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闇競売⑥



 高額過ぎると、エレナには分かっていた。20億いかなくても十分だったぐらいだ。

 だが競売の特性上、相手が意地を張っていると思わぬ金額になることも少なくない。下手に小刻みに競り合うより、大きく張り相手の戦意を削ぐ方が理にかなう場合もある。最初のコールが10億、次が20億であり、効果はてきめんだったはずだ。

 ここまでして坊っちゃんが折れてくれなければ、エレナに残された道は強行手段しかない。



「なんと20億っ! 20億リスカです! 他にはいらっしゃいませんかっ!?」

 他にはと煽ってはいるが、黒服の目線は坊ちゃんを捉えていた。


「さあ、いらっしゃいませんか? いらっしゃらなければ通路に仁王立ちなされている、あちらの女性に決まってしまいますよ!?」



 さあ決まってしまえ!

 ……って、仁王立ち!? 私がか?

 エレナは自分の今を、客観的に俯瞰してみる。

 おもいっきり仁王立ちだった。熱くなってしまったエレナは、今更だが格好よく立ちなおす。

 しかし、もうちょっと優しく表現して欲しかったとエレナは納得がいかない様子。鷹揚(おうよう)に構えた女性――とか、意味は違うけど。そんな体裁をエレナが気にしていると、坊ちゃんは少しして、うなだれながら椅子に沈んだ。


 決着はついた。

 エレナの元に寄ってきた係員に、会員カードを手渡した。



「おめでとうございます! 会員No.855。20億リスカで落札です!」

 エレナに惜しみない拍手が贈られた。坊っちゃんからは、敵意剥き出しの視線を感じたが、知ったことではない。



「エレナ姐さーん!」

 息を弾ませて、クロムが会場に戻ってきた。

 お(かしら)は、了承してくれたのだろうか。場合によっては、やはり強行手段しかないーーと、エレナは心の準備をする。


「あれ? 終わっちゃったんスか?」


「ああ、20億で私が落札した」


 ぶっ……と、クロムが吹き出した。タコみたいな頭をしているだけに墨が出そうだなと、エレナは呑気に構えている。


「何やってるんスか? オレがなんとか、お頭に頼んでオッケー貰ってきたからよかったようなもんスけど、もし駄目だったらどうするつもりだったんスか? 馬鹿なんスか?」


「強行手段」

 エレナは静かに答えた。

 ああ……と、クロムは頷く。

 ちなみに馬鹿と言われた。馬鹿に馬鹿と。まあ、流す、よくやってくれた。いつもなら鉄拳がとぶところだったが、今回のことで株を上げたクロムに対して、エレナは寛容に接している。


「でも20億も払うなら、強行手段に出てもよかったんじゃないんスか?」


 その通りだーーと、エレナは思ったが、簡単にできる訳がなかった。

 エレナはお頭に拾われ、かなり恩を感じている。そんなお頭に、私的な理由で問題を起こし、火の粉が飛ぶような真似は簡単にはできない。



「会員No.855様」係員が近づいてくる。「商品の引き渡しは、ご入金が確認されてからになりますので、こちらの口座にご入金をお願い致します」

 主催者の口座番号が記載されたカードを、係員から受け取った。


「お部屋を用意しておりますので、こちらへどうぞ」


「部屋?」

 エレナは係員に訊き返す。


「はい。お客様と商品の安全を第一に考え、セキュリティ等万全ですので地上までの間、ゆっくりとおくつろぎくださいませ」

 違法の品や闇金が当たり前に飛び交う場だ。エレナ達みたいな輩もいる。ただの客室に、購入品を置いておく訳にもいかない。まさに、開催者側の気の利いた配慮であった。





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