最終話。今年の終わりと、今年の始まり。
「今回も見て正解だったなぁ」
Fighte大晦日スペシャルが終わって、俺の第一声。一番最初に声を出したのも俺だ。
「そうだね。新情報もあったし」
神田の同意。
「シリアスな作品の関連ギャグ作品って、なんでこうまでカオスになるんだろうなぁ」
宮崎の余韻笑いな声。
「いろんな意味で、言葉がない」
畑宮が、激情版を食い入るように見て、その直後に繰り広げられた180度テイストの違うゴッサー漫画のアニメ化のテンションに、口をあんぐりさせてのひとこと。
大晦日スペシャルにすっかり目を回させられた模様。あのドシリアスの直後にあれじゃしかたない。
「お前ら、余韻に浸ってる場合じゃねえぞゴッサーログインしとけ! カウントダウンボイスとあけおめボイス聞けるらしいぞ!」
狭間から鼻息荒く告げられた衝撃の情報、ってマジか!
「急に黙ったなぁと思ったら狭間。アンタ、|Fighte見ながらゴッサーしてたの」
「って言いながらゴッサー起動すんのか、余裕だな畑宮。こっちはスマホ取り出すところからだってのにっ」
「急がなきゃだねっ!」
「えーっと、あたし。スマホどこ置いたっけ?」
寝耳に水な情報を聞いて、にわかに慌ただしくなる俺 宮崎 そして神田。俺達三人スマホを探してバタバタし始めた。
「既に手元に確保しておいた我に隙はなかった」
「おのれ鹿元お前もか!」
なんぞと騒がしくしながらもスマホを確保。直後にゴッサーを起動する俺達三人。
「あぶねー!」
「ギリギリだー」
「みんな、ボリューム上げないと聞き逃すわよ!」
宮崎の言葉に、全員が「あ、そうだった」とスマホのボリュームを慌てて上げた。
普段ボリュームをほぼ消音な大きさでプレイしていると、ついつい音量を弄ることを忘れてしまう。
目だけで充分プレイできるから ぶっちゃけボリュームはなくても問題はないのだ。それでも、ふとボリュームありでプレイしたくなることはある。
たとえば技演出の際にどんな台詞を言ってるのかとか、そもそもどんな声なのかとかETC。
ゲームから得られたカウントダウンとあけおめボイスの情報を見る。
「なるほど、カウントダウンはプライベートスペースで、指定使いま一人だけか。あけおめボイスは一週間程度は聞けると」
言いながら大急ぎで操作する。プライベートスペースとは、自分手持ちの使いまと交流できるシステムを使うことができるゲームモードのような物である。
「なー、全員のゲームが喋るせいで誰が誰やらわかりずれー!」
「しかもテレビも盛り上がってるし。カオスだよー!」
神田の楽しそうな絶望の叫び。しかし直後、そのテンションは一瞬にして静まった。
更に全員が黙った。なぜなら。
『10。9。8』
新年へのカウントダウンが始まったからだ。全員が、己のスマホを耳に当ててるのがなんともシュールである。
しかたないのである。全員のスマホが別々のキャラクターの声を発し、更にテレビまでが大盛り上がり。こんな絵面になってしまうのはしかたないのである。
さけられないのだ。定めなのだ、デスティニーなのだ。
『4。3。2。1。0』
来るぞ
『あけまして、おめでとう、ございます。新年初めは、こう言うんだったよな。今年も、マスターと共に戦って行く覚悟だ。改めてに、なるが。よろしく頼む』
最初はたどたどしく。最後は少してれくさそうに。今のはそんな風に新年の挨拶をして来た、現在俺のプライベートスペースに設定してあるフェンサークラスの女騎士使いまの台詞である。
どうやら全員台詞が終わったようで、一斉にスマホを耳から放してお互いを見合って。そして、
「あけおめー」
ぐでーっとした調子で全員同時に言った。が、一様に表情がニヤけている。
この顔は、シュールな絵面に対する苦笑と、使いま台詞に対するニヤニヤの複合フェイスだろう。
ーー今までで一番気の抜けた、あけましておめでとうございますだったのは言うまでもない。
畑宮まで使い魔に入れ込んでるのは、本当に意外だ。ついじっと見てしまい、「なに?」と不信感全開で睨み返されてしまったが。
「く、くくく」
全員が全員似たようなニヤニヤ顔なのがおかしく、耐え切れなくなってしまった。
「なんだお前ら、みんな似たような顔しやがって」
笑いながらで言わざるをえなくなってしまった。
「ふふふ、そういう案の定君だってニヤニヤしてるじゃない」
神田にビシっと指差して言われて、しょうがないだろ、と必死に歯を食いしばって笑いを噛み殺して言い返した。
「あははっ、笑うのほんとに噛み殺してる」
神田、新年一発目の大笑いし始めた。笑いの沸点 低いのか? それとも俺の顔がよっぽどひどかったのか……。
そんな俺達の笑いがトリガーになったか、他の面子からも笑いが漏れ始めた。
それにつられたか、一回噛み殺した笑いが戻って来て、そこから全員大笑いになった。
ーーなんだ、この青春学園ドラマみたいな笑いの広がり方。
「やべ、ツボった!」
こりゃ、暫く笑いが収まりそうにねえ。
***
「寝られるかバカ野郎」
寝言のように呟く。現在時刻は、たぶん御前三時ぐらい。畑宮の希望で明かりを消さずにいるので、目を開けるとまぶしい。
ので、目を開けないようにしているものの、薄目が開いてしまい閉じたり開いたりを繰り返している状態だ。
布団に乗れなかった二人 鹿元と狭間がBGM替わりにテレビを流しながらゴッサー中である。会話内容からそれはわかる。
だが、俺がぼやいたのは男子にではない。布団に寝ている人間の配置である。
ーーなんで寄りにもよって男子から近い順に、
俺 神田 宮崎 畑宮
なんだよ!
