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お熱いのはスキヤキ

 ユイチに女の影が見えたことはない。しかし、彼ももう23だし、彼女がいてもおかしくはない。だがなぜだろう、私は今の状況に、ひどく動揺していた。

 ──しかし、何かがおかしい。ユイチは気絶しているように見えるし、女はスーツ姿だ。


 これ、どういう状況?


 ユイチはう、と呻いて身じろぎし、薄眼を開けた。私に視線をやり、それから覆いかぶさっている女をみてギョッとする。


「徳川さん、どいて」

「あら、ごめんなさい」


 徳川と呼ばれた女性は、ユイチの上からどいて、私に視線を向けた。スタイルのいい美人で、目元のほくろがやけに色っぽい。彼女は私をジロジロ見て、


「あなたは?」

「東大寺まつりです。ユイチ先生の担当編集者で」


 私が言い切る前に、彼女は名刺を差し出してくる。


「徳川葵です」


 差し出された名刺には、「白英社 月刊ギリアス編集部」と描かれていた。


「ギリアス?」

「『黒猫探偵局』を連載してる、青年漫画雑誌ですわ。月9ドラマ化されて、今度映画化されますのよ」


 そんなことも知らないのか。葵の目はそう語っていた。

 漫画編集者が、なぜさっきユイチを押し倒していたのか。そう尋ねる前に、葵はユイチにぴたりと密着する。


「ぜひ先生にうちの雑誌で連載を、と思っていまして」


 私はむっとして言う。


「先生はうちで連載してるんですけど」

「あら、なんて雑誌かしら」


 私は、名刺を突きつけた。


「月刊金瓶梅編集者、東大寺まつりです」

「金瓶梅……?」


 彼女は眉を寄せ、スマホをいじった。


「まあ、成人誌? 中学生と教師の……」


 彼女は唇から吐息を漏らした。


「先生ったら、そういうのがお好きなら私に言ってください。制服を取り寄せますので」


 艶っぽい声を出す葵から、ユイチはじりじり後ずさる。


「いや、漫画だから。制服が好きとか、そういうんじゃないから」

「ふふ、照れなくてもいいじゃないですか」


 私は葵の襟首を引っ張った。


「ちょ、なに?」

「わかったでしょう、先生はうちの作家なんです。ちょっかい出さないで」

「あらあら、ちょっかいだなんて。ユイチ先生はあなたのものじゃないでしょう?」


 葵は、私を上から下まで眺めた。


「それとも……何か特別な関係とか?」

「はあ?」

「女の武器を使って、ユイチ先生を縛り付けてるのね、いやらしい」

「違います!」


 なんなのだ、この女は。私は、葵をぐいぐい押しのけた。


「とにかく、帰ってください」

「やだ、乱暴ね」


 葵は眉をあげ、ユイチに片目をつむった。


「じゃあ、先生、また」


 そのまま玄関を出て行く。私は辺りに漂う香水の匂いを腕で払った。それからユイチを振り返る。


「先生、アレはなんなんです?」

「……お盆前くらいから、連絡が来るようになって」


 ユイチは困り顔で言う。海で挙動不振だったのは、徳川葵と連絡を取り合っていたかららしい。


「なんで連絡先を? 先生、ツイッターもホームページもやってないですよね」

「編集者の誰かから聞いたんだと思う。昔から、番号変えてないから」

「変えましょう、番号。あんな人に押しかけられたら、仕事の邪魔でしょう?」

「いいよ、今更だし」


 ユイチはそう言って、痛みに眉を寄せながら後頭部を撫でた。私は疑問を口にする。


「それで……なんであんなことに?」

「コードに引っかかって倒れたんだ。あの人も、なんでか知らないけど一緒に倒れた」


