の数ヶ月間の個体を指す。能力はビックタートルと老年カメの中間だ。ただ1つを除いて。
それは、甲羅の硬度だ。壮年カメの甲羅はとても柔らかくなっている。剣を上から刺せるレベルだ。それは、ビックタートルの甲羅の老年カメの甲羅は成分が大きく変わっており、進化するにあたって一旦柔らかくする必要があるからだと考えられている。そんな壮年カメは地上にいると他のモンスターからの危険が多すぎるため、大抵地面に潜って冬眠のようにしているが、この春の間は、餌を食べに地上に上がる個体がとても多くなる。甲羅は柔らかくて使えないが、肉は脂肪があまりなくさっぱりしていて料理に使われることが多い。初心者パーティにはもってこいのモンスターだ。(モンスター図鑑より抜粋)
広がる平原。森が一部開けた平原なのだが、ほんとにそうなのか疑いたくなるほどの広さだ。そこに、今回のターゲットはいた。見えるだけだと3匹だ。
「さ!クロル、行くよっ!狙いはヤツだ!」
「あいよ」
俺らは一匹外れたカメに向かって駆け出した。
はい次戦闘!