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白の無才  作者: kuroro
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第3話「榊原麗について(2)」

校内を一通り見て回った俺と榊原は学校を後にした。


時刻はちょうど18時を回ったところだった。



「こんな時間でも、まだ明るいのね」


俺の隣を歩きながら榊原が呟いた。



「そうだな。それに暑い……」


俺は顔に当たる西日を手で隠す。



まだ5月だというのにこの暑さ。


夏になったらと考えると、ますます汗が止まらなくなる。



……そういえば榊原は最近引っ越してきたらしいが、家はどの辺にあるのだろう。



「なぁ榊原、家はどの辺にあるんだ?徒歩ってことは学校から結構近いのか?」


「そうね。歩いて15分くらいよ。ほら、あそこに本屋さんがあるでしょ?あそこのすぐ近く」


榊原は横断歩道を渡って反対側にある書店を指差して言った。



「学校からも本屋からも近いなんて羨ましいな。うちももう少し近ければ、朝ゆっくり寝てられるんだが……」


榊原はフフッと軽く笑い、


「羽島君、もしかして朝に弱いのかしら?明日は土曜日だし、ゆっくり寝ていられるんじゃない?」


と、くたびれたような俺の顔を見て言った。


「……そうだな。是非、そうさせてもらうよ」


そんな話をしているうちに、横断歩道の前に着いた。



「それじゃあ、私はここで。羽島君、またね」


「あぁ、またな。次会うときは教室だな」


お互いに別れの挨拶を済ませると、榊原は横断歩道に向かって歩き出した。


俺が榊原の横断歩道を渡る後ろ姿を見ていると、榊原は横断歩道の途中で突然足を止め、俺の方を振り返りこちらに向かってきた。


「……どうしたんだ?」


不思議に思った俺は榊原に尋ねた。


「1つ、忘れていたわ。……羽島君、よかったら連絡先を交換しない?今後のためにも必要になると思うの」


榊原からの提案に対し、俺は少し動揺してしまった。


なぜなら今まで同年代の女子と連絡先を交換する機会などなかったからだ。


あいにく俺のスマホには両親と妹、そして数人の男友達の連絡先しか登録されていない。


俺は動揺しているのを悟られないよう、榊原に答えた。


「…あ、あぁ、いいよ。そうしよう……今後のためにもな」


「ありがとう」


そう言って榊原はカバンからスマホを取り出し