 絶対にわざとだ。


「コード収納器具買ってきます。あと消臭剤。他に何かいります?」

「あ、トイレの電球が切れてた」

「わかりました。ついでに、夕飯の買い物もしてきますね」


 私が部屋を出ようとしたら、ユイチがついてきた。


「ユイチ先生?」


 ふわっ、と頭に何かがかぶさる。指を伸ばすと、布地が指に触れた。これは──帽子のつばだ。ユイチは微笑んで、


「暑いから」

「ありがとうございます」

 私は鼻歌を歌いながらマンションを出た。


 買い物を終え、夕飯を作り終えた私は編集部に戻った。西矢がこちらを見て、


「なんだその帽子」

「ユイチ先生が貸してくれたんです」


 彼はへえ、と相槌を打つ。私は帽子を脱いで、あっ、と声を漏らした。


「聞いてください、編集長!」


 私は徳川葵のことを話した。


「スカウト? ユイチをか」


 西矢の反駁に、ええ、と頷く。


「月刊ギリアスの編集者で、やたらとユイチ先生にベタベタするんです。完全にセクハラです!」

「ふーん。女か」

「ええ。香水の匂いがすごくて。あんな編集者いるんですね」

西矢は帽子を片手でくるくる回し、

「その編集、美人?」

「だったらなんなんです」

「いや、聞いただけだろ。なにキレてんの?」

「キレてないです」


 私はむっとしつつ、自分の席へと向かう。すると、背後から声がかかった。


「なあ、まつり」

「はい?」


 西矢は何かを言いかけ、


「なんでもない」

「競馬で全財産すったんですか? お金なら貸しませんよ」

「おまえなあ」


 彼はため息を漏らし、窓の向こうに視線をやる。何か物憂げな雰囲気だ。お気に入りの競走馬が怪我でもしたのだろうか? 私は首を傾げ、ファックスされてきたネームに目を落とした。


 翌日、買い物をしてユイチの家に向かうと、女物の靴があった。私は目を尖らせ、家に上がる。エプロンをつけた徳川葵がこちらを見た。


「あら、東大寺さん。こんばんは」

「何してるの、あなた」


 彼女はどこかから引っ張り出してきたらしい机に、コンロを置いていた。葵はにっこり笑い、すきやき用の鍋を掲げる。


「すきやきを作ろうと思って」


 ユイチはといえば、こちらに背を向け、部屋の隅で漫画を読んでいる。私は、ユイチに近づいて行ってひそひそと話す。


「ユイチ先生、なんであの人がいるんです」

「わかんない。帰るまで放っとこうと思ったら、コンロ出してきて……」


 ユイチは私にささやきかえした。葵が私に声をかけてくる。


「東大寺さん、おネギ切ってくださる?」

「なんで私が。あなた、帰りなさいよ。ユイチ先生が迷惑してるのがわからないの?」

私の言葉を無視し、葵はユイチに話しかける。

「お肉は最高級松坂牛よ。どうです? 先生」

「松坂牛……」


 ユイチがピクリと反応した。葵はふふっと笑い、若いんだから精をつけないとね、と言った。


「あなたが言うといかがわしいわ」

「あら、そんな風に感じるほうがいやらしいんじゃなくて? さすが成人誌の編集さんね」


 私は眉を寄せ、ずかずか葵に近づいていく。ネギを取り上げて、びしりと突きつけた。


「いい、鍋を食べたら帰りなさいよ」

「あなたの家じゃないでしょう?」

「先生は忙しいの」

「ずっと漫画を読んでたけど?」


 ああ言えばこう言う。ユイチは私たちの睨み合いに関わりたくないのか、ひたすら漫画をめくっていた。油を敷き、肉や野菜をジュー、と焼く。割り下を流しいれると、かぐわしい匂いが漂った。匂いにつられ、ユイチがこちらにやってくる。葵は卵を溶いて、ユイチに差し出す。


