chapter1-1
本当に人間というのは“絶対に”遺伝するのだろうかと、いつも考えている。
どこかしら両親に似ている部分があるのではないか、必死こいて探していた時もあったが、外見、能力は当然、考え方ですら似ているか微妙だ。3日で探すのを諦めたのを覚えている。
では次に疑うのは、自分には別の親がいたが、何かしらの理由で今の両親に預けられたということ。だが所詮、子供考えつくことに過ぎない詮索は無駄に終わり、その後母にそれとなく聞いたら生まれた時の写真を見せられ、本気で怒られた。写真で母が抱いている赤ん坊が自分かどうかは正直わからなかったが、写真を取るのはすごく高額なこと、説教中の親が必死だったことから考えても本当だろう。
なぜここまで親と似ている点を探したかというと、両親がとてつもない人間達で、自分がどうしようもない人間だからだ。
今から18年前、俺の父は勇者として、母は父のパーティーメンバーとして魔王を討伐したのだったーーーーーーーーーー
目が覚める時は水面から顔を出す感覚、なんて言われるが、俺からしてみれば、寝てる間水中にいる感覚などない。だからひとりでは目覚めようがない。
だから今日も、もう聞き飽きかけているうるさい声が聞こえたので、瞼を開く。
「......しらない、天井だ」
「じゃああんたは今までどこで寝てたのよ......」
俺を起こしに来て、朝イチからツッコミを決める少女はカレン・ウィンズ。名前の通り可憐な金髪青眼の女だ。両親同士が知り合いなせいで幼馴染だが、決して羨まられるな関係ではない。
「結局この日までひとりで起きれなかったね、クロル」
「でも遅刻の数はお前と大して変わらないよ?」
「それはクロルが起きなくて私まで道連れにされてただけでしょ?!」
「それでもお前の方が遅刻の数少なかったじゃないか、それでいいじゃないか」
「良くないよクロル起こしに来なきゃ私遅刻0だったんだよ!」
「いや人生なにがあるかわからんかr」
「はやく準備して」
「はい」
半ば脅されて下に降りると、母がご飯を台所で皿を洗っていた。だがテーブルの上には一人前の食事が置かれてあった。
「おはよ、母さん」
「はいおはよ、クロル。今日は大事な儀式なんだから、早く準備済ませちゃいな?カレンちゃんも待ってくれてるし、父さんはもう出ちゃったよ」
「ねぇクロル、そういやまだ私に挨拶してないよね?」
「あ、いたんだカレンおはよ」
「ちょっとそれはキツい......」
カレンはこうやって空気にしとけば大してうるさくなくなる。ずっとこんな感じでつるんでいるがこの前気づいた。早く気づいていたかったものだ。
頂きます、といって食事に取りかかる。最後の朝食だからと言って豪勢にしたり、俺が起きるまで待って、みんなで食べようとしたりしないところが母らしい。昨日の夜もみんなで食べたがいつも通りだった。
朝食のトーストは、いつも通りの美味しさだ。表面は小麦色の焦げ目がついてサクサク、中は空気をたくさん含んでいてふわふわだ。3枚のうち1枚にバター、残り2枚にジャムを塗って食べる。ミニトマトもいつも通り美味しいし、コーンスープは市販されている粉末を溶かしたものだ。至っていつも通り。
その間、カレンは母さんと最後だからと言って話をしていた。いつもそれくらいでいればいいのに、俺といるとうるさくてしょうがない。ほかの人にぶん投げる以外の方法でこいつを静かにさせる方法を今後考えなくては......。
準備をすませた俺と、うるさく急かしながらも待っていたカレンは、ドアを開いた。
「じゃあ、行ってきますおば様!」
「行ってくる」
「はい行ってらっしゃい!あとから行くねー」
今日の行き先はいつもの学校ではない。街の神殿だ。だがいつもと違う景色に妙にワクワクしたりしない。16年間住んだ街はもうほとんど知り尽くして今更ときめくことなどない。今日が自分の未来を決める儀式だと分かっていても、だ。
「ねぇクロル、今日の儀式どうなるかな?だれか宝具貰えるのかな?」
「いや宝具はないだろ、あれ数年に1度全国のどこかから出るって話なんだろ?こんなド田舎の街の神殿如きに神様なんて来やしねぇよ」
「でもわかんないよ?十年くらい、全国で宝具の確認がないらしいの。だったら今年はドバっと来てもおかしくなくない?」
「それは勇者が魔王を倒して、世界が平和になったからじゃないの?勇者さまさまだな」
「......」
そういうとカレンの顔から笑顔は消え、黙り込む。仕方ないことだ、俺がそう言ってしまうのだから。
そんなこと、考えても無駄だ。この儀式は俺を鎖ーー勇者の子供としての鎖を断ち切り、希望を持って飛び立つ同学年の連中を見送り、地を這う生活を届けてくれるのだろうと信じている。
勇者一行が魔王討伐を果たして2年後、勇者とパーティーメンバーの女との間に赤ん坊が生まれた。二人は名を“クロル”と名付け、静かな田舎でゆったりと自由に育てよう、と決意した。
当時はそのことに国、いや、世界全体が湧き、2代目勇者誕生と持て囃した。そんな期待など知りもせず、赤ん坊は自由に育った。
異変が現れ始めたのは5歳の頃だ。その頃から子供らは剣を触り始めるのだが、クロルは他の子よりも断然に剣が下手くそだった。それだけではなく、運動神経が全体的に悪い。また、文字、言葉の覚えも遅く、そこには勇者の子供としての才能の欠片もなかった。
小さいながらに周りが落胆するのを感じ取った子供は、だったら努力で、と思いたち、人1倍努力をした。勉強は人並みにできるようになったが剣の腕は一向に差が縮まらない。剣以外の武器に触れてみても一切変わらないし、魔法も出なかった。
そんな息子に優しく接し続けた両親の存在が、逆に努力しても変わらない悩みを抱えたクロルにとって毒となり、腐ってしまった。
そして至った今日、『未来決定の儀式』は、クロルの想像する未来と真逆を指し示すのだった。
はじめまして、結城 青と申します!
実はこの話、前にも1度なろうに投稿しているのですが、すぐに自分の力不足に気づき、今もう一度挑戦しようと書き直しました。そのころとは1話も大きく変えています。
といいましても、決めているのは初めと最終決戦くらいなのですが、頑張って最後まで書きたいと思います。
これからどうぞ宜しくお願い致します。