表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/19

レキジョの異動(1)

 私は東大寺まつり。真田幸村が大好きな26歳だ。歴史を学ぶためT大に現役合格し、歴史に関する書籍を作るため大手出版社に入社した。しかしその夢は、いま途絶えようとしている……。


「休刊っ!?」


 素っ頓狂な声をあげた私に、中年男性がしーっ、と指を立てる。


「声が大きいよ、東大寺さん」

「休刊だなんてひどいです! 明智光秀の手紙が見つかり、応仁の乱が大フィーバーして、運慶の展示会に加え、北斎の絵がパスポートに選ばれたりもしてるのに!」

「うーん、後半は歴史あんまり関係ないしねえ」


 肩をコロコロでほぐしつつのんびりと言ったのは、井の頭編集長(五十六歳)だ。人のいい顔をしているし、実際彼と話していると気が抜ける。私は井の頭のデスクをばん、と叩いた。デスクに置かれた湯飲みの中、茶がかすかに揺れる。


「私はどうなるんですか! 歴史雑誌を作るために、必死の思いで編集者になったんですよ!」

「ああ、大丈夫。異動先はちゃんと決まってるからね」


 井の頭はそう言って、私に辞令を差し出してきた。辞令には、聞いたことのない雑誌名が書かれている。


「……『月刊金瓶梅?』」


 私は頭の中で単語帳をめくった。大学までに覚えた単語は、単元ごとに分けられている。これは、確か世界史で習った言葉だ。


「金瓶梅ってたしか、明代の長編小説で、四大奇書の一つですね」

「さすが日本史学専攻、よく知ってるねえ」


 関心する井の頭に、私はすっ、と手のひらをかざしてみせた。


「いえ、こんなの常識ですから」


 そう、T大出身の私にしてみたら、知っていて当然の単語だ。しかし金瓶梅がどんな書物だったかについては、綺麗に記憶が削除されている。おそらく、受験に関係ないのでデリートされたのだ。ちなみに四大奇書に含まれるあとの三つは、三国志、水滸伝、最遊記である。


「それで、なんの雑誌なんです? 中国の紀行誌とか?」

「ううん、漫画雑誌」

「漫画!?」


 私は目を見開いた。


「私、漫画なんか毛ほどの興味もないんですが」


 漫画を読む暇があったら、時代小説を読んでいたほうがずっと有意義だ。バイブルは池波正太郎先生の「真田太平記」である。井の頭はにこやかに、


「そう言わずに。この出版不況で唯一希望があるのが漫画雑誌なんだからさ」


 そうなのか。


「部数は二十万だよ」

「うちの三倍以上ありますね」


 それだけの人間が読む雑誌だったら、やりがいはあるのかもしれない。私は苦渋の思いで頷いた。会社が決めたことには逆らえない。私の反応を見た井の頭は、儚い笑みを浮かべる。ああ、なんだかうるっとしてしまう。私たちが感傷に浸っていたそのとき、編集部のドアがガチャリと開いた。


「失礼しゃーす」


 怠いあいさつをしつつ、ダンボールを抱えた男たちがどやどやと入ってくる。みな一様に、前襟がはだけたホストみたいな格好をしているのは何故だ。井の頭編集長は疲れた顔で、


「彼らは新しく創刊されるちょい悪親父系雑誌、『タンザニア』の編集者だよ。発行部数は18万部」

「ちょい悪親父!?」


 なにそれ、ださい。

 井の頭いわく、ちょい悪オヤジのうちの一人が、私に向かってウインクしてきた。ブワッと鳥肌がたつ。

 チャラチャラしちゃって……なんなの!?


