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白の無才  作者: kuroro
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第80話「榊原麗について2(2)」

第80話目です。

物語もいよいよラストスパートを駆け始めました。

どうぞ、最後まで応援よろしくお願いします。

明日から2日間、課題テストが行われるため今日は3限で授業が終わった。


午前中に帰宅できるというのは、高校生にしてみれば何より喜ばしいことのはずだが、俺に関して言えばどうにもそんな気分にはなれなかった。



ホームルームが終わってからずっと榊原のことが頭から離れず、心にぽっかりと穴が空いたかのように虚無感が全身を襲っていた。


ついこの間まで隣にいるのが当たり前だったはずなのに、榊原は何も告げずに俺たちの前から姿を消した。まるで今までの出来事が全て夢だったかのように。


いや、むしろ夢であればどれほど良かったか。


それならば、こんなにも身を裂かれるような孤独を味わうこともなかったはずなのに。


俺はいつからか、榊原を自分の半身であるかのように錯覚していたのだ。



15年間生きてきて、初めて出逢った俺と同じ『才能』の悩みを持つ少女。


俺は彼女をかけがえのない大切な友人であると思い、同じ悩みを言い合える仲間であると思い、そして、彼女を1人の女性として好きでありたいを思うようになっていた。



まだ、互いの才能を見つけ出せていない。


まだ、この街の景色を紹介しきれていない。


そして、まだ、この想いを彼女にしっかりと届けられていない。



これから、もっとたくさんの思い出を作っていきたい。


その中で互いのことをより深く知っていければいいと、そう思っていた。





ホームルームが終わった後すぐに、俺と秀一・朝霧は佐倉先生に詳しい事情を聞きに行った。


榊原はどこへ転校したのか。いつこの街を発ったのか。連絡先は。住所は。


畳み掛けるように問い質す俺たちに対し、佐倉先生は混乱しながらもその質問の1つ1つに言葉を返していった。



「……榊原さんは3日前にこの街を発ったわ。私から教えられるのはこれだけ。……その他のことは個人情報だから教えることができないのよ」


「3日前!? 俺たちその前日まで一緒にいたんですよ!」


秀一が声を荒げて言う。



3日前にこの街を発ったということは、勉強会のすぐ後に引っ越したということだ。


どうしてその場にいた誰も、榊原の変化に気がつかなかったんだ。



……いや、違う。


俺だけは、榊原の様子がおかしいことに気がついていた。


気がついていた上で、勝手に杞憂だと思い込み、榊原に尋ねることをしなかったんだ。



俺はここでようやく、榊原が最後に口にした「さようなら」という言葉の意味に気がついた。



もし、あの時、あの場で俺が榊原にもっと強く声をかけていれば、少しは何かが変わっていたのだろうか。


転校は榊原の意思ではなく、両親の意思だ。



初めて榊原と出逢い「何故、こんな時期に転校してきたのか」と尋ねた時も、榊原は重い口を開くかのように「家庭の事情だ」とだけ答えた。


もしかすると榊原は、その時から既に再び転校することになるであろうということに気づいていたのではないだろうか。


そして、近いうちにまた俺たちと別れることになることを知っていたのではないだろうか。



榊原は幼い頃から、いくつのもの別れを経験してきたのだろう。



新しい土地で親しい友人が出来ても、すぐに別れることになる辛さ、孤独感は想像を絶する。


俺なんかの比ではないだろう。



それにもかかわらず、榊原は俺たちにそんな素振りを一切見せることなく、日々を過ごし、旅立つその日まで隠し通していたというのか……




「実はね、榊原さん、引っ越す当日に私のところに挨拶しに来たのよ。榊原さん、泣くのを堪えて私にこう言ったの。『この街に越してきたばかりで友達のいなかった私に、街を案内してくれたり、友達になろうって声をかけてくれたり、いろんなイベントに誘ってくれたり……私、みんなと出逢えて本当に良かったです』って。これってあなたたちのことよね?……榊原さん、みんなにお別れの言葉を言うのがきっと辛かったのね」


「麗ちゃん……」


目いっぱいに涙を溜めた朝霧が、震える声でその名を口にする。



「だから、どうか榊原さんを責めないであげて。榊原さんだって、みんなに黙っていなくなることに罪悪感を感じていたはずだから……」


そう言って佐倉先生は職員室へと戻っていった。




結局わかったのは、いつほたる市を発ったのかということだけだった。


いくら仲のいい友人同士だったとしても、本人の意思に反することはできないというのが先生の意見だった。







蝉がいなくなったにもかかわらず、未だに8月の暑さが残る帰り道はなんだかとても寂しげに見えた。


よく榊原と「また、明日」を言い合った横断歩道前を通り、家に向かって足を動かす。


普段なら20分ほどで帰宅できるはずの道を、今日は30分以上もかけて帰宅した。



玄関の鍵を開けて中へ入ると、乱雑に靴を脱ぎ捨て、自室へ向かう。


部屋に入るなり、机の横に鞄を置いて制服姿のまま、勢いよくベッドに倒れ込んだ。



外ほどではないにしろ、部屋の中も十分に暑さを感じる。


けれど、冷房をつけるのが億劫に感じるほどに、俺の体は脱力しきっていた。


目を開けていても閉じていても、脳裏に榊原の眩しい笑顔が映る。



明日から始まるテストに向けて勉強しなければいけないところではあるが、こんな調子ではどちらにせよ頭になど入るわけがなかった。



「少し寝るか」



制服にシワがつくのを気にも留めず、蒸し暑い熱気の中、俺は静かに眠りに落ちていった——

























読んでいただきありがとうございます。


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