第七話。全員集合、レッツゴー!
「あ゛ー、ねっみー」
マケコミ最終日、そして今年の終わる日。俺は昨日に引き続いての、暴漢装備で外に出ている。
しかしマケコミに行ってるわけじゃない。でも、個人的に今年最後の大イベントである。
ゆえに、緊張と楽しみなのとでぜんっぜん眠れなかったのである。
小学生かよ、と我ながら苦笑してしまった。
「ほぼ同時とは驚いたぜ、ナイトオブロリkいってぇっ!」
俺の家の近くにある公園で、午後五時から30分間の範囲で集まるように、と宮崎からリィンが来ていた。
だから五時の町時報を聞き終えたところで出かける支度をして今に至る。ゆえにこいつの言葉があるわけだ。
「いきなり額に肘鉄ぶちかます奴があるか!」
「外で言って大丈夫な冗句と大丈夫じゃない冗句ぐらい区別しろ、狭間誠也。斉藤の野郎、妙なことを吹いて回りやがったな……!」
「フルネームで呼ぶな、敵に見えるぞ」
左手で額を抑えている狭間に、「うっさいわ錯覚野郎め」と投げつけ声の突っ込みである。
「ほぼ黒の空の下、テンションかわらず。あったまってるわねぇ、二人とも」
「あったまってんのはこっちだけだぞ、静香ちゃん。勘違いしてもらっちゃ困る」
俺を指差して言うので、狭間に「お前がおかしな呼び名で呼ぼうとするからだろうが」ときっちりと事実を突っ込みと同時に女子に伝えた。
「変な呼び方、ってなに? どんなの?」
ん、見覚えがない女子だな。この、いまいちテンションの上がってない感じ。もしかして、こいつがノリきゃんとやらか?
目の前の女子以外に今いるのは、俺 狭間 そして宮崎と、昨日の面子である。
更に本日のイベントを振って来た神田の言い分では、全員揃うと女子が三人男子が三人という配分になっている。
男子は後一人、鹿元で斉藤の奴は神田直々にハブである。
で、神田があだなで呼ぶほどの仲なのがノリきゃんだ。ここにいるということは、つまりこの女子がノリきゃんだろう。
っと、これが目の前の女子をノリきゃんであると結論付けた理由である。
「ここで言われるのがはばかられるから、拳で止めたんだ」
「そうなんだ。よっぽどどうしようもないのね、そのあだな」
「そうだな。で、もしかして。あんたがノリきゃんか?」
推測をそのまま伝える。すると、短く「そう」とだけ答えた。
「初めまして、よね。畑宮のりかよ。よろしく」
「よろしく。庵野仗だ」
「ああ、あなたが二重顎の片方なんだ」
「神田……その呼び方、どこまで広めるつもりなんだ……」
苦笑いの俺の横で、宮崎と狭間がクスクス笑いである。
「ところで畑宮。友達の家で年越しするって大イベントなのに、ずいぶんテンション低いな」
気を取り直しつつ、気になったことを尋ねてみる。
「ん? いやさ。あたし、オタク生活二箇月弱でね。それでいきなりダイセンパイ方に囲まれて年越しだー、なんて。逆に疎外感なのよ。えみリッチが誘ってくれたのは嬉しいんだけどさ」
「なるほどな。それでいまいち乗りきじゃないのか」
大先輩、にどことなく毒を感じたんだが……。
「まあまあノリキャノン、そう引け目を感じないでって」
「ノリ……キャノン?」
素っ頓狂な声が出てしまった。
そしたら畑宮が、
「その呼び方やめろって言ってんでしょうが」
と疲労感を乗せた声で言い捨てる。
「そっちも奇妙なあだな持ちか。困ったもんだなぁ、お互い」
「ほんとね」
変なところで息が合ってしまった。
「待たせたな!」
「「「蛇か!」」」
「え、なに? 今の突っ込みどころなの?」
最後に現れた鹿元を一斉に突っ込んだ、俺 狭間 宮崎だったが、畑宮はこの通りポカンとしている。
この反応。マジでサブカルチャーに微塵にしか触れて来なかったんだな。少なくとも中学以後触れてなさそうだ。
「さて。メンバー集まったことだし宮崎。あないせい」
「ははぁ……!」
言いながら上半身を45度ほど傾けたところで、
「って、なんでアンタが殿様なのよ庵野っ」
起き上がりこぼしのように上半身を跳ね上げた勢いで、右の水平チョップで突っ込んで来やがった。
「いぇっでっ! お前宮崎! ガチな勢いのチョップだったろ今っ!」
「ばね仕掛けのような、見事な突っ込みだったでしょ」
左肩をギュウっと抑えながらシャウティング抗議したところ、なにゆえだか突っ込みの勢いをドヤりやがった。
「すごいテンションね、アンタたち。ボケ突っ込みがポンポン出て来るのもすごいけど」
