第三話。メンバー揃っても、やっぱりぐだぐだ。
「それに。男子後一人じゃないと、男女の人数が均一にならないし」
「「合コンかよ」」
ダブルジョウで同時に突っ込んだ。
しかし、俺も斉藤も合コンなる物に行ったことはないし、行っていい年齢だとも思っていない。ただ、イメージとして男女の数は均一っていう物がある。
だから、こう突っ込んだわけである。
俺達の突っ込みを、フフフと軽い笑みで流した神田。「それと」と軽い調子で話の主導権を持って行きつつ、こう言葉を続けた。
「男子の方が多いと、ナニカあった時に止めるの大変だしさ」
さらっと言われたことに、俺達は少なからず衝撃を受けた。斉藤の表情が、見るからに驚いてるので、彼の気持ちが手に取るように分かったのだ。
ただの軽口とも取れるが、しかし神田がこの手の冗句を言ったところを、少なくともこれまで見た記憶がなかった。だから俺達は驚いたわけである。
「と……突然マジレスすんのやめてくれよ。どうしたらいいのか困るだろ?」
驚いた表情のまま、声色に動揺をくっきりと乗せて斉藤が切り返した。それに俺も続く。
「男女同数にする。つまり俺と、神田のクラスの同士男子たちは、その『ナニカ』を起こす心配がない。ってことか」
「うん。じゃなかったらそもそも呼ぼうなんて考えないもん」
なんの滞りもなく、さらっと頷かれてしまった。
「そっか。人を見る目があるな、神田は」
「ん? どしたの案の定君、どんよりした顔して?」
「い、いや……なんでもない」
不思議そうに見上げられて、慌てて首を振った。目は口程に物を言う、実感することになろうとは……。
男として危険がない、と見られている。乙女として無害判定を下してるってことだな。
たしかに俺は、接し方としてはごくごく普通の友人であるし、態度としては口調はともかく草食系だからやむなしかなぁ。
って言ってもその評価を覆して、少女漫画的男子な強引な展開は勿論、薄い本的な展開 ーー なんとなくの雰囲気は知ってるものの、対象年齢の外だから持ってもないし読んだこともないけどさ薄い本。興味がないわけじゃないけどな。 ーー に持っていける度胸はない。
とはいえ現状の距離感、警戒心持たれたり、あまつさえさけられるよりは五億倍ぐらいましだ。
……うん、神田の人物評は正しいな。
え? 俺がなんで少女漫画の男子について知ってるのか?
少女漫画に興味があって、前に見せてもらったことがあったんだ 神田が静香ちゃんって呼んでる奴に。
その当時じゃ刺激が強くて、すぐ返したんだけどな。ただそのおかげで、女子が男子より遥かに早く恋愛ごとに、具体的に知識を持つ理由がよくわかった。
「なるほどなるほど。つまり俺は『危険な男』ってことだな」
「どういう意味に解釈したのか知らんが。切り替えの早い奴だな、お前は」
ニヤリと悪そうに笑む斉藤に、またやれやれな突っ込みが漏れた。そしたら神田が、また楽しそうに笑う。
斉藤へのやれやれは、この笑顔に癒してもらってるようなもんだ。感謝感謝。
なんてしてるうちに、電車が会場最寄駅に到着したとのアナウンスが流れた。なので、俺達は少し込み合う車内から外に出た。
ーーああ、また極寒地獄に逆戻りか。
***
「いやー、晴れてよかったよなぁ」
会場待機の列に並ぶより前に、後から来るという神田組みとでも言おうか、神田のクラスのオタク仲間たちを待っている。駅を出て少し、まだそう時間は経ってない。
斉藤がなぜこんなことをしみじみ言ってるのかと言えば。
「うまい具合に日が当たってるところが、人いなくて助かったな」
というわけである。
夏場は風が来ないことが地獄だけど、冬場は風が来ないことが救い。季節の寒暖が逆転するだけでこうも違うかと、こっそりと感心している俺である。
「ほんと、太陽の力は偉大だよねー」
思いっきりのびをしながら神田が言う。フードかぶってると暑いのか、フードを脱いだままだ。
髪が長いとそこまで体感温度がかわるのか? 体験したことがない身からすると、不思議な間隔だ。
「日輪の力を借り受けて。今、必殺の! サン! バーン!」
「それただの日焼けだろ。まったく、なんて登場だよ。顔突き合わせるのは久しぶりだな、宮崎」
「だねー。えみりにゃん、おはよ」
「おはよ。って、え゛? 静香ちゃんと案の定君って知り合いだったの?!!」
えに濁点がついたような声色で、軽くたたらを踏むほど派手に驚いた神田に俺の方が驚いた。
「なんと!」
「へー、こいつは意外だぜ」
男子二人も意外そうだったりびっくりしたりしている。なるほど、妙なリアクションをした方が鹿元って奴だな。
堂に入ってると言っても過言じゃない厨二病口調っていう事前情報は、宮崎からもらってるおかげで判別できた。
「そんなにびっくりすることか? っていうか宮崎、お前 言ってなかったのか?」
「言う必要ないと思ってたからね」
「ちょっとぐらい話題に出なかったのか?」
「出なかったなー」
「まったくか?」
「うん、まったく」
「マジかよ……」
シレっと言われた言葉に、衝撃を受けざるをえない。
「自分のことは自分で言えばよかったんだよ。あたしに手伝ってもらわなきゃメアドも知れない草食系じゃ無理か~」
からかい200%な雰囲気に「やかましい」と乱暴に言の葉を叩きつけ、
「完全に輪が出来上がってるところにいきなり行けるか」
更にぶっきらぼうに続けた。
だが、「別に気にしなくてよかったのに」とさらっと神田がまたも言い放った。放ちやがったのだ……!
