赤い目の少女
登場人物がそこそこ多くなるので、章ごとに人物紹介みたいなのを後から追加していく予定です。そちらの方は、飛ばしても問題のない内容にしていくつもりです。それでは、最後までお付き合いしてくれれば幸いです。2018.7.11
――窓越しに映る赤い月。
大型飛行船『タロース』の一室で、少女は静かに赤い月を見つめていた――。
背後から扉を叩く音が二回響くと、感情のない中年男性の低い声が後に続く。
「ガド様、お時間でございます」
ガド……少女の名前。
背中まで伸びた銀色の髪。十二歳に相応しいであろう華奢な身体に、抜けるような白い肌。
そして、夜の闇をも吸い込みそうな――とても深い赤い目。
「わかってる」
少女は一言そう吐き出してから、支度を始めた。といっても、用意された服に着替えるだけ。
あたしは売られる……。
いわば商品だ。
なのに『ガド様』だなんて嫌みで言ってるとしか思えない。
と、少女は俯く。
最悪な気分。
綺麗に整頓された一室。大きさは、たいしてない。シンプルなベットにテーブル、椅子。それだけで窮屈になるくらい。
テーブルの上には高価そうなティーセットが置かれてあり、カップには紅茶が注がれていた。
少女は飲む気にならない。
ベットの上の、用意されていた服を取り上げる。
ゴシックロリータ。黒と赤を基調としたドレスにヒラヒラのフリルが胸元、腰、手首、スカートの部分にあしらってある。
いままで、縁のない物であったことは確かのようだ。現在、身に着けている真っ白なワンピースの胸元を、軽く摘みあげながら思う。
あたしはこういうシンプルなのが好きだ。……だけど、あたしの好みなどどうでもいい――。
あたしは売られる……。あたしの願いは叶わず、あたしはあたしの終わった人生をはじめるんだ。
かなしいね。
少女の赤い目は虚ろに揺れた――。