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第六話。全員集合、乙だぜ皆さん。

「定刻通りに」

「たったいま到着ー!」

「時間決められないでしょ。集合はできても待ち合わせはできない。それがマケコミでしょうが」

 俺と神田の、集合場所到着時に誰かいたら言おうと決めた台詞を、唯一いた宮崎が気持ちよくスッパリと突っ込んでくれた。

 

「ナイス突っ込みだ宮崎」

「うんうん」

 

 俺らのコメントに微笑してから、「お疲れさま、二人とも」とひとことくれて、

「で? えみりにゃん、お目当ては手に入ったの?」

 と柔らかい表情のまま続けた。

 

「じゃーん」

 聞いただけで満面の笑みとわかる声で、神田はゆーっくりとコートの左内側ポケットから、もったいつけて戦利品を宮崎に見せつけた。

 

「よかったじゃん、まだあったんだ」

「うん。まだ余裕大分ありそうだったよ。流石企業ブース」

 喜びを乗せたまま答えた神田に、宮崎のみならず俺まで表情が緩んだ。

 

「で、ナイトさまも袋をお持ちのようですが?」

「ニヤニヤするなと言っているだろうが」

 わざと文章文章した切り返しをしてやる。

 

「俺も買ってみようと思ったんだよ、わるいか」

 続けて言った俺に、「なーんでっかなー?」とニヤニヤ継続で言い放ってきゃーがった。

 

「そのニヤニヤをやめろ、うっとおしい」

「仲いいよね、二人って」

 フフフっと柔らかに微笑しての言葉。

 

「中学以来の腐れ縁だからな」

 一つ頷いて答えた俺に、

「少女漫画見せた以来の付き合いだっけ?」

 と余計なことを補足しくさった宮崎。

 

「その話はやめてくれないかな、宮崎さん」

 若干視線を強めて言った。が、

「ったって、事実じゃない」

 宮崎は平然と切り返して来た。


 俺のじゃくにらみつけるなんぞまるで効果がないらしい。むしろじゃくだから効果がないのか?

 

「そら、そうだけどさ……わりとこの話、恥ずかしいんですよ、俺にとっては」

「どんな話なの? きーにーなーるうー!」

 楽しそうに、だだをこねるような言い方の「きーにーなーるー」である。

 

 こうなるから、少女漫画見せてくださいエピソードのことを言うのはやめてくれと言うんだ。

 

 

「悪いが神田。たった今から戒厳令をしk」

「実はねー」

「おい!」

「俺の存在をとことん無視して、宮崎の奴は俺の恥ずかしい過去を暴露し始めやがりやがった。

 

「くそ、こいつら」

 悪態以外のなにが出ようか。女子が集まるとかしましいとは聞くが、こんなのはただただうっとおしいだけじゃねーか。

 

 

「案の定君、かわいいんだー」

 全部聞き終えた神田が、含み笑いで言った。

 

「こっちみんな!」

 恥ずかしさに顔を赤くしながら、「くっっ」っと歯噛みするしかない俺ですよ。ええ、俺ですとも。

 そりゃこっちみんなが投げ捨てるようになりますともよ。なりますともさ……!

 

「かわいい繋がりで。ほれ」

 宮崎、なにかをこっちに投げた。ので、慌ててキャッチ。

 

「そしてこれは。神田えみりの分っ!」

 そんなことをほざいて、今度は神田にほうった。

 

「っとと。お、これ。ゆでたまちゃんだ!」

 キャッチした物を確認し、感激の声を上げた。

 

「それ、庵野の代理であたしが買ったんだ。自分の分もきっちり確保してあるから心配いらないよ」

 懐から自分の分のゆでたまちゃんストラップを取り出す宮崎。

 

「そうなんだ、お金に余裕あったんだね庵野君」

 俺の右二の腕を左でポムポムと叩きながら、「さんきゅっ」とにっこり。

 

「ん、お、おお。大丈夫だったんだぜ」

 この笑顔に動揺しないわけがない。くそ、心臓に悪いぜ。

 

 

「元々考慮にいれてたんだってー」

「ちょ、こら!」

「そうなの? なんだー。ならあんなに思わせぶりに言わなくてもよかったじゃ~ん」

 ポムポムの速度と威力を増しながら、ニコニコってよりはニヤニヤして言っている。

 

「神田。お前、宮崎みたいになってないか?」

「そっかな? ただ、からかうと面白いってことがわかっただけだよ」

 ポムポムを止めて言う神田に、「お前……」と呆れた息といっしょに声を吐き出した。

 

 ようやく息が白くなくなったな、そこそこあったかくなってるのか。

 

 

「あ、そだ。ゆでたまちゃん代」

 言葉に神田をチラっと見たら、コートの内側でかけてた ーー のを今知った ーー 薄紫の肩がけカバンをゴソゴソやっている。

 コートの前開いてなかったら、ずっと気付かなかったな俺。

 

 ……宮崎よぉ。「お前が言え」って言う、促すような目線向けるの、やめてくんない?

