第40話「夏休みについて(6)」
第40話目です。
よろしくお願いします。
朝霧・榊原、両名の水着紹介が終わった後、俺たちは火照った体を冷ますため早速入水することにした。
プールサイドでは小学生らしき男児たちがはしゃぎ回っている。
俺たちがその男児たちの横を通り抜けてプールの方に向かおうとしていると、後ろから男児たちが何やらコソコソと秘密めいた話を交わしているのが聞き取れた。
「おい……!あの女の人すっげぇ美人だな!」
「そうだね!モデルさんかな?」
「隣の女の人も可愛いな!」
「うんうん!お姉さんだね!」
「男の人たちも大人って感じがするな!」
「かっこいいね!大人!」
榊原と朝霧もどうやらその話し声が聞こえたようで、2人とも照れ臭そうに頬を赤く染めて目を泳がせている。
彼らからしてみれば、俺たち高校生は大人に見えるらしい。
そういえば俺も彼らと同じくらいの歳の頃には、相手が少し年上というだけでなんだかとても大人びていて格好良く見え、憧れた。
今では俺たちがその憧れの対象になっていると思うとなんだか少し嬉しく感じる。
俺たちは男児たちに熱い憧れの視線を向けられながらプールの方までやってくると、入る前に秀一の掛け声で入念に準備運動を行う。
遊びだからといって準備運動を怠ると大変な目に遭うため、腕や脚の腱をしっかり伸ばし、体を十分にほぐしてからプールに入ることにした。
準備運動が終わり、早速入水しようとプールに近づくと辺りから独特の塩素の匂いが漂ってくる。
この匂いも俺に夏を感じさせてくれる。
小学生の頃は正直この匂いが苦手だった。
病院の消毒液の匂いや理科室の薬品の匂いのように、どこか不安を仰ぐような匂いに感じられて、当時は水泳の授業が行われるたびに顔をしかめていた。
しかし今となっては、この匂いも夏の感じさせてくれる匂いとして俺の思い出の中にインプットされている。
波打つ水面を覗き込むと、自分の顔がゆらゆらと陽炎のように揺れているのが見える。
プールの中では世代・性別問わず老若男女が楽しそうに水浴びをしていて、弾ける水飛沫が太陽の光で反射し、キラキラと輝いている。
そんな光景を見ながら、ゆっくりと水中に足を潜り込ませた。
太陽の光で暖められたのか、水温は思ったより低くはなくとても快適だった。
つま先から踝、膝、腰、胸、肩とゆっくり体を沈めていく。
するとひんやりとした水が体を優しく包み込み、溜まった熱を柔らかに取り払ってくれているような気がした。
「ふぁ〜……気持ちいいね〜」
「えぇ……とっても」
同じように肩まで体を沈めた朝霧と榊原も、心地よさに夏空に浮かぶふわふわとした積乱雲のような声を出す。
「さいっこーーーー!!生き返るーーー!!!」
俺のすぐ隣では、秀一が奇声をあげながら水中に潜ったり跳ねたりを繰り返している。
高校生に混ざって1人小学生が紛れ込んでいるようだ。
しかし、まぁはしゃぎたくなる気持ちも分からないでもない。
むしろ、ここでは秀一のように思いきりはしゃいだ方が正しいのではないか?