「なにこれ。武将? 受けるわー」


 ちょい悪オヤジのひとりが私のデスクに近寄ってきて、デスク横に貼られたポスターに触ろうとした。


「幸村さまに触らないでっ!」


 私はオヤジの手を叩き落とし、声を荒げる。うー、と唸ると、彼が怯えたように身を引いた。ふん、ちょい悪なんて見かけ倒しではないか。大体、今の時代に気骨ある男がどれだけいるというのだ。


 私のタイプは真田幸村。チャラい男は大嫌いなのだ。ちなみによく言われることだが、「幸村」という男は存在しない。幸村の本当の名は信繁なのだ。なぜ幸村と呼ばれるようになったかは謎である。語感だろうか。

ともかく、負け戦にも関わらず、のちに将軍となる徳川家康を苦戦させたその功績は、歴史ファンの大勢から讃えられている。彼こそ日の本一のツワモノ。男の中の男だ。


 ちなみに、私は時代劇以外のフィクションには興味がない。ファンタジー漫画? 恋愛小説? そんなもの、所詮作り事。生身の人間が生きてきた歴史こそが、一番のドラマなのだ。

 そしてたった今──徳川に逆らい土地を失った真田一族のごとく、私もいるべき場所を失ったのだ。


 ★



 私が勤める白英社(はくえいしゃ)は、漫画誌や情報雑誌など、幅広いジャンルの雑誌を発刊している出版社だ。本屋に行けば、必ずうちの本が平積みされている。最近ドラマ化され大ヒットになった「私の恋は土留め色」、略して「こいどど」は、うちの少女漫画誌「マカロニサラダ」で掲載さていたものだし。


ただ、漫画に興味がない私はその作品を読んでいないのだけど。ヒットがある一方、斜陽の一途をたどるものもある。いかに素晴らしい雑誌だろうと、需要がなければ無意味。

雑誌や本を作るには最低限の儲けが必要で、そしてその数字が一定の数値を割ると──今回のようなことになる。


 ちょい悪オヤジ軍団に追い出された私と井の頭は、荷物を詰めたダンボールを抱え、廊下に佇んでいた。


「まだ信じられません……」


 ドアに貼られた部署名のシールは、すでに「タンザニア」に張り替えられている。何度も言うが雑誌名もコンセプトもダサい……。井の頭は私の隣でうつろな目をしている。


「僕は、釣り雑誌に行くんだ。発行部数は三万部」

「さ、三万?」

「僕の頭並みに風前の灯火だよ……」


 彼はそのつるっとした頭──いや背中に哀愁を漂わせ、


「じゃあ、元気でね、東大寺さん」

「はい。編集長も」

「嬉しかったよ。君みたいな若い子が、歴史に興味をもってくれていて……」

「編集長……」


 井の頭の目尻は、かすかに湿っている。彼はくるっと踵を返し、私に背を向けて歩いて行った。

 私は深呼吸をし、エレベーターへ向かいボタンを押した。開いたエレベーターに乗り込み、4階へとあがる。フロアにつくと、ポーン、と音がした。


「ようっし、行くぞ」


 私はダンボールをよいしょと抱え直し、

「月刊金瓶梅」と書かれたドアへと向かう。失礼します、と言いながらドアを開けようとすると──。


「なにが差し替えだこのクソバカ野郎!」


 バン、とドアが開き、まろぶようにアロハシャツの男が出てきた。私は思わず後ずさる。


「ざけんなよてめえ! くそっ」


 男は電話を胸ポケットにしまい、疾風のように去って行った。


「な、なんなの……」


 私はドアにへばりついて、呆然と男を見送る。まるで真田家に仕えた忍者、猿飛佐助のようだ……。男の背から目を離した私は、フロアへ目を戻す。電話が鳴り響く音、ファックスの流れる音、通話をする声が響いていた。フロアにいるのは、死んだように机に突っ伏している者、必死に机にかじりついて作業をしている者と様々だ。ちなみにこちらへ目を向ける者は一人としていない。


「あの」


 声を上げるが、電話が鳴る音で打ち消された。


「あの! 月刊歴史から来たものですがっ!」


 私が叫ぶと、約一名が反応した。しょぼくれた顔をした青年が、デスクから顔をあげたのだ。なんとなく、某国民的猫型ロボットアニメに出てくる少年に似ていた。彼はしげしげと私をみて、


