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第九話。食事を終えて、その後のいろいろ。

「ごちそうさま」

 なぜか一番最初に置かれたインスタント蕎麦を平らげた俺は、他みんな食べてるのになぁ と悪い気はしつつ、食べ終えた証しとして、形式的に箸をおいた。

 

 みんなのができてから食べようかと思ったんだけど、神田どころか女子全員から、

 延びたの食べてるの見るとバエないしみじめに見えるから置いた順から食べてって、

 というお達しが来ていたのだ。

 

 SNSに投稿するわけでもあるまいに、バエるバエないで決めるなよと思ったが、口には出さなかった。

 見栄えが悪いって言いたかったんだろう、と脳内変換して収めたのである。

 

 

「ちくしょう、なんでお前はサクサクだったんだよ」

 言ってから音無くてんぷらを食べる狭間。

「さあな」

「っていうか、俺だけベチャベチャだったじゃねーか。おのれえみリッチ、見せつけやがって」

 

 狭間の本気で悔しがってる様子に呆れつつ、俺の右前の神田を見る。

 たしかに、そこには割りばしで挟んだてんぷらを「ほれほれー」とでも言いたげに狭間側、

 俺の左に向かって、ゆっくりと動かしてはゆっくりと戻す動きをしている。

 

 絶対に届かないが、それがまた狭間の悔しさを助長しているようだ。

 

「あー」

 大口開けながら、それを声に出した神田は、「んっ」っと言うのと同時に半分ほどを噛み千切った。

 サクッ、といい音がした。

 

「これみよがしすぎる……」

 呟く俺。神田、流石にそれはちょっとかわいそうだぞ。

 

「ンニャアア! この、貴様。どこまで俺を……!」

 そう悔しそうな顔と声でうなって、残ったてんぷらを、また音無く口に入れた狭間は、苦々しい顔でそれを咀嚼している。

 

 味は決して悪くはない。ただ、狭間がアホなところにこだわりすぎているだけである。

 

 

「硲なる者よ。なぜそこまで硬さにこだわる、しょくす時にはたいていベチャベチャ状態ではないか」

「バッカヤロお前! 食う前からベチャベチャなのとなぁ、食う過程でベチャるのとじゃ、食感が違えんだよ食感が! サクサク感がよぉッ!」

 

 左拳をギリギリと握りしめて白熱している狭間。滑稽すぎて哀れみすら感じるぞ。

 

「狭間、そんなことを熱弁してる暇があるのか?」

「なんだよ、どういうことだよ?」

「のびるぞ」

「ヘッ、とっくにビヨンビヨンだよ。のびきってんだよ」

 

「涙目になるほどかよ」

 ちくしょう、ちくしょうと言いながらズルズルと麺をすする狭間。だが、実際に麺がのびているわけではない、狭間の中では精神的に食う気力がないってことなんだろうな、たぶん。

 

「どんだけサクサクてんぷらにこだわりがあったのよ」

 苦虫をかみつぶしたような顔で、畑宮が呟いた。

 

 それには、狭間以外が全員同時に、

「だよなー」「だよねー」

 と頷き言ったのだった。

 

「でも、あの……ごめん。まさか、ここまで本気で悔しがるとは思わなかったよ」

 苦笑いながら、眉をハの字にしている神田。

「……俺の方こそ、すまなかった。てんぷらのどんきちの、てんぷらのサクサクにはこだわりがあってな」

 ようやく我に返ったようである。

 

「やれやれ。てんぷら一つでこれほど暴れる奴、俺は知らないぞ」

 物理的にではなく、精神的に暴れた奴という意味だ。

 

「よし、これからセイヤーのことはてんぷら奉行って呼ぼう」

 神田の提案に、

「いいなそれ」

 当人以外が、

「流石だ猫耳プリンセス」

 一も二もなく、

 

「たしかに、鍋奉行みたいだもんね」

 異論を唱えることもなく、

「決定ね」

 頷いた。

 

「なんとでも呼んでくれ、もう……」

 自らまいた種を、やけくそに請け負った男が一人。

 ここに、狭間誠也の、新たな呼び名が生まれた。

 

 

 

***

 

 

 

「ふぅ」

 別に賢者タイムに突入したわけではない。ある意味では賢者タイムに近いが。なぜかと言えば。

 

 ーー今 い る こ こ が 神 田 ん ち の 脱 衣 所 だ か ら だ!

