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漫画家はみかんじゃありません

 私とユイチは、二手に分かれてチヒロを探した。彼には漫画喫茶に泊まる金もないのだ。金もない上、かなり体力が落ちているはずだ。遠くへは行けないはずだった。まだ9時だというのに、残暑厳しい日差しが照りつけてくる。

 私は立ち止まり、滲んだ汗を拭った。ふと、視界の端で何かが光った気がした。


 きらりと光るのは、線路だ。もしかして、チヒロは駅に向かったのかもしれない。暑さに耐えながら線路脇を進む。線路内にチヒロのすがたが見えた。私は息を呑み、フェンスに指をかけて叫ぶ。


「チヒロさん!」


 チヒロはうつろな表情でこちらを見た。


「……東大寺さん」

「何してるんですか、危ないから早く出て」

「ユイチ先生って、すごいですよね」


 彼はぼんやりした口調で言い、手にしたネームを眺めた。


「話しててわかったんです。あの人は本当に無欲なんだ。だから、こんな漫画が描けるのかな」

「チヒロさん」

「それとも、才能の違いなのかな」


 カンカンカン、と遮断機が鳴り始めた。私はフェンスを乗り越え、チヒロの腕を引く。チヒロの手からネーム用紙が舞った。チヒロはよろめいて、私のほうに倒れこんできた。ごうっ、と音がして、すぐそばを銀色の車両が走っていく。私は唇を震わせ、チヒロの襟首を掴んだ。


「何してるんですか! 死にたいの!?」


 チヒロは何も言わず俯いている。その手には何もない。私はハッとした。


「ネーム……!」


 私は、散らばったネーム用紙をかき集めた。すべてそろっているか確かめていたら、靴音が聞こえてきた。顔を上げたら、フェンスの向こうに、ユイチが立っていた。


 ユイチはフェンスを登ろうとしたが、かなわずにずり落ちた。彼は頭をかいたあと、フェンス越しにチヒロをじっと見た。


「ネームは、あげられない」

「……」

「俺の作品だから。自分で描きたいんだ」

「ごめん、なさい」


 チヒロは俯いて嗚咽を漏らした。私はぎゅっと拳を握りしめ、勢いよく立ち上がる。


「高徳社に行ってきます」

「え」


 ユイチが動揺を見せる。チヒロを支えて線路内から出た私は、ユイチにチヒロを託した。


「見てあげててください」

「灯台さん、やめたほうがいいよ」

「大丈夫です」


 私はユイチに背を向け、ネームを掴んだまま足早に歩き出した。



 高徳社は、業界第1位の業績を誇る出版社だ。そびえ立つビルを見上げ、ロビーに掲げられた案内板を見て、ユーリアンの編集部へ向かう。ドアを押し開け、久田の席へと向かった。彼は原稿を読んでいた。私がそばに立つと、顔をあげる。


「あれ? 東大寺さん」

「ちょっとよろしいですか」

「いいですけど、今忙しいんだよなー。新人賞の原稿読んでるんで」

「すぐ済みますから」


 私はブースに入って、久田と向き合った。彼は原稿を机に放り、


「選評書かなきゃいけないんですけど、書きようがないんですよね。つまんなくって」


 頭の後ろで手を組んだ。


「しっかし、漫画家のレベルも下がったよなー。今って同人レベルの作家が簡単にアニメ化しちゃうような時代でしょ? どれもこれも、絵は上手いけど話がなってない」

「絵が上手いのは大事でしょう。ユーリアンは画力重視だって聞きましたが」

「昔は違いましたよ。両方揃ってるのが当たり前でした」

「何もかも完璧な新人が現れたとして、編集者は何をするんですか」


 私の問いに、久田は眉をあげた。


「編集者の仕事は漫画を売ることでしょう。賞を獲らせて、アニメ化、ドラマ化、実写映画化。色々ありますよ。いくら内容がよくたって、漫画家単独でそれができます? できないでしょう」