「え、君が? 新しいひと?」

「東大寺まつりです。よろしくお願いします」


 私は挨拶し、一礼した。青年は頭の上に掲げていた眼鏡を装着し直し、


「女の子?」


 私は眉を寄せた。女の子、だと? 私はもう26なんですけど。


「女だとなにか?」


 思わず威圧的な声が出る。眼鏡はふい、と目をそらし、


「い、いや、別に。僕は副編の南澤(みなみざわ)です。よろしく」

「よろしくお願いします。編集長はどちらに?」

「今外してるんだ」


 南澤は空いている席を指差し、ここ使って、と言った。

 私はデスクにダンボールを置いて、六文銭が書かれたマグと、真田の家名入りシールが貼られたノートパソコンを取り出す。


「東大寺さんは漫画とか読むの?」


 南澤は物珍しげな顔で私を見ている。

 私は丸めてあった幸村のポスターを丁寧に伸ばしながら、


「家に漫画がなかったので、図書館で『良い子の歴史漫画100選』を読んでいました。おすすめ書籍は『真田太平記』です」

「なるほど。

東大寺さんは、歴女ってやつなんだね」


 私は眉をあげた。


「その呼称はやめてほしいですね」


 レキジョだのリケジョだの、頭が悪そうにもほどがある。南澤はえ、そう? と首を傾げ、


「あそこにうちの雑誌あるから。暇があるうちに読んでおいて」


 壁際の棚を指差した。

 私が雑誌を取りに行こうとしたら、備え付けの電話が鳴り響いた。死んだように寝ていた青年が起き上がり、デスクの天板に頭をぶつける。


「って〜!」


 青年は頭を抱え、悶絶していた。実に痛そうだ。いつものことなのだろうか、南澤は気にした様子もなく受話器をとる。


「はい。ああ、先生。お世話になります」


 電話口に耳を傾けていた彼がギョッとした。


「な、間に合わない? それは困ります。ええ……やる気?」


 南澤がチラッと私を見た。


「ええ、じゃあ、いつものを持って行かせますので」


 彼は受話器を置き、私を拝む。


「さっそくで悪いんだけど、今からおつかいに出てくれる?」

「おつかい?」

「そう。あいさつがてら頼むよ。あとね、先生のやる気を引き出してくること。できる?」


 私は胸を張った。


「もちろん! T大ですから!」


 そう、日本最高学府を卒業した私に、できないことなどない。真田幸村のように、この部署で再起をかけるのだ。南澤はここに向かうように、とメモを渡してきた。店へいたるための地図が描かれている。


「これは……」

春海(しゅんかい)堂っていう和菓子屋さん。ユイチ先生にはこれって決まってるんだ」

「ユイチ先生?」

「漫画家さんの名前。自宅の住所も書いてあるから」


 駅から徒歩五分にあるマンションだ。ユイチ先生とやらは、なかなかいい物件に住んでいるらしい。


「じゃあ、頼んだよ」


 南澤は忙しなく腕時計をみて、どこかに電話をかけ始めた。私は漫画には毛ほどの興味もない。しかし、郷に入っては郷に従わねばならない。たらいまわしのごとく人質に取られた、真田幸村のように。私は地図を手に、編集部を出た。


 ★


「ここ……?」


 私はひとり、そびえ立つマンションを見上げていた。足元に伸びたマンションの影が、私の身体をすっぽり覆っている。


 想像していたより、ずっと立派な外観だ。しかも駅から徒歩五分ときている。漫画家って、意外と儲かるのだろうか。六畳のアパートでインクにまみれながら描いているイメージだが。きれいなエントランスを抜け、セキュリティのために設けられている機械で部屋番号を押すと、雑音の入り混じった声が聞こえてきた。


「はい」

「『月刊金瓶梅』の者です。ユイチ先生でいらっしゃいますか」


 レスポンスまでに間が空いた。


「……女のひと?」

「はい、生物学的に」


 ユイチはしばらく沈黙し、オートロックを解除した。私は自動ドアを抜け、エレベーターに乗り込む。エレベーターが8階についたので降りる。目指すは801号室だ。たどり着いた801号室には、「市川」という表札が出ていた。下に小さく「祐一(ゆういち)」とあるので、市川祐一が本名なのだろう。当たり前だが、随分と普通の名前だ。インターホンを押すと、ドアが開いた。ドアの隙間から顔を覗かせた人物に、私はギョッとする。


 こ、これが漫画家って生き物なの?