 でも、たしかにな。俺の言うべき台詞だわな。

 

 ーーよし。

 

「気にするな神田」

「え?」

 神田の手が止まり、俺を見る。

 

「元々」

 ……密かに深めに呼吸を一回。

「立て替えのつもりじゃないからな、神田の分のゆでたまちゃん代持って来たの」

 

 ふぅ。言えたぞ。

 

「え、そうなの?」

「そう。その……元々、神田に買ってやるつもりで。な」

 てれくさくって視線をそらした。宮崎が面白そうにこっち見てるけど、見えない振り。

 

「そうなのっ?!」

「そうなの」

 目を真ん丸にして言うので、しかたないな っていう調子で言ってやる。

 

「まあほら、その……なんだ。ちょっと遅めのクリスマスプレゼントだとでも思って受け取っといてくれ」

「かっこいいモードの続かない奴め」

「チャチャを入れるな」

 ビシっと宮崎に、強めの視線を向けて言う。

 

「いやいやこれはこれは。ありがとうございますサタンさん」

 ペコリと頭を下げながら、明らかにお礼と言うよりからかいの色のする声で言う神田。

 

「サンタだろ、それともなにか? 格闘技世界チャンピオンにでも見えるのか、俺が?」

 まったく。俺の周りにはボケたがりしかいねえのか。

 

「ごめんごめん。ほんとに感謝してるって」

 笑いをこらえきれずと言った声色だ。言った後で、神田はゆでたまちゃんストラップをカバンの中に入れた。

 

「そういえば、そろそろ正午だけどさ。他の男子連中はなーにやってんのかしらね?」

 疲れました、とでも言いたそうに大きくのびをしながら言った。

 

「お目当て以外も見て回ってるんだろうぜ。そんなのは同人ショップですればいいのにな」

「まあ、会場回ってお宝を見つけたいっていう気持ち、わからなくはないけどね。でもねぇ」

 

 一呼吸溜め、そして。

「人を待たせてやることじゃないわよねぇ」

 不満満載で、苦々しい声色で言った。

 

「それには同意する。同意するけど」

 一呼吸溜め、そして。

「集合時間は決められない、って言ったのはどこのどいつだ?」

 疲労を乗せた呆れ声で言ってやった。

 

 

「おうおう、やってるなぁ」

「元気なこって」

「まったくだ。貴様らの体力は底なしか?」

 男子たちが、口々に言いながら現れた。

 

「やっと来たかー。で? 収穫あったの?」

 不機嫌な調子で尋ねる宮崎。理不尽な奴だ。

 

「俺はお目当てが二つほど。その他収穫なしだな」

「目当ては確保できた。他、俺の心を揺り動かすような物は見つからなかったな、残念ながら」

 

「俺は駄目だったよ。まさか後三人のところで新刊が売り切れるとはっ」

 悔しそうに右の拳を握りしめる狭間。

 

「お目当て外も特になし、散々だったっすわー。発掘作業は改めて店でするぜ」

 声色が疲労感で重たい。自分の敗北っぷりを口に出したからなのか、後半は声色にいじけの色が混じった。

 

 どうやらお宝を見つけたのは、斉藤だけだったらしい。

 

「お疲れさまだな。さて、これからどうするよ?」

 一応ねぎらいの言葉をかけつつ、とりあえず男子らに聞いてみる。

 

「戦場を離れてのちに、休息としようではないか。この辺りでは休むに休めまい」

「オバカモトに賛成」

「だな」

 

「その名で呼ぶなと言っているだろうが、硲なる者よ」

「お前のフルネームの最初と最後取ったら鹿と馬なんだからしょうがないだろ。恨むなら親を怨めよ」

 

「理不尽すぎるだろうが!」「理不尽すぎだろ」

 哀れ鹿元。声張ってる方が鹿元な。

 

「んじゃあ、ひとまず。戦場、離脱しましょっか」

 宮崎の言葉に満場一致。俺達はトキオ・メガサイトを後にした。

 

 

 

 ーーたぶんだけどさ。こん中で一番疲れてんの……俺なんじゃね?

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― 新着の感想 ―
[一言] こひゅー、こひゅー……(獲物を静かに探し回る息遣い カリカリカリカリ……(得物の切っ先が石畳を擦る音 「ドコ……りあじゅうドコ……」
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