「どうぞ、先生」


 ユイチはありがとう、と言って器を受け取る。葵はわざとらしくユイチの両手を包んで器を渡した。彼は戸惑いながらも腰を落ち着け、肉を一口かじる。

「……うまい」

ユイチは目を輝かせ、肉をかっこんだ。葵はうっとりとユイチを見つめている。


「素敵な食べっぷりですわ、先生」


 どうにもわからない。葵はユイチを籠絡して雑誌に呼び込もうとしているのだろうか? ユイチのヒット作は『ダブルスコア』のみ。しかも、連載終了から四年以上が経っている。どう考えても、ここまでする理由が見当たらない。


 もやもやしていたら、葵がユイチにお代わりよそいましょうか? と尋ねた。彼女は器を受け取り損ね、手を滑らせる。ばしゃん、と音がして、すきやきがユイチの服にこぼれた。


「!」

「まあっ、大変。脱いでください、ユイチ先生」


 葵がユイチのシャツを脱がそうとする。


「ちょっ」


 私は葵を押さえつけた。


「何してるのよ、この痴女!」

「火傷したら大変じゃない。あら、先生ってば綺麗な肌ね」


 彼女ははだけたシャツから見えるユイチの胸元に頬を染めている。この女、本物の変態ではないか。私は葵を押さえつけながら、ユイチに言った。


「先生、早く着替えて来てください!」

「う、うん」


 ユイチは穢された乙女のような顔で洗面所へ向かった。私は葵を睨みつけた。


「あなた、何考えてるのよ。手を火傷でもしたらどうする気!」

「あら、春海先生の手、あなたが原因じゃないの?」

「な……なんで、それを」


 葵はふふ、と笑った。


「ユーリアンの久田さんに聞いたのよ。春海先生が女の編集者と海にいた、って」

「久田……? あの人から、ユイチ先生のことを?」


 葵はええ、と頷き、しらたきをちゅるん、とすすった。


「春海ゆうは得難い漫画家よ。絵もストーリーも素晴らしい」

「でも、わざわざ大手雑誌の編集者が引き抜くなんて」

「それに話題性がある。春海ゆうには、いまだに根強いファンがいる」


 葵は煮詰まった鍋にわりしたを追加し、


「いまはいい漫画だからって必ずしも売れる時代じゃないの。何か付加価値がないと」

「……ユイチ先生は、一般雑誌の編集者に潰されたのよ」

「それは運が悪かっただけ。私は必ずユイチ先生を売れっ子にしてみせる」


 葵の目がきらりと光る。


「あなたにはできないでしょう? 東大寺さん。漫画編集としては素人同然ですものね」

「……」


 ユイチが浴室から出て来た。彼はこちらに歩いて来て、葵に声をかけた。


「徳川さん」


 葵が笑顔を向け、はい、先生と返事をする。


「俺は、一人で漫画を描いてる。連載は、一つで精一杯。だから、ギリアスで描く気はありません」


 ごめんなさい、とユイチが言った。その時、葵の表情がふ、と変わった。彼女はやんわりと、


「今すぐでなくてもいいんですよ。まずは企画を提出して……」

「西矢さんには……金瓶梅の編集者には、すごく恩があるんです」

「ええ。わかりますよ。でも、先生には将来がありますし……一生エロマンガを描きたいわけじゃないんでしょう?」

ユイチはかぶりを振る。

「ユーリアンに載る漫画も、金瓶梅に載る漫画も、俺にとっては同じ漫画だから」

「……なるほど」


 葵がすっ、と立ち上がった。


「今日はお騒がせしました。また来ますね」


 ユイチはすきやきの鍋を見下ろし、


「……これ、持ってって欲しかった」

 彼は黙り込んだ私の顔を覗き込んだ。

「灯台さん?」

「あ、私、やります」


 私はすきやき鍋を手にし、流しに運んだ。蛇口を捻ると、水が流れ落ちる。その音に重なるように、頭の中で、


「先生には未来があります」という台詞が回っていた。



 後片付けを終えた私は、玄関へ向かう。

「鍋、私が徳川さんに返しておきます。同じ会社ですし」

「うん、ありがとう」


 すきやきの鍋を手に、私はじゃあ、と告げる。ユイチに背を向けかけ、足を止めた。


「先生」

「ん?」


 ユイチは漫画を手にしている。月刊ギリアスの、「黒猫探偵局」だ。おそらく、徳川が献本したのだろう。ユイチが真剣な顔でページをめくるのを見て、なぜだか胸がざわついた。


