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第八話。いつもながらにテンションが忙しい俺。

「はーい」

 パタパタという、ちょっとあぶなっかしい足音といっしょにしたのは、紛れもなくあのロリカワボイスである。

 

「いらっしゃいー。ゆっくりしていってね」

 ガチャリとなんの警戒心もなくドアを開けて姿を現したのは、やっぱり神田えみりであった。

 

「開けたとたんに棒読みさんかよ」

 ゆっくりしていってね、があの合成音声の独特極まる音程である。この突っ込みどころには突っ込まざるをえない。

 

 緊張で、ちょっとばっかし自分の声が遠いが、それでも いやむしろそれだからこそ、余計に。

「いやー、来客早々見事な突っ込み。流石の二重顎」

「だからだな。俺だけの時に二重顎はやめろとあれほど。二人の時でもやめろともあれほど。

 

っていうか不用心だろうラグなしでドア開けるなんて。もうちょっと慎重にだなぁ」

 

「大丈夫だよ小言パパ。静香ちゃんとノリきゃんからもうつくよってリイン来てたから」

 周りがクスクス笑い出したー!

 

「いつのまに……っていうかパパってなんだパパって!」

「お、エプロン姿のえみりにゃん。いつも以上に萌え成分マシマシだな~、かわいいかわいい」

 

 宮崎がそれはもう嬉しそうに言った。

「シレっと話題変えんな! って、なんだと」

 

 気付かれまいとして声を押し殺そうとした結果、「なんだと」のシリアス度がえらいことになってしまい……神田以外から視線をぶっ刺され、神田からはきょとんと見られてしまった。

 

 ーー帰りてえ! 今すぐダッシュで帰宅きたくりてえ! りてえがしかし帰らぬ。

 神田さんちにお泊りするなどというこのイベントを、みすみす逃してたまるものかよ!

 

 

 こんな心境だが、神田の服装チェックはしっかりとする。

 ーーマジダー。マジデエプロン姿ダー。コレハヤベー。猫耳シテネーノモれありてぃ的ニヤベー!

 

「ほんとだ、かわいぃ」

 これまでテンションがどちらかと言えばロー気味だった畑宮はたみやが、ノー猫耳のエプロン姿神田を見たとたん、テンションが上がった。というか、声のトーンが少し上がった。

 

 まるで、愛らしい動物や小さな子供を愛でるかのように。

 

「ねえねえ、なんか作ってたの?」

 上がったテンションとトーンの状態で畑宮が尋ねた。

 

「支度してただけだよ。今日の夕飯の」

「早すぎない?」

 ちらっと畑宮の声が止まり、「まだ五時半よ」と指摘した。おそらく今のは時計を確認したんだろう。目の簡単に届く位置にあるらしいな。

 

 テンションは上がったままっぽいが、声の調子から黄色味が薄れて、柔らかさが入った感じになってるな。

 

「なんだかんだしたりするからちょうどいいのです、六時ご飯には」

 と神田さん。

 

「六時飯か。Fighteファイトの大晦日スペシャルに備えるにしたとしても早すぎやしないか?」

「おそば食べてー、お風呂入ってー。でちょうどいいかなーと」

 

「犬の餌CMみたいな音程で言うなよ。っていうか、もしや……その風呂ってえのは。全員入るつもりで言ってるのか?」

 

「うん。だって、綺麗な体で年越したいでしょ?」

 

「こともなげに言ってのけてくれるぜ」

 ほんと。男性として我々を微塵も見ていないらしい。無防備すぎだろ、神田、ほんと。

 

「私は一向に構わんっ!」

 ドムっという音、どうも一歩前に足を踏み出しての鹿元しかもとの勢いのいい宣言。おそらく全員がビクリっと動きを止めた。

 

 しかしその時間停止もつかの間。

 

「構いなさいよ!」

 振り向きざまの畑宮の左拳の鉄槌打ちがさく裂!

 

「ぐほあっ!」

 見事にもんどりうった鹿元である。合掌、と チャンチャン っという落ち音程だ。

 

「あたしは……うー。ちょっと、考えたいかなー」

 この言い方、宮崎はどっちでもよさそうである。で、畑宮は「あたしはやかなぁ。男子もってのがどうもね」と入りたくないの姿勢だ。そんなにいやかね?

