chapter1-2(後半)
静まり返る神殿。だが、それはすぐに歓声へと変わった。
湧きに湧く神殿内。それもそのはず、前代未聞の1年に2つの宝具の出現、さらにそれが同じ場所から現れたのだ。
さらにその宝具は、【精霊との契約】。つまり、カレンは【契約士】となった。
【契約士】とは、この世の上位種族と人間とが様々な形で契約し、上位種族の力を借りる者達のことだ。上位種族には精霊、龍種、悪魔、天使などがあり、その中でも沢山の個体がいるため契約の相手は無数にいる。しかし、上位種族で人間と契約しようと考える個体は少なく、さらに上位種族が人間の前に現れることが少ないため、【契約士】はひと握りしかいない、希少な職種だ。
カレンはそのペンダントを目を見開いたまま見つめていたが、その視線を湧く人々の方へ向ける。そして驚いた顔を引き締め、何かを決意した顔で宣言した。
「力なんて全然ない私に、神様は強くなるための力を授けてくれました。それも、とても貴重な契約士としての力を。これはある意味、神様からの私への試練なのだと思ってます。この力を生かすも殺すも私次第なんです。
絶対にこの力をものにして、皆を...いえ、世界を守る冒険者になって見せます!」
神殿内の歓声が、轟音となる。彼女の自分に対する謙虚な姿勢は、見ていた者全てを惹き付けた。それは、クロルも例外ではない。
ここまで心を動かされたのは何年ぶりだろうか。カレンはああ言っているが、クロルは知っていたし、皆も当然知っていた。彼女がどれほどの努力家であるかを。
皆に追いつくために人1倍努力したクロルも、努力量でカレンに勝てたことは無いと自覚していた。
学校で教える武術は大抵剣術、槍術、弓術だ。だが、彼女の戦闘スタイルは体術である。これは学校だけではなく世界的にも珍しい。それは、冒険者のほとんどが武器を用いて戦うのだ。それは、武器が人間自身の力では出せない力を持ち出してくれること。人間がどう頑張っても剣の斬撃を出せなければ、槍の貫通力を出すことは出来ない。さらに、攻撃時のリーチを伸ばすこともなる。これは大切で、『相手の攻撃は自分に当たらないが、自分の武器は相手にあたる』という間合いを創り出すことが可能になるのだ。
だが、カレンは剣、槍、弓を扱うのが下手だった。周りより早く習っていたにも関わらず後から習ったクロルにも勝てないほど、武器の使用が下手だったのだ。だがある日、彼女を大きく変える。
実践訓練で、いつもの通り劣勢に追い込まれたカレンは、木剣をはじき飛ばされた。だが負けたくない一心のカレンは、剣を拾う動作を全く見せず、体術に戦法を切り替えた。
決めの突き攻撃を左腕で横に弾き、相手の空いた右脇腹に左足で蹴りを入れる。怯んだ相手の右手を今度は右足で体をねじりながら蹴りあげ剣を弾く。振り切った右足を地面に付けそのまま軸足として回り、左の回し蹴りを鳩尾付近に叩き込む。そして倒れた相手の首元に自ら弾いた剣を添えて、試合終了。
これが彼女の初勝利であった。
これから彼女の練習量は倍増した。学校に体術を教えることが出来る者はいない。そのため放課後にクロルの父、元勇者であるフレイから教えられた。
彼は武器がない状態でも戦えるように一応体術を収めておいたのだ。これも家族を守るために魔王討伐後に行ったことはまた別の話だ。
さらにその訓練の後、自らの体にあった攻撃、防御を一人で研究した。そして学校では剣術を軽く学びながら、実践訓練を主な体術の実験場所とした。
最初はやはり武器を持つ相手にリーチ、攻撃のスピード、防御の安定性から戦績は前より少し良くなった程度だったが、天候を気にしない彼女の努力はグングンと実っていき、武術部門3位で卒業までに至った。
クロルは幼馴染として同学年で一番彼女を近いところから見ていたが、本当にすごかったと思っている。成績が上がってきてから友達も増えたカレンは、友達と遊んでいても、時間が来れば途中で切り上げ、訓練を行っていた。
大雨が降った休日、10m先も見えないような大雨にも関わらず家に来てフレイに教えを乞うた。
当然断られた後、クロルは母に迫られ、渋々カレンのあとを追うと、彼女は家へ帰らず自分の訓練場所でいつも通りのウォーミングアップを始めていた。流石にその日は説得して帰らせたが、クロルはここまでして体術を極めようとするカレンに心から尊敬した。
努力を重ね、実力をつけたカレンは、3位に至って未だ自分の実力、努力を疑っていたのだ。まだ、まだ努力が足りない。これではなりたい私になれないーーと。
カレンは、宝具であるペンダントを首から下げ、自分の席へ戻る。彼女の席は後ろなのだから、当然クロルと目が合う。
カレンはにっ、と笑って見せた。彼女は、今でも自分の力を疑っている。しかし、この出来事は少なからず、彼女の努力が結ばれた結果と言えるはずだ。この笑顔は、本当に心からの笑顔なのだろう、そうクロルは感じた。
ーーーーーーーーどうしてこうなった。
静かな神殿に、神父の声が何の障害もなく広がっていく。
「これで最後の儀式となる。クロル・フォルティス、前へ」
なんで俺が最後なんだ?!