しかもなるべく熱を逃したくないとかで、とても距離が近いのだ。
ありがたふざけたことに、くっつかんばかりの距離なのであるっ!
布団を自分に巻き付けて触れないようにしたかったのに、同じ保温を理由に無慈悲に却下された。
「……気持ちよさそうに寝やがって」
すうすうと静かな寝息を立てる横のちびっ娘を見て、恨めしい息といっしょに言葉が漏れた。
ーーそっか。そうだよな。こいつ。一人で今日の支度、してたんだよな。昨日朝っぱらからマケコミ出た上に、あんなことがあったお疲れ状態で。
「お疲れさん、神田。ぐっすりねとけ」
今さっきの悪態とはまったく逆の気持ちで、そう小さく声をかける。聞こえてるはずがないのをいいことに。
「っ?」
ゆっくりと。まるで聞こえてたように、神田の顔がこっち向いてびっくりした。けど、目はしっかりと閉じてるのを確認して、ほっと密かに息を吐く。
「やれやれ、心臓に悪いぜ」
……まてよ? こうして元日俺達がいっしょにいるってことは、全員起きて一段落ついたら初詣……なんて展開になるのか?
神田と……初詣。おいおい、考えただけで鼓動が走り始めたんですけど。
「意識しすぎだろ、俺」
苦笑である。これ以上ないほどに苦笑である。
「よし。イベ限教科分込みでコンプだっ」
小声叫びでガッツポーズでもしてそうな鹿元。男子の方を向いてないので、声の調子で推し量るしかないが、
それでも即刻察することができるほどに素直な声色。
「ほんとお前、運いいよな」
豪運鹿元、か。宮崎のメール評に偽りなしらしい。無課金でイベント限定物を、強化分込みでコンプしたようだ。
……つまりそんだけダブったってことだ。総じてレアリティの高い傾向のイベント限定物を、だ。
「化け物かよ」
思わず愚痴めいた、呆れと羨望と嫉妬の混じった声が吐きもれた。
「よっしゃ、正月限定バージョンゲトー」
小声叫びの狭間・てんぷら奉行・誠也の声である。こうも高レア物を立て続けに引き当てるさまを聞かされては。
「寝られるか、バカ野郎」
モゾモゾと仰向けからうつ伏せに反転し、スマホを掴もうとする。と、俺のスマホのすぐ隣に神田のがあるのに気が付いた。
「あ……ゆでたまちゃん。つけてたのか」
すぐにスマホにゆでたまちゃんストラップをつけててくれたのがわかり、俺の表情は高レアリティを引き当てた時よりも、よっぽどほころんでいる。
なんせ、
ーー俺も即刻装備したからだ。
「さて。始めますか」
ゲームを起動。
すると。
『ファイト。ゴットオーサー』
最大ボリュームでキャラクターによるゲームタイトルの台詞が鳴ってしまったのだっ!
「いけね、ボリューム下げ忘れてたっ」
慌ててボリュームを落としたが。
「んー」
だだをこねるような神田のみじろぎ声。
「なに?」
眠そうな宮崎。
「うるさいなぁ」
同じく眠そうな畑宮の、不満満載の声。
「ボリューム落としとけよ」
「今年最初の失態だな、小さき者を愛でし漢よ」
「申し訳ないっす」
ガックリと布団につっぷする。
が、すぐに起き上がり、
「鹿元。表でその呼び方、絶対にすんなよ」
体ごと向いて、全力で睨み付けて言った。
「あ、ああ。り……了解した」
予想外のにらみつけるだったのか、鹿元は面喰いながら肩をすくめた。若干怖がってる風に見えるな。
「さて。おみくじ代わりの運試しだ」
そうして、ガチャを回す俺。その、結果は?
「十連一回……持ってないのが二人、か。末吉ってところだな」
ま。よしとするかな。
「ふぁ。あー、駄目だ。意識集中さしたらとたんに眠くなって来た。お前らも仮眠とっとけよ」
二人に声をかけつつゲームを終了。スマホ共々俺もスリープ状態になるべく、改めて横になった。
「ことよろ、な。神田」
横で寝てる少女にひとことかけてから、俺はゆっくりと目を閉じた。
いい一年になりますように。なんて。キャラじゃねえけどな。
THE END