 ボサボサ頭だし、前髪が長すぎて目元がよく見えない。

 しかも、でかくてひょろくてのっそりしている。サンダルをつっかけた足もとは、ホワイトアスパラガスのように貧弱で真っ白だ。どこで売ってるんだかわからない、迷彩のつなぎを着ていた。しかも、顎にはまばらにヒゲが生えている。戦国武将がヒゲを生やしているのは時代的に当たり前だと思うが、現代人なのにヒゲを剃らない男は、ただの無精だとしか思えない。彼は長い前髪の向こうから私を見て、ぼそりと言った。


「……新しいひと?」


 あ、喋った。当たり前だけど。私は引き気味に挨拶を返す。


「あ、新しく『金瓶梅』へ配属になりました、東大寺まつりです。名刺、まだ以前の物しかないのですが」


 彼はドアの隙間から手を伸ばし、名刺を受け取った。視線を落とし、


「東大寺……変わった苗字」


 ボソボソ喋るわね。はっきり話したら? 私はイライラしながら、


「ええ。名前のおかげか、T大に入れました」

「T大。すごいね」


 まるで感心していない声で言った彼は、私が手にした紙袋へちらりと目をやる。


「それ……」

「はい。春海堂のカステラです。好きだとお聞きしたので」

「ありがとう」


 ユイチは手を伸ばし、カステラの袋を取った。そのままドアを閉じようとする。


「ちょっ!」


 私は慌ててドアをこじ開けた。


「待ってください! 原稿は?」

「データ入稿だから、メールで送る」

「それじゃ困ります! 持って帰りますので、できるまでお部屋で待たせていただければと」

「知らない人は家に入れない」


 なに子供みたいなこと言ってるわけ。


「私は編集者ですよ!?」

「……西矢さんだから。俺の担当」


 西矢さんって誰よ!


「とにかく開けてください~!」


 こじ開けようとしたドアを、ユイチが思い切り閉めた。私は足をはさんで悶絶する。


「いったー!」


 ユイチは一瞬動きを止めたが、私がにらむと、びくりとしてドアを閉めた。


 それから30分後。私はむっつりした顔で編集部に戻ってきていた。ヒールを脱ぎ、足を氷で冷やしていると、南澤が近づいてくる。


「あれ? 東大寺さん。どうしたの?」

「どうもこうもないです」


 私は先ほどの出来事を話した。南澤はあー、と声を漏らし、


「それは災難だったね……」

「なんなんです? あのユイチって人」

「編集長が連れてきた作家なんだけど、ちょっと変わってるんだよね」

「ちょっと? ちょっとですか、あれが?」


 気勢を上げた私に、南澤が苦笑いした。


「僕が後で覗いてみるよ」


 任務をこなせなかったふがいなさで歯噛みしていると、バン、とドアが開いた。


「ふざけんなよお、てめえよお」


 声を荒げながら室内に入ってきたのは、アロハシャツの男だった。帽子にサングラス。スマホに向かって離している。私はびくりとして彼に目をやる。あ、先ほどすれ違った人だ。


「親が危篤だあ? 下手な嘘ついてんじゃねーよ、もし原稿落としたらテメーの○○を○○してやっからな。わかったかおらあ!」


 男は叫んで、がんっ、とデスクを蹴り飛ばす。私は思わず悲鳴を上げた。なんなのよこのおやじ! やくざかっ!? 電話を切った男は、帽子を脱いで、髪をぐしゃぐしゃ掻きまわした。