「……なんでもないです、おやすみなさい」


 おやすみ。ユイチはそう言って、漫画を読みながら軽く手を振った。


 翌日、私は、「ぐーるぐる」でギリアスについて調べていた。


「ギリアス、作家……」


 ワードを入れ、検索ボタンを押す。作家陣のツイッターやブログを探してみたが、目立った悪評はない。もっとも、表面化するほど悪評がたつのは、よほどの場合だろうが。南澤が声をかけてくる。


「東大寺さん、午後から会議があるから、先生のとこにいくなら午前中がいいよ」

「はい」


 私はパソコンを閉じ、席から立ち上がった。


 ユイチの自宅に向かうと、インターホンから応答がなかった。私は管理人さんに事情を話し、自動ドアを開けてもらう。玄関のドアは開けっぱなしだったので、私はおじゃまします、と言いながら室内へ入る。ユイチは椅子でうたた寝をしていた。頰には机の筋がついている。 こういうことはよくあるのだ。描くのに夢中になって、そのまま寝てしまう。


「先生ってば……」


 私は、足元に散らばったネーム用紙を集めた。ノンブル順に揃えてからハッとする。


「……」


 これは、「にじいろの教室」のネームではない。私は床に座り込んで、それをめくった。表紙には「あかりの音」というタイトルが書かれていた。


 主人公である田尾(たお)は、いじめで引きこもっていた。そんな中、彼はヒロインと出会う。


 夜中に聞こえてきたバイオリンの音。田尾は音に惹かれて、思わず家を出る。バイオリンの音は、近所の公園から聞こえていた。田尾はバイオリンを弾いていた少女、白崎灯(しらさきあかり)と会話する。彼女は盲目だが、類い稀なる音楽の才能を秘めていた。


 灯の明るさと、彼女の奏でる音色に惹かれる田尾は、毎晩のように彼女の演奏に付き合うように。


 そんなある日、灯は公園に田尾へのメッセージを残して消えてしまい……。


 田尾はヒロインを探すため、再び外界との繋がりを取り戻す。たった40ページの読み切り作品。キスシーンすらない。だけどこれは恋の話だ。ユイチが描きたがっている、恋の形だ。