 

「うーむ。今年の汚れは今年のうちにって言うのになー」

 不思議そうである。昨日は男子の線引きをしておいて、貞操観念どうなってんだ、神田えみり。

 

 

「ねえ、ところで大晦日スペシャルって? なんかFighteの番組やるの今日?」

 テンションの戻った畑宮の疑問には俺が答える、

「そう、ここ三年ぐらい恒例行事なのよ」

 前に宮崎が答えてしまった。

 

 畑宮のテンションが戻った原因は、おそらく鹿元だろう。

 

「そうなんだ」

 知らなかった、のニュアンスだ。

「おいおい、ゴッサーログインしてたら知らないはずないだろ? お知らせとして、うっとおしいぐらい表示されてるぞ」

 

「そうだな。ポニ天使、今日は契約者どもの戦場には行っていないのか?」

「アンタらと違って、毎日ログインなんてしてないの」

 不快そうな言い方である。

 

「えー、もったいない。じゃあクリスマスイベとか復活イベとかやんなかったの?」

 神田、言葉通り心底残念そうである。

 

「え? うん」

 畑宮、きょとんとしてるんだが……神田が言ったこと、どんぐらい理解できてるんだ?

 

「しかも今、大晦日から三箇日終わりまで限定で、イベント限定使い魔ヘルパー復刻ガチャ回せるんだし、やっとこうよ。ノリきゃんけっこう石あったよね?」

「え、ええっと。石って……なんだっけ?」

 

 声が苦笑いしている。それを聞いた俺以外が、「そこからかー」とでも言いたそうな空気になった。

 

「おちつけって神田。畑宮、オタク生活二箇月弱なんだろ? それにこのリアクションからするとソシャゲガチ勢でもなさそうだし、あんま畳みかけるなって」

 

 フォローしておく。この温度差は見てて、ちょっとかわいそうだからな。

 

「っていうかゴッサー運営、今回の復刻ガチャ回せる期間半端にしてるよなぁ」

 畑宮がこっちを振り返ったのは見えてる。そして、なにか言おうとしたのか俺が続けた言葉に「えっ?」っとびっくりしてるのもわかってる。

 

 が。

 

「来年最初の一週間ぐらい回させてくれてもいいだろう」

 一度出始めちまったゴッサー運営への不満は、

 

「来年サービス開始一周年なんだから、その年の初めぐらい星3以上引ける確率上げつつさぁ。もう簡単にはサバ落ちねえぐらい強化してるはずだし、いけるだろ。

ほんと、無課金勢にも配慮してほしいもんだよなぁ」

 

 簡単に止まってはくれなかったのだった。

 

 

「「「お前がおちつけ」」」

 狭間 鹿元 宮崎に突っ込まれ、「デスヨネー……」と左手で頭を掻くしかなかった。こんな我々を見て、神田さん大笑い 畑宮さんは目が点と言った様子です。

 

 

「なんてやってたら、そろそろいい時間。年越し蕎麦インスタントスタイル 準備しないと」

 言い終えると神田は台所に向かった。

 

「手伝うよえみりにゃん」

 それを追って宮崎が、

「あたしも手伝う」

 更にそれを追って畑宮が、神田の援護に向かった。

 

 ……インスタント蕎麦を作るのに、三人も人材ははたして必要なんだろうか?

 

「どんきちか。俺テンプラありで頼むわ」

 狭間が図々しくもリクエストしやがった。そしたら、

「わかったー。じゃあ、先乗せベチャベチャにするねー」

 という神田の切り返し。

 

 それに、

「マジかよ? そこは後に乗せるとこだろ、常識的に考えてー」

 不満を台所に飛ばす狭間と、

 

「なんだよ先乗せベチャベチャって? なんで狭間平然と切り返してんだ」

 笑いをこらえきれない俺と、

 

「俺はポニ天使が作ったのであれば特に希望はない」

 と密かに言う鹿元。

 

 

 

 三者三様さまざますぎるリアクションをするのだった。

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[一言] 大晦日リアルタイム感でわくわく感が否応増しますな!
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