せっかくプールに来ているのだ。
少しくらい羽目を外しても叱られることはないだろう。
そんなことを考えていると「えいっ!」という可愛らしい声と共に顔めがけて水が飛んできた。
「……っ!」
飛んできた水はパシャっと頬に当たって弾け、俺は驚いて声をあげる。
掌で顔を拭き、声の方向に目をやると、大人びた顔に悪戯っ子のような笑みを浮かべる榊原の姿があった。
榊原もこんな顔をするんだな……
俺は口元に笑みを浮かべると掌でプールの水を掬い、仕返しの意味を込めて榊原の顔に水をかける。
「きゃっ!」
白く滑らかな両腕でそれを防ぐ榊原は、空に輝く太陽にも負けない眩しい笑顔をして声をあげる。
俺と榊原が水の掛け合いをしているのを見て、朝霧と秀一も加勢に入ってきた。
榊原と朝霧が前かがみになってプールの水を掬うたびに、激しく主張を繰り返す2人の胸元に目が行ってしまい、俺たち男子勢は劣勢に立たされていった。
「あっ、そうだ!3人ともちょっと待ってて」
しばらく水の掛け合いが続いた頃、秀一がふと閃いたように呟いた。
秀一は一度プールから上がると、プールサイドで見回りをしている監視員に何やら声をかけ、一礼するとテトテトと受付の方へ向かって走っていった。
「榎本、何しに行ったんだろーね」
朝霧の疑問に対し、俺と榊原は無言で首を傾げる。
すると、受付からこちらに向かって秀一が戻ってきた。
手には何か丸いものを持っている。
「はぁ……お待たせ!」
戻ってきた秀一の手にあったのはスイカほどの大きさのビーチボールだった。
「榎本君、それを取りに行ってたのね」
「そうそう!ここのプール、いろんなもの貸し出ししてるんだよ。……ってなわけで、早速やろうぜ!」
秀一はそう言って手に持ったビーチボールを高く掲げて笑った。
他の利用客のことも考えると激しい動きはできなかったため、俺たちは輪になってラリーを続けた。
運動部の秀一と朝霧はやはりビーチバレーも上手かった。
安定感のあるアンダーレシーブのおかげで50回以上もラリーが続いた。
それに比べて俺は目の端にチラつく『とあるもの』に集中力を削がれ、2人のようなプレーは出来ずにいた。
「莉緒さーん!えいっ!」
「ナイス麗ちゃん!」
榊原がレシーブをするたびに、確かな存在感と質量を持って揺れる2つの胸。
意識しないようにしていても、なぜか無意識に目で追ってしまう。
これじゃあまるで秀一じゃないか!
「ほいっ!悠!」
「えっ、あっ……!」
そんなことを考えているうちに高く上げられたビーチボールは真上から俺めがけて落下し、レシーブの構えをとる前に頭に直撃する。
またもや俺の番でラリーが途切れてしまった。
「わ、悪い……」
完全に3人に迷惑をかけてしまっている。
これは文句を言われても仕方ない。
たかが遊び、されど遊びだ。
何事も真剣にやらねば……
気を取り直してラリーを続けようと顔を上げると、3人は怒るどころか笑っていた。
「な、なんだ?……どうした?」
戸惑いながら尋ねると、秀一が腹を抱えながら口開く。
「いや、悠めちゃくちゃ真剣な顔してるからさー。遊びなんだからもっと力抜けよ!」
榊原も朝霧も同じように笑っている。
俺はそんなに真剣な表情をしていたのか?
「お前のことだから、真剣にやらなきゃーとか思ってんだろ?そんなに難しく考えなくていいんだよ!楽しもうぜ!」
秀一が俺の首に腕を回して言ってくる。
確かにせっかくのプールなのだから、固いことは考えずにもっと楽しむべきだろう。
「秀一の言う通りだな」
秀一は「だろ?」と白い歯を見せて笑いかけ、そのまま俺の耳元に口を近づけると小声で俺だけに聞こえるように呟く。
「……それに、榊原さんの胸も気になっちゃうもんなぁ」
「ばっ……!違う!そういうんじゃないからな!!」
まさか秀一に図星を衝かれるとは思ってもいなかったため、完全に動揺が顔と声に出てしまった。
秀一は「わかったわかった」と俺の反論を軽く受け流し、朝霧と榊原は何が何だかわからないといった顔で首を傾げている。
正午が近づき気温がどんどんと高まっていく中、俺たちの雰囲気もこうして気温に比例するかのように盛り上がっていく。
周りから聞こえてくる子供達の笑い声が俺たちを童心に返らせてくれている、そんな気がしたーー
読んでいただきありがとうございます。
水着回書いてると、『自分もこんな学生時代を送りたかった……』と悔しい気持ちになります。
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