「そうなんだよノリキャノン。昨日俺も思ったんだけどさぁ」
「だーから! キャノンはやめてっていってんでしょうが!」
「お前らも」
「人のこと、言えないじゃない」
俺と宮崎が吹き出したのはしかたなかろうて。
「うむ。まったくもって、そのとおりだな」
俺と宮崎のコメントに、大仰な頷きで やっぱり大仰に言う鹿元だ。
「よっし。じゃあ改めまして。えみりにゃんちに、レッツゴー!」
言って軽い足取りで、宮崎は歩き出した。
「ところで畑宮」
歩き出してすぐ、気になったので尋ねた。
「なに?」
「お前、神田の家 知らないのか?」
「知らない。まだ、来ていいって言われてないしね」
「寂しそうな顔すんなって。今回の年越しお泊りで初訪問にしたかったのかもだろ?」
「流石に引っ張りすぎじゃない?」
「わかんないぜ?」
「イベント事に合わせるんなら、クリスマスでもよかったわけじゃない」
「すぐ後にマケコミだからな。サークルチェックしてて忘れてたって可能性あるかもだぞ」
「そんなに時間かかる?」
不思議そうに聞いて来るので、
「ああ、参加者の数は膨大だからな」
と答える。
「そうなんだ」
「ああ。たとえ企業しか目標がなかったとしても、ブースのチェックは一通りするんだろうぜ。もしかしたら自分の興味がありそうなサークルやら企業やらがいるかもしれないからな。神田はそういう奴な気がする」
「わかるわ、それ」
こくこく頷きながら同意を示した畑宮は、
「けどずいぶん他人事ね、アンタだってそうなんじゃないの?」
続けてこう尋ねて来た。
「いや、俺はお目当てだけ調べるタイプでな。だから基本カタログは買わない派だ。カタログ、分厚くて重いしな」
「そうなの?」
驚いた顔の畑宮に、おおと一つ頷く。
「CDロム版あんのにこいつ、カタログは紙版以外買う気がないみたいなのよね。で紙カタログは買いませんって状態。変なとこ頑固なんだから」
「なるほどねぇ。オタクってそういうイベント事に関して、基本のところが似通ってるんだと思ってたわ」
「ロボじゃねえんだから、そんなわけあるか。俺もお前と同じく、お目当て以外を歩き回って探そうとは思わないんだよ」
「なんであたしが無駄なこと、したがらないの知ってるのよ?」
畑宮がたたらを踏むほど驚いたので、
「びっくりしすぎじゃないか?」
と軽く苦笑した後で、
「昨日の神田の評を聞いての推測だよ」
と、サークル巡りを無駄なことってバッサリ切って捨てる物言いは、ちょっとばっかし癇に障ったがなんとか抑え込んで、落ち着かせるように教えた。
「え……えみリッチ、いったいなに言ったのよ?」
なぜだか身構える畑宮。
「大したこと言ってねえよ。ただ、即売会に行く連中のことを、よくやるなぁって呆れてるようだった、ってだけ」
苦笑いである。って言うか、神田がないことないこと吹聴するような奴に見えるのかよ。
「そ……そう」
安堵の息交じりに言う畑宮に、
「お前……神田のこと、どう見てんだよ」
困り顔になってしまった俺である。
「はーい、到着ー」
不意に宮崎がそう言った。軍隊の行進みたいな足音で歩いてた俺達は、バラバラに足を止める。
「ここがあの女のハウスか」
狭間が妙なことを言うので、
「やかましいわ」
と投げやり突っ込み。
「そっか。神田の家、わりと、うちから近かったんだな」
感動と驚きの混じった声になっていた。こんなことなら夏の時お邪魔しとけばよかったぜ。
でも俺んちの方が駅からは若干近いな。やっぱ、自宅の方がよかったか。
「部屋が広めなマンションなんだな、この建物」
狭間が感心している。
「……緊張してきたぁ」
ひそーかにちいさーく、息交じりに言った俺。だったのだが、
「ダチんち入るのに緊張すんのか、おーん?」
宮崎にからかう気しかない声色で物理的につっつかれてしまった。
「どぅまれ、今回は事情が違うだろうが事情が!」
首だけ向けて言い返してからしまったと思った。思ったが、吐いた言葉は飲み込めない。
「そうだよねぇ。『えみりにゃんのおうちにおとまり』するんだもんねー」
「どぅまれと言っておろうが」
今度はガバリと背後を振り返り言う。
「はいはい、仲のよろしいことで。押すわよ」
畑宮が言いながらツカツカとインターホン前へ。
「えっ、あ、ちょっとまてっ。まだ緊張殺しと覚悟がっ」
ピーンポーン。
無慈悲な音が俺の鼓膜を震わせてしまうのであった。