「ああ……そうだったんですか」
「気にしすぎだったなぁ案の定君よぉ」
「ニヤニヤすんな」
「いて、肘鉄やめろ 地味にいてえんだぞ」
「あったまるだろ?」
「くそ、またそれか……鬼め」
「鬼はくそ寒い中俺を引きずり出したお前だって、さっきも言っただろうが」
「よっ、天然コント!」
「褒められてる気がしないんだが……」
じとめで宮崎を見ると、「褒めてるよ。あんたら見てると暇しなくて済みそうだし」とあっさり。
「無慈悲だな、神田の周りの女子は」
「周りの?」
「ああ、『周りの』、だ」
からかう気しかない噛み殺しニヤリの宮崎に、きっぱりと言い返す。
そしたら「ふぅん」となにやら訳知り声で、含み笑いを返してきやがった。
ーーなんだってんだ、いったい。
とまあこんな雑談をしながら、開場待機列に向かいつつ、開場を待つことになった。
……わけなんだけど。
***
「待機列入ったとたん、なんでみんなしてゴッサーやり出すんだよ……」
俺の困惑のひとこと。見てると暇しないで済みそうだ、とか言ってた宮崎静香もである。
ゴッサーとは、Fighte/Got Oatherっていう、アドベンチャーゲームのシリーズであるFighteを題材にしたソーシャルゲームのことだ。
「大丈夫大丈夫、バッテリーなら心配いらないから」
「そこじゃないんだけどなぁ。まあ、たしかにスマホのバッテリーも気になったけど」
宮崎の答えに苦笑いで言葉を返した俺。
俺の方は予備バッテリーとか携帯充電器とか、その手の充電手段を持ってきてないため、気軽にソシャゲを起動できないのである。ソシャゲ、バッテリー食うからな。
「備えあれば嬉しいな、っていうじゃないか案の定君。備えが足りん」
「踏み込みは足りてるぞ。お前の顔面にグーが届く程度の距離にいるからな」
斉藤の軽口に、こちらも軽口を返す。
「よくもまあ、そんなにボケ突っ込みがポンポン出て来るなぁお前ら」
そう感心したのは神田組み男子の片方、たしか狭間誠也だったか。神田がセイヤーって呼んでる方だ。
「朝から頭の回転早いよねぇ、二重顎」
神田組みのみならず、周りの一部からも吹き出されてしまった。
「だから、その呼び方は……」
注意しかかったが、折れないことを思い出して途中で止めた。
注意の言葉を止めた代わりに溜息が出たのは言うまでもない。
「言わなきゃ二人のことだってわかんなかったかもよ?」
「いや、今の会話の流れでわかったと思うぞ」
宮崎に言葉を返したら、「せっかくフォローしてやったのになー」と軽口が返って来た。
が、その表情には若干のがっかりが見えた……ような気がした。
「さて、これから開場まで。俺、なにやってよ……携帯ゲーム機も持ってこなかったしなぁ」
やれやれ、とまた溜息が出た。
「流石の案の定っぷりだな」
ニヤニヤの斉藤には、「はいはいそうですね」と投げやりに答えるのがやっとだ。
元はと言えばこいつがせかしたせいだっていうのに、まるっきりの他人事でやがる。
それにしても。
ーー開場前からこんなに疲労感背負ってて……俺。大丈夫なんだろうか?