 

 いや、やましいことはまったくやっていないしそんな目的でここにいるわけではない。

 なぜ俺がここにいるのか。それは、神田がこんなことを言って風呂にみんなを入らせることを強硬したからだ。

 

「いいの? お風呂入らないとちょっとあぶらっこくなるよ? ちょっとギトってするんだよ、チョイギトだよ? それで年越ししたいの?」

 

 別に高圧的なわけではなく、柔らかく ともすれば心配そうに聞いて来たんだが、

 この言葉を聞いた女子は即答で「入らさせていただきます」とハモっていた。

 

 俺はその掌の返しっぷりに苦笑したのと同時に、

 男子よりはずっと清潔さに気を使うだろう女子の神田が、

 風呂に入りそこなうという経験をしたことがあることに驚いた。

 

 どうしてそう思うのかと言えば、

 こんな具体的に風呂に入りそこなった時の体の状態を表現できる人間はすなわち、

 風呂に入りそこなったことがある、ということだからだ。

 

 で、男女どっちから先に入るかという話になった。女子らは先に入ることを選択したがってたものの、

 先に女子が入ったら 男子が風呂場で手を間違った方向で使用しかねない、と言う俺の進言により男子が先に入ることになったのである。

 

 最初その意味を捉えかねてた女子らだが、俺が少し考えて薄い本という補足を入れたところ、

 畑宮以外は理解してくれたらしく、どういうことなのかを男子から見えないところで教えた模様で、

 戻って来た畑宮に「最低」と吐き捨てられた。

 

 俺は

 一番まずい、ありえる可能性を示唆しただけで、実際にそうするとはひとことも言ってないんだが……

 と言ったら、「そういうことにしといてあげる」とのことである。理不尽な話だ、まったく。

 

 で、まあそんなすったもんだあって、俺が男子ラストの風呂を終えたところである。

 

 しかし、どうも落ち着かなかった。食事を終え、風呂に向かった俺は、脱衣所でここが女の子の家だということをはっきりと認識させられたからだ。

 

 他人の家って言うのはえてして、老若男女の別なく自分の家とは違う臭いがするものである。

 神田の家は、こう なんと言うか……柔らかい中に神経にしみ込んで、クラクラさせてくるような

 甘い毒とでも形容したいような……とにかく! いいかほりがしているのであるっ!

 

 ま、まあほかにも? 洗面台の歯ブラシがピンクだったりってゆう分かりやすい女子女子したところもあるんですけどねっ、ええ。

 

 

「次、どうぞー」

 完全に髪と体を乾かし終えているので、脱衣所兼洗面所から出つつ、女子らに声をかけた。

 「はーい」と神田と宮崎からの返事、畑宮は「うん」と一つ頷くだけの返答だ。

 

 シャンプー使用に関しては神田から、チョイギトは体だけじゃないから むしろ髪の方がギトいから使ってもいい、と許可が下りている。ので、ありがたく使わせていただいたのだ。

 

 そのため男子しかまだ風呂に入り終えてないながら、リビングはなんとも言えず、ほんのりとシャンプーの香りである。

 

 

 部屋の様子は食事時から変化し、食事のために中心に置いてあった丸テーブルを壁に立てかけ、床にはホットカーペットの上に敷布団一枚と掛け布団三枚が並べられ、さながら修学旅行の部屋のようになっている。

 

 この布団の並び方、無駄にワクワクするのはやっぱり、修学旅行を思い浮かべるからだろうか?

 

 

「ノリきゃん、先いいよ。大晦日スペシャル、特にノリきゃんは全部見といた方がいいから」

 神田に言われて、素直にわかったと頷くと、脱衣所に向かう畑宮。

 

「覗くんじゃないわよ」

 俺たち男子を、俺 てんぷら奉行 オバカモトと順に睨み回し、脱衣所のドアをしめた。

 

「風呂とトイレがバラバラで助かったぜ」

 とはてんぷら奉行こと狭間、言うなりトイレに向かった。

 

「えーっと、始まるまでに後30分か。宮崎と神田、今年中に風呂入れなくないか?」

 「ところがねー」と、なにやらニヤリとしている神田。

「なんだ?」

 

「たしか今回の大晦日スペシャル。始めが今年やった激情版を丸々流すという予定だったな」

 鹿元しかもとが教えてくれたが、神田は「んむぅ……」と不服そうにほっぺたを膨らませている。

 言われてしまったのが不満なんだろう。

 

 ほんと、どうしたらこんな二次元ムーブを違和感もあざとさもなくできるんだろうなぁ、永遠の謎不思議だぜ。

 

「そうなのか、ぜんぜん調べてなかったぜ。なるほど、それならお前らも風呂入れるな」

 女子二人に対しての俺の一言。

 

「「そうなのだよ」」

 かけてもいないめがねを左手でクイっと持ち上げる動きを、二人揃ってやるのと同時に言った。

 その表情は勝ち誇ったような含み笑い。

 

 

 

 そんな面白かわいいしぐさを見せられては、吹き出さざるをえなかった。

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[一言] 風呂は……緊張しますし、ドキドキしますな……
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