え、俺最初の方がいいって思ってたのにまさかの最後?!ちょっとそれ名状しがたくないか?!だいたいどんな順番でやってんだよ誕生日順とかでやれよもう。くそ、ついてないな。...ん、運が悪いって思ったの超久しぶりな気がする。前に思ったのーーって今はそんな事考えてる暇はないな。
とか考えてる内に皆が儀式を行った場所に立っていた。手をグッと握り、俯く。神父の祝詞が聞こえてきた。
こんなに遅い順番になったのは仕方が無い。剣を握らなくていい生活はもう目と鼻の先まで来ている。あとは、それを神に告げられるだけ...
なんて考えながら、目を瞑った。
目を瞑ったはずのクロルの目前に広がっているのは、真っ白な空間。本当に真っ白、純白、塩の白さーー無。そう、『無』が正しい表現だろう。その空間には、何も無い。人、動物はもちろん、家、物、草木、水、空、地面。とにかく全てが無の空間だった。だが、彼はそれがどことなく気持ちいいと思い始めーー
「ここに呼ばれて、くつろぎ始めたのはお前だけだ」
ーー後ろから、声が聞こえた。
それは厳格で、強い声だった。振り向くとそこには、人間の言語では表現に難いナニカがそこにいた。人型を保っている様にも見えるが、ただの怪物にも見える。
「ここには何も無い、究極の無。ただそれは、完全なる『自由』である。だが、自由を求める人間は、この『自由』を嫌った。安心出来ぬのだ。まず、地面を創造し足場が出来る。人間は安心できるだろう。だが、この時点で『地に足をつけなければならない』という不自由が生まれるのだ。そんなことを続けているのにも関わらず、自由を求めていると言い張る。矛盾している」
ソレは、長々と続けるが、クロルには理解できそうにない。
「だが、お前は違うというのか。お前は、本当の『自由』を求めているのだな?」
クロルは急に話を振られ、戸惑う。だが、答えなければーーという本能、に近いものが働いているのか、答えることが出来た。
「はい、なぜかここにいると幸福な感じがするのです」
「そうか、そうか。」
そう言ってソレは笑う。
「おお、すまぬ。お前は私を知るまい。ーーお前らは、私のことを神と呼ぶ。だからお前もそうするがよい。私は、お前らにお前らの呼ぶ天職を言い渡すのが仕事だ」
「か...神?!なんでそんなところに俺が...?みんな呼ばれているのですか?」
「いや、ここに呼ばれるのは宝具に選ばれし者達のみだ。つまり、お前は宝具に選ばれたのだ」
「は...は?俺が...宝具に...選ばれた......?」
「そうだ。宝具の名はーー」
突如、視界がグラグラと揺れ始める。目前の神の姿が、ぐにゃぐにゃと歪む。何も無いところに、数多のモノが積まれていっているように感じた。目を開くと、そこは元いた神殿だった。
そして、気づくと目線の上の方に何かしらがあり、掴む。それは剣のようだ。ふと、無意識に口が動き出しーー
「...【天命の剣】」
いつの間にか憶えていたその剣の名を、呟いていた。
何気に2日くらいあきました。少し忙しくなってまいりまして...(汗)
はい、せめてここまでをchapter2にしたかったのであります。
ここからやっと本番です!