 彼は原稿を指でトントン叩いた。


「漫画家を育てるなんて古いんだよなあ。昔と違って、こっちはそんな余裕ないんだからさ」

「さっき、昔の漫画はよかったって言いましたよね。矛盾してませんか」


 私の言葉に、久田がむっとした。


「それはさ、言葉のあやでしょ。理屈っぽいんですねえ、東大寺さん」

「T大ですから」

「え、そうなんだ」


 すごいですね。久田がそう言う。わずかにやっかむような口調が滲んでいた。


「ま、編集者の能力と出身大学は関係ないしね」


 彼は椅子の背に肘を乗せ、


「で、何か用」

「神坂チヒロさん。ご存知ですよね」

「ああ、昨日のね。何か言ってました?」

「自殺未遂しました」


 私の言葉に、久田が眉を寄せた。


「え?」

「線路に飛び込もうとしてたんです」

「え〜、迷惑ですねえ」


 その言葉に、私は耳を疑った。


「で、なんか言ってました?」

「何がですか」

「僕のこと。困るんだよなあ、訴えるとかなんとか言われたら」

「……神坂さんを追い詰めた自覚はあるんですね」

「追い詰めたって、こっちが求めるクオリティに達してないから直せって言っただけですよ。被害者ヅラされたらたまったもんじゃない」


 私はネーム用紙を机に置いた。


「なんですか、これ」

「ユイチ先生のネーム用紙です。神坂さんは、これを盗んで逃げました」

「ユイチ? 春海ゆうの?」


 久田は好奇心の滲んだ声で、ネームに手を伸ばす。私はそれをそれを阻んだ。


「謝ってください、ユイチ先生に」

「なにをですか」

「昔あなたがやったことを。神坂さんにもです。謝ってください」

「なんで僕が。こっちの要求に応えられないほうが悪いんでしょう」


 彼は面倒そうに私を見て、ため息を漏らした。


「腐ったみかんってやつだよな」

「……なんですか?」

「上手くいかないのを編集者のせいにする。契約書を無視して出版社の内部情報をベラベラ喋る」


 ツイッターとかでよくいるでしょ、困るんですよ、アレ。久田はそう言った。


「才能のない漫画家は雑誌を腐らせるんだよ。読者はそういうのに敏感だから」

「……」


 彼は立ち上がり、私の肩をぽん、と叩いた。


「ま、あなたがそういうのの面倒を見てあげればいいじゃないですか。ごねる才能だけは一人前の漫画家もどきを」


 私は、行き過ぎようとする久田の襟首を掴んだ。


「うわ、なに」

「漫画家はみかんじゃありません!」

「はあ?」

「ユイチ先生には才能があります。見抜けないあなたが無能なのよ!」

「なに言ってんだ、離せよ!」


 久田が私を突き飛ばした。私は壁にぶつかって呻く。私の肩に、誰かが触れた。顔をあげたら、ユイチが立っていた。


「灯台さん、行こう」

「ユイチ先生……神坂さんは」

「大丈夫。寝てるから」


 久田は憮然としながら襟元を直す。


「早く連れて帰ってくださいよ」

「すいません」


 ユイチは久田に頭を下げ、ネームに目をやった。


