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白の無才  作者: kuroro
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第77話「夏休みについて(43)」

秀一と朝霧がテキストを開き、課題を始めて30分が経過した頃、突然秀一の手が止まった。



「秀一?」


小刻みに震える秀一に声をかける。



「……っ!だぁぁぁぁ〜〜!!!もう無理!限界!!」


「早すぎるだろ……まだ30分しか経ってねぇぞ……」


「うっそ!マジかよ!!てっきり2時間くらい経ったものだと思ってた……」



秀一のあまりにも早すぎる限界に俺は思わず呆れ声を出す。


こんな調子では、始業式前に課題を終わらせることなど到底不可能だろう。



「なぁ、悠。課題写させてくれ!頼む!」


「ダメに決まってるだろ。俺がお前にしてやれるのは、あくまで課題の手助けだ。不正の手助けじゃない」



そう、これは秀一のためを思ってのことだ。


他人の力におんぶに抱っこでは、ロクな人間にはなれない。


必ず、将来秀一自身が困ることになる。



時には近道を通ったり、ズルをすることも必要だろう。


それでも、それを当たり前にしてしまうのは良くないことだ。


自分の力で出来ることは、極力自分自身で行わなければならない。



だから、この課題もあくまで秀一自身の力で終わらせなければならない。


問題の解き方に困った時や解説を読んでも理解できなかった時のために、俺や榊原がここにいるのだ。



「私だって頑張って解いてるんだから、榎本も頑張りなよ!残りの夏休み、課題をするだけで終わらせたくないでしょ?」


「莉緒さんの言う通りよ。分からない問題があれば、私も羽島君も手を貸すわ。だから頑張りましょう、榎本君」



朝霧と榊原から声援を受けた秀一は、少し沈黙を挟んだ後、再びシャープペンシルを握りしめた。



「……そうだよな。自分でやらなきゃ、意味ないよな。……悠!この問題の解き方教えてくれ!」


そう言って因数分解の問題を指差す秀一に、俺は薄っすらと笑みを浮かべながらその問題の解き方を詳しく教えていく。


向かい側に座る朝霧と榊原も、そんな秀一を見て口元に笑みを浮かべ、再び問題と向き合い出した。





そして、時間は刻々と過ぎて行き、時計の針はちょうどてっぺんを指し示した。


勉強というのはかなりカロリーを消費するもので、2人の腹の虫も先程からぐぅぐぅと鳴り続けている。



「時間もちょうどいい頃合いだし、一旦休憩して昼食にするか」


「「賛成ー!!」」


俺の提案に2人が声を揃えて言う。



「榊原もいいか?」


「ええ。2人ともとても集中できていたし、一度休憩を挟んで、続きはお昼ご飯を食べてからにしましょう」


榊原の承諾も得たところで、俺たちは一度昼食休憩を挟むことにした。



炊飯器の中に白米が余っていたため、昼は簡単におにぎりを作ろうということに決まった。


狭いキッチンに4人で入り、それぞれ手分けしながら昼食を作る。


そうして出来上がったおにぎりは綺麗に整った形のものもあれば、握りつぶしたような不恰好なものまで様々あり、皿に並べると誰が作ったものなのか一目でわかった。



早速おにぎりを並べた皿をダイニングテーブルへと運び、俺たちも席に着く。



「よっし!そんじゃあ、食べるか!いただきます!」


秀一に続いて俺たちも食事前の挨拶をする。


そして皿に並べられたおにぎりを手に取り、口に運ぶ。


味付けは塩のみだが、それでも十分すぎるほどに美味い。


たかがおにぎりでも、やはり自分たちで作った料理はそれだけの旨味を持っている。



ほろほろと口の中で崩れる温かい白米と、疲れた体に染み渡る丁度いい塩気が食欲をかき立てる。


あっという間に皿に並べられてあったおにぎりが残り半分となったところで、ふと思い出したかのように秀一が口を開いた。



「あっ、そういえば!……なぁなぁ!聞いてくれよ悠」


「なんだよ。そんな明らさまに嬉しそうな顔をして」


「ふふふっ……実はさ、俺この夏休み中に100Mの自己ベスト更新したんだぜ!すごいだろ!」


「ほー、それはすごいな。次の大会ではいい結果が残せるんじゃないか?」



頬に米粒をつけながら話す秀一は間抜けそのものだが、陸上大会で味わった悔しさをバネにして、夏休み中にもかかわらず努力を怠らなかった秀一はすごいやつだと、俺は心からそう思える。