「この部屋あちーっ。エアコン入ってねーのか、ミナちん」

「まだ五月ですから……」

「五月でもあちーもんはあちーっつうの」


 彼はパタパタと扇子を仰ぎながら、ソファにどかりと腰掛けた。私に目をやって、


「あ? 誰?」

「あ、あなたこそ誰。組合の人ですか」

「組合? 労働組合には入ってっけど?」


 男はサングラスをずらして、私をじろじろ見た。


「四十二点」

「は!?」

「色気ねーもん。どこの営業?」

「営業じゃないっ! ここの社員です!」


 男はきょとんとした顔でこちらを見た。



 あははは、という声が会議室に響く。西矢が腹を抱えて笑っていた。何がおかしいのだ、この男は。


「廃刊! いやー、受けるわ。まさかそんな理由で異動してくるやつがいるとは」

「辞令はそちらにも来ているはずですが?」

 私は眉をひそめて、アロハシャツの男を見た。彼は南澤に目をやって、来てたっけ、と尋ねている。南澤は呆れて、

「来てましたよ……というか、ご自分で新人がくるって言ってましたよ、西矢編集長」


 こいつが西矢か……こんなやくざみたいな男が編集長だなんて、この会社は大丈夫だろうか。


「ああ、言ったような気もするわ。で? 何ちゃんだっけ」

「東大寺まつりです」

「まつり? 変わった名前だな」

「楽しい人生を送れるようにと、祖母がつけてくれた名前で……」


 西矢は私の言葉を遮り、


「まつりは漫画好きか?」

「呼び捨て!?」

「まーいいじゃんよ。で、好き?」


 私は咳払いして、


「漫画には興味がありません」

 西矢がへえ、と相槌を打った。

「人生損してんねえ」


 勝手に決めないでほしい。大体、漫画なんてなんの役にも立たないではないか。私はつん、と顎をあげた。


「私は歴史が好きなんです。いつか、歴史雑誌を作る仕事に戻るつもりですから」

「ふーん」

「でも、仕事はきっちりやります。ここはどういう漫画を出してるところなんですか?」


 西矢は目を瞬いて、南澤に視線をやった。


「ミナちん、説明してないの?」

「ええ……」

「ああ、じゃあ、アレやってもらったら?」

「アレ……ですか」


 南澤がちらっと私を見た。私は先ほどの不手際を挽回しようと、勢い込んで言う。


「なんですか? 私、なんでもやりますよ!」

「あっ、今なんでもやるって言ったぞ」

嬉々とする西矢に、南澤が呆れ声を出した。

「大丈夫かなあ……」



 数分後。私は視線を手元に落とし、顔をひきつらせていた。


「こ……れは」


 目の前には生原稿があった。そこに描かれているのはいわゆる……エロシーン。南澤が言いにくそうに声をかけてくる。


「今からするのは修正作業。簡単に言えば、局部をぼかす作業。刑法175条って知ってる?」


 私はぼそりと答えた。


「わいせつ物陳列罪」

「よく知ってるね」

「T大ですから」


 南澤は原稿を手にし、


「露骨な性描写をすると発禁になってしまうんだ。特に男性向けの漫画は規制が厳しい」

「当たり前です。エロ本なんか完全に有害図書です」

「まつりって十年後PT〇とかにいそう」

「編集長、名前で呼ばないでもらえます?」


 西矢はにやにやしながらこちらを見ている。こんなもの、セクハラではないか。


「温室育ちのエリートには無理かな~。バイトでもできるような作業だけどね~」


 その言葉に、私は青筋を立てた。


「やらないなんて言ってません!」


 西矢が扇子をぱちん、と鳴らした。


「えらい! じゃ、俺は競馬場行ってくるから。頑張れよ~」


 彼はそう言って、さっさとブースを出て行った。競馬って。おかしいだろう、いろいろと。南澤がちらっと私を見た。


「えーと……できる?」

「やりますよ! これくらいどうってことないですから」


 私はそう言って腕まくりをし、修正作業を開始した。

毎日20時投稿。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