沈みゆく意識
意識が揺らぐ、
体が揺らぐ、
視界が揺らいでいるーー
大きな岩のようなものが、私を押し付け揺らしている。
意識が戻るにつれ、どうやら、私がその岩みたいなものにしがみついていることが分かってきた。
「クロム……か?」
意識が混濁するなか、エレナはクロムに背負られていることをなんとなくだが自覚した。こうしていると、相当の巨体だと改めて実感する。
「あっ、姐さん気がついたっスか?」
クロムは歩きながら少しだけ振り返り、背中におぶさっているエレナに声をかけた。続けて、クロムの左側から革ジャンの裾を手でつかみ歩いていたガドが、
「エレナ? 目が覚めたの?」
と、そのままの体勢で、心配そうにエレナを見上げていた。
「心配かけて、すまない。そうか……、私はまた気を失っていたのか……」
エレナは、まだはっきりとしない頭で、二人に答えた。
辺りはまだ薄暗かったが、空が白んできていて夜明けが近いようだ。
そんななか、二つの赤い目が、少しの明かりを反射して煌めいていた。
エレナの『雷獣モード』は、心身への負担がかなり大きい。稼働時間も10分と決して長くはない。戦闘内容によっては、このように後から意識を失うこともある。しかし、気が張りつめている状態では意識が飛ぶようなことはない。今回のように、緊張の糸が切れている状態のときが危なかった。ただ、なりふり構わず、限界を超えて雷獣の力を使わなければの話。そのときは、戦闘中にさえ意識を保っていられるか定かではない。
エレナの側に長くいるクロムは、そのことを誰よりも理解していた。
言っても無駄なのは分かっているが、クロムは口を開く。
「できるだけ、自分が側にいるとき『雷獣モード』になるっスよ?」
「それは、約束できないな……私は負けず嫌いなんだ。知っているだろう?」
力なく、強気な発言をするエレナ。
「しょうがない人っスね……」
嘆息しながら、歩を進めるクロム。
上下に揺られながら石造りの建物の間を通り抜ける。舗装されていない道は、クロムの靴底が小石と擦れあい、ジャリジャリと音をたてた。
「ノエルたちはどうした?」
この場にノエルと、ヒュドラがいなかった。エレナは辺りを確認したあとに、クロムに訊いた。
「ヒュドラさんとノエルちゃんは、飛行船を隠してから来るっスよ。うちの盗賊団が使っている格納庫を借りたっス」
「そうか……面倒かけたな」
「こんなこと、面倒のうちに入らないっス」
なんだかんだいっても、私はクロムを頼っているのかもな……。クロムの背中でそう考えながら身を預けていると、再び意識が微睡んでいく。
「クロム。すまないが、また意識が落ちそうだ。私のアジトについたら、適当に服を脱がしてベッドに放り込んでくれ」
「わかったっス」
クロムの返事を聞いたエレナは、ガドに声をかける。
「ガド、こんな時間まで起きていて、お前も眠いだろ? 私のベッドで一緒に眠るか?」
「エレナと一緒に? うん! 寝る!」
ひまわりの花が咲いたように、笑ったガド。昔、同じように笑っていた妹を重ねる。
次の瞬間、意識は急激に闇へと吸い込まれていくーー。
ここまで、落ちていくのは久しぶりのことだ。ヨシュアはそれほどの相手だった。
エレナにとって、意識が深く沈むのは快いものではなかった。
必ずといっていいほど、昔の夢を見るからだ。
妹を失なう夢ーー
あのときの喪失感をまた味わうことになる。
しかし、妹と一緒に過ごした楽しい思いでも再び味わえる。
矛盾する感情を抱えて、深く、深くエレナは落ちていったーー