そんな秀一の努力が、自己ベスト更新という形で結果に現れたのは、本人にとってみれば何よりも嬉しいことだろう。



「榎本、部活のある日は毎日残って遅くまで練習してたもんね」


「莉緒……!お前、知ってたのかよ!」


「私だけじゃなくて、陸部のみんな知ってるよー。榎本に隠し事は無理だね!」


秀一は目に涙を浮かべて大笑いする朝霧を、羞恥で真っ赤に染まった顔をしながら睨むように見つめている。


隠れて努力することは別に恥ずかしいことではないが、誰にも伝えずにこっそりと密かに練習していたことが、実は部員全員にバレていたというのは本人にしてみれば確かに恥ずかしいことだと、隣に座る秀一を見ながらそう思った。




「莉緒さんは部活の方、調子はいいのかしら?」


「うーーん……私はタイムよりもメンタルの方の強化をしなくちゃいけないと思っててさ、夏休み中にいろんなトレーニングはしてみたんだけど、正直強化されてるのかよくわからないんだよねー」


朝霧は困ったように笑いながらそう呟く。



「メンタルって、タイムとは違って目に見えないからさ。自分がどのくらい成長したのか実感を持てないっていうか……なんていうか……」


「それならきっと大丈夫よ」


「え?麗ちゃん、なんでそう思うの?」


朝霧が首を傾げて榊原に尋ねる。



「だって、今日こうして羽島君のお家で勉強会をしているけれど、莉緒さん今日まだ一度も弱音を吐いていないもの」


「そうだっけ?」


「そうよ。分からない問題で壁にぶつかっても、すぐに私に頼るんじゃなくて、まずは自分で解決策を見つけようとしている時点で、莉緒さんのメンタルはしっかりと強化されていることがわかるわ」


榊原は朝霧の目をまっすぐ見て、確信した事実を本人に伝える。



確かに今日うちに来て、未だ朝霧の口から諦めの言葉が洩れたのを耳にしていない。


どんなメンタルトレーニングをしたのかは分からないが、確実に朝霧のメンタルが強化されていることを俺も確信した。



「莉緒、陸上大会前に比べて言葉に強さが増したよな」


「……言動が荒っぽいって言いたいの?」


「違う違う!……なんていうか、芯が太くなったような気がする。簡単に言えば、莉緒の言葉から自信を感じられるようになったってこと」


この中で朝霧と最も一緒の時間を過ごしている秀一がそう言ったことで、朝霧はようやく自分自身のメンタルが確かに強化されていることに実感を持てたようだ。



「そっか……私、ちゃんと強くなれてたんだ。……そっかそっか!」


この夏休みのトレーニングが無駄ではなかったと知った朝霧は、徐々に笑顔を取り戻し、そしていつもの明るい表情を俺たちに見せた。





次の陸上大会は秋に行われる新人戦だ。


そこで、この夏休み中に必死で取り組んできた2人の練習の成果が存分に出ればいいと俺は願っている。



2人には陸上の才能があるとは言えない。


けれど、2人には『努力する才能』がある。


時として、努力はどんな才能よりも強い力を発揮することがある。



「努力をする」なんて口では簡単に言えるが、実際そんな簡単に実行できるものでもない。


努力をするということは、とても面倒で、辛くて長くて遠回りで、すぐにでも放り投げてやめてしまいたいものだ。



そんな努力を続けることができるのは、それだけで『才能』と呼べるだろう。



俺はそんな2人の『努力の才能』の力を信じている。




また、榊原と2人で朝霧と秀一の大会の観戦に行き、2人が勝利する姿をこの目に焼き付けたいと、そう強く思ったのだった——








































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