 ユイチが身じろぎし、顔をあげた。彼はこちらに眠たげな目を向け、ハッとする。私の手から、慌ててネームを取り返した。


「それ、ギリアス用のネームですよね」


 私がそう言ったら、ユイチが気まずげな顔をした。


「……ちょっと、描いてみただけ」


 私は手を伸ばし、ユイチの頰に触れた。彼がびくりとする。


「灯台さん?」

「線がついてます」


 ユイチは慌てて頰をこする。私は立ち上がり、


「コーヒー、飲みますか?」

「うん」


 キッチンに向かい、コーヒーを淹れた。ユイチに差し出し、じっと彼を見つめた。彼は気まずそうに目を伏せる。


「……真田源三郎は、家を守るため、徳川方につきました」

「え?」

「ユイチ先生、ギリアスで描いてください」


 ユイチが眉を寄せた。


「ギリアスには、行かないよ」

「どうしてですか? 描きたい漫画があるんでしょう」

「あの徳川って編集者、苦手だし」

「そんなの関係ありません」


 私は肘置きに手をついて、身を乗り出した。ユイチがびくりと身を引く。


「私は、あなたがどうしたいかを聞いてるの」

「俺は……漫画が描きたいだけだ。今のままでいい」


 ユイチは包帯の巻かれた手を撫でた。痛むのは、きっと今の傷ではない。まだ癒えてないんだ、昔の傷が。そんなことに囚われないでほしかった。自由になってほしかった。


「もったいないです。いい漫画なのに」

「しつこいよ、灯台さん」

この話は終わりにしよう。ユイチはそう言った。引きこもりは治ったと思っていた。だけどユイチは変わっていない。縮こまって、自分の世界に閉じこもっている。

「そんなだから、高校生に馬鹿にされるんじゃないんですか!」


 私は思わず叫んだ。ユイチがこちらをじっと見た。私はハッとして、口元を覆う。


「……ごめんなさい」

「……俺は、別に誰に馬鹿にされたっていい」


 それでも、とユイチが呟いた。


「灯台さんは、わかってくれると思ってた」

「先生……」


 その時、スマホが鳴り響いた。


「はい、東大寺です。あ、編集長……」

「おまえ何してんだ。午後から会議だって聞いただろ?」


 時計を見ると、もう十四時だった。


「す、すいません。今行きます」


 私は慌てて立ち上がる。その拍子に、傍に置いたカップが倒れ、がしゃん、と音を立てる。


「なんだ、今の音。大丈夫かー?」

「ごめんなさい」


 私はカップを拾おうと身をかがめた。すっ、と伸びてきた手に阻まれる。ユイチは私を見ずに言った。


「俺がやるから、行って」

「でも」

「一人になりたいんだ」

ユイチは黙々と、カップのかけらを拾い上げる。その様子に、初めて会った時のことを思い出す。先生はあの時と同じように、私のことを拒絶している。

「……はい」


 私はユイチに頭を下げ、玄関に向かった。彼はこちらを見ずに、床を拭いていた。扉の閉まる音が、やけに大きく響いた。


 急いでビルに入り、四階へ向かう。フロアにつくと、壁にもたれた西矢が見えた。彼がぼうっと立っているので、私は声をかけた。


「編集長?」

「あー、やっときたか」


 会議するぞ、と言いながら、西矢は会議室へ向かう。なんだかその背中が、いつもとは違う気がした。競馬で大損でもしたのだろうか。会議が始まると、西矢はデスクに手を置いて編集部員を見回した。すうっ、と息を吸い込み、一言。


「金瓶梅は、来年四月を持って休刊とする」


 私は、西矢の言葉に絶句した。


「は、廃刊!?」

「休刊だよ」


 彼はため息をついた。


「ま、休刊や廃刊なんか、エロ漫画雑誌じゃよくある話だ。まつりも経験してるだろ」

「連載はどうするんですか? ユイチ先生の『にじいろの教室』は!?」

「あのな、おまえの担当ユイチだけじゃないだろ?」


 西矢が呆れる。苦笑する南澤を見て、私はあ、と漏らした。


「すいません……」


 西矢はてきぱきと話を進める。


「てなわけで、そのうち辞令が下るだろうし、早いうちに荷物をまとめとけ。担当作家にはそれぞれ知らせろ。以上」


 編集者たちがざわつく。さっさと会議室を出た西矢を、私は追いかけた。


「ちょ、待ってください、西矢さん!」


 西矢はエレベーターに乗り込み、階数ボタンを押す。閉まりかけたドアに、私は身体を滑り込ませた。西矢が苦言を呈す。


「おい、あぶねーだろまつり」

「休刊、あんなにあっさり決めていいんですか」

「俺が決めたわけじゃない。上の命令だよ」

「ユイチ先生は……」

「作家の移籍先はできる限り探しとく」

「なんとかできませんか」


 西矢がかぶりを振った。


「今時、一般誌でも休刊が相次ぐような時代だからな」

「……」

「何度も言うが、おまえの担当はユイチだけじゃないからな」

「わ、わかってます。他の先生のフォローもします」


 西矢はエレベーターから足を踏み出し、


「出来るだけいい最終回を迎えるようにしてやれ」


 さっさと歩いて行った。

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