「久田さん」

「は?」

「俺、この作品で漫画賞をとります」


 私は思わずユイチを見た。久田が鼻で笑う。


「春海先生には無理じゃないかなあ。漫画賞ってのは、売りたい漫画に与えるものだから」

「売りたい漫画って、なに?」

「アニメ、ドラマ、映画向きの漫画だよ。無理でしょ、三流エロマンガ家には」


 ユイチはかぶりを振った。


「俺は思う。漫画って媒体でしか表現できない作品が、本当にすごい漫画なんだって」


 久田が鼻を鳴らした。


「売れない漫画家が言いそうな台詞ですねえ」


 ユイチは私の手を引いて、編集部を出た。エレベーターに乗り込むと、背中をつけてはあ、とため息を漏らす。


「なんか、すごいこと言っちゃった」

「先生ならできます!」

「灯台さんが言うなら、できる気がする」


 ユイチは、私を心配そうに見た。


「大丈夫? どっかぶつけてない?」

「大丈夫です。あんなヘナチョコに突き飛ばされたくらいで怪我しません」

「T大だから?」

「はい」


 胸を張ったら、ユイチがふ、と笑った。


 翌日、私はユイチと共に神坂を見送っていた。神坂は新幹線のホームで、私たちに頭を下げた。


「本当にすいませんでした」


 ユイチはごそごそとポケットを探った。メモ用紙を取り出す。


「線路に入りたくなったら、電話して。話、聞くから」


 チヒロはメモ用紙を手にし、頭を深く下げた。それから私に目を向ける。


「借りたお金は、必ず返します」

「大丈夫ですよ、急がなくて。これでも大手出版社勤務なので」


 私の言葉に、チヒロが笑う。


「それで……漫画はどうするんですか?」


 私の問いに、チヒロはわからない、と答えた。


「とりあえず、バイトします。金ないし」


 その時、ホームに新幹線が滑り込んできた。じゃあ。背を向けたチヒロに、ユイチがこう言った。


「漫画、続けて。いい編集さんも、たくさんいるから」


 かすかに、チヒロの目に涙の膜が張った。


「ありがとう」


 チヒロは新幹線に乗り込み、私たちに手を振った。私とユイチは手を振り返し、流線型の車体が去っていくのを見送った。ユイチは手をおろし、


「……無責任だったかな」


 私はかぶりを振った。


「ユイチ先生がなにを言っても、選ぶのはチヒロさんですから」

「そうだね」


 帰って漫画描かなきゃ。ユイチはそう呟いた。


 ★


「ねえ、聞いた? ギリアスの編集部に、うち(白英社)の編集が乗り込んだって」


 自販機でコーヒーを買っていたら、そんな声が聞こえてきた。私は小銭を入れる手を止める。


「えー? 誰よ、一体」

「なんだっけ、こんぺいとう? って雑誌の」

「なにそれ、少女漫画誌?」


 金瓶梅よ。なによ、こんぺいとうって。彼女たちは私の視線に気づいたようで、こちらを見てひそひそ話す。私は慌てて小銭を入れ、ボタンを押した。取り出し口からコーヒーを出そうとして、こぼしてしまう。


「ああっ」


 慌てて近くの手洗いに入ると、葵が化粧直しをしていた。鏡ごしに視線が合う。私はどうも、と挨拶し、手を洗った。彼女は口紅を指先でのばしたあと、ちらりとこちらを見る。


「ねえ、あなたユイチ先生に何か言った?」

「何かって?」

「最近、前と様子が違うのよ。漫画賞のことなんか全然興味示さなかったのに、どうやって決めるのかとか、色々聞いてきて」


 私は思わずニヤッとしたが、葵が胡乱な目で見てきたので慌ててこう返した。


「べつに、漫画賞を欲しがるのは普通のことなんじゃないですか?」


 その回答に、葵が眉をあげた。


「ま、いいわ。これからユイチ先生と食事なの」


 鼻歌交じりに香水を吹き付ける葵に、私は半目になった。


「香水を控えた方がいいですよ。ユイチ先生、匂いとかに酔いやすいから」


 葵はふん、と鼻を鳴らし、私を横目で見た。


「ひとつ聞いていいかしら?」

「はい?」

「あなた、ユイチ先生とはなんでもないんですよね」

「どういう意味ですか」

「恋仲じゃないわよね、って聞いてるの」

「べつに……」


 告白されたが、付き合わなくてもいいと言われた。そう説明したら、なんなのそれ、と鼻で笑われそうな気がした。


「それを聞いて安心しました」


 葵の笑顔がやけにギラついて見えたので、私は慌てた。


「ちょっと、ユイチ先生になにする気」

「食事だって言ってるでしょう? じゃあ」


 葵はひらひら手を振り、ヒールを鳴らして去っていく。私はスマホを取り出し、メールを立ち上げた。ユイチのメルアドを呼び出し、こう打つ。


「徳川葵の毒牙に気をつけてください」


 送信ボタンを押そうとして、思い留まる。私が何か言う権利なんかないんだ。


「……頑張って、ユイチ先生」


 そう書いて送信する。返信はこうだった。


『灯台さんも、頑張って』

「はい」


 私は頰を叩いて、洗面所を出た。


 そして、ユイチの読み切り作品は月刊ギリアス一月号に掲載されることになった。



「う〜、さむっ」


 その日、私は朝一番で書店に並んでいた。十一月ともなると朝は冷える。ガラガラとシャッターの並ぶ音が響いた。店主は待ち構えていた私を見てギョッとする。


「うおっ、なに!?」

「月刊ユーリアンありますか!?」

「あるけど……」

「一冊ください!」


 店主は会計しながら、


「並んでまで買う雑誌かねえ」

「はい。未来の大漫画家が描いた作品が載ってます」

「はー、手塚治虫みたいな?」


 私は店先で雑誌をめくる。春海ゆう、という作者名に手を止めた。「あかりの音」というタイトルが目に飛び込んでくる。


「ユイチ先生の……すごい、センターカラー」


 歩きながら読んでいたら、前から来たサラリーマンにぶつかった。


「あ、すいません」


 いろんな人にぶつかりながら出勤した私は、ギリアスを編集部のみんなに見せた。南澤はページをめくり、


「わあ、本当に載ってる」


 北野はユイチの漫画を読んではしゃぐ。


「面白いっす! だけどエロがないっすね」

「当たり前でしょ、一般誌なんだから」


 南澤は巻末についていたハガキを切り取り、


「みんなでアンケート出そうか」

「じゃあ、もっと買ってこなきゃですね」

「俺、かーちゃんに電話して書いてもらいますよ」


 わいわい騒いでいたら、西矢がやってきた。


「なに、楽しそうだな」

「編集長、見てください。ユイチ先生の読み切り漫画ですよ!」


 私がページを指差したら、西矢がため息をついた。


「あのなあ……休刊になろうってのに、他の雑誌買ってる場合か?」

「でもおめでたいので」

「めでたかろうが、うちの売り上げには関係ないしな」


 西矢はさっさと自分のデスクへ向かう。北野が唇を尖らせた。


「編集長って意外と冷たいんすねえ」


 私は、西矢のカバンがやけに膨らんでいることに気づいた。私は彼のカバンを引っ張り、中を覗き込む。


「おいなんだよ」


 カバンの中には、ギリアスが二冊入っていた。北野がこちらに来てニヤニヤ笑う。


「あー、編集長二冊も買ってますよー」

「アンケート用ですよね」


 南澤は微笑ましそうな顔をしている。


「違いますー。グラビア表紙が足立ゆかちゃんだから保存用に買ったんですー」

「編集長ツンデレなんすか? 誰のウケ狙いっすか、いてえ」


 西矢は北野の頭をはたき、座ってギリアスを読み始めた。


「南澤さん、見ました? 今のパワハラっすよね」

「はは」

「笑い事じゃないっすよ、もー」


 笑っていたら、私のスマホが着信を告げた。メールが届いている。


「ユイチ先生、ネームできたそうなので行って来ます」


 私が席を立つと、西矢がアンケートハガキを差し出してきた。


「これ、出してきて」


 アンケートには、「あかりの音」の感想がびっしり書かれていた。私はくすりと笑い、ハガキを手に編集部を出た。


 ユイチの自宅へ向かう前に、春海堂へ向かった。のれんをくぐると、佳乃が笑顔で出迎える。


「東大寺さん、いらっしゃい」

「こんにちは。カステラ一ついただけますか?」

「はい、毎度ありがとうございます」

 私は、店内に並べられた椅子のそばに、雑誌があるのに気づいた。

「あれ? これって」


 月刊ギリアスだ。佳乃がくすりと笑う。


「いつもは漫画置いたりしないんだけど、お父さんが置けって。朝一番で買ってきたのよ」


 稲造も寒い中、足踏みしながら開店を待ったのだろう。


「読まれました?」

「ううん、まだ。あとでゆっくり読もうと思って」


 佳乃はカステラを渡し、ユイチによろしくね、と言った。


801号室のインターホンを押すと、ユイチが顔を出した。私は笑みを浮かべ、ユイチにあいさつする。


「おはようございます、ユイチ先生」

「おはよう」


 私はコーヒーを淹れ、カステラと一緒にユイチに差し出した。彼がカステラを食べる間に、ネームをチェックする。


「この話、二回に分けたほうがいいですね。それで、次回を最終回にしましょう」

「うん、ちょっと尺が足りない気がしてた」


 ユイチは頷いて、パソコンに向かう。私はずいっと身を乗り出した。


「それで、『あかりの音』の件ですが!」


 彼はびくりとして身を引く。


「……近い」

「すごくよかったです。あかりがとっても可愛くて。点字のメッセージを読み取るシーンとか。あと、この見開きのシーンは本当に音が聞こえてくるようでした」


 ギリアスを取り出し矢継ぎ早に言うと、ユイチが目を細めた。


「灯台さん、変わったね。最初、漫画全然興味なかったのに」

「ユイチ先生の漫画が好きなんです」

「……漫画だけ?」

「はい?」


 ユイチは顔を赤らめ、なんでもない、とつぶやいた。私はうきうきしながら言う。


「編集部のみんなでアンケート出す予定なんです。編集長なんか二冊も買っちゃって」


 ユイチは顔を赤らめ、恥ずかしいからやめてほしい、と呟いた。


「それでアンケート悪かったら、目も当てられないし」

「大丈夫ですよ、面白かったんだし」


 私は再び漫画を読み始める。ユイチは私を見てふっと笑い、デジタルペンを握った。



 そして、その三日後。出勤すると、皆がパソコンの前に集まっていた。何かあったのだろうか? 私は彼らに寄っていき、どうかしたのかと尋ねる。

「おう、まつり。これ見てみろよ」


 西矢はそう言って、画面に向かって顎をしゃくる。私は脇からパソコンを覗き込んだ。有名なまとめサイトに、漫画の感想ツイートがまとめられている。


「これって……」


『伝説のバスケ漫画【ダブルスコア】春海ゆうが復活! 読み切り作品のヒロインは、盲目のバイオリニスト』


「@agjd めっちゃ泣いた(´;Д;`)」

「@Macj 灯たんぐうかわ。連載化希望」

「@giant_dag 相変わらず絵うまー」

「@jarion_mania こんなんよりダブルスコアの続きかけよ」


 否定的な意見も多少はあるが、その多くは絶賛ツイートだ。目でスクロール画面を追っていたら、電話が鳴り響く。


「ゆ、ユイチ先生」

「こんにちは」

 いつも通りの淡々とした声が聞こえてくる。

「『あかりの音』、すごく話題になってますよ!」

「うん……それで、連載決定した」

「!」


 私は通話口を押さえ、編集部員たちに、ユイチ先生、連載決定しました! と告げる。彼らはおー、と声をあげ、拍手する。西矢は万馬券が当たった時並みに喜んでいる。私は電話口に向き直り、


「おめでとうございます!」

「ありがとう」

「もっと喜んでください。ギリアスですよ? 50万部の雑誌ですよ」

「喜んでるけど」


 びっくりしてる。ユイチはそう呟いた。私は興奮気味に言った。


「お祝いしましょう! 佳乃さんたちにも伝えて……」

「あ、ごめん……ネーム、やらなきゃいけないから」

「あっ、そうですよね」


 じゃあ、また。ユイチはそう言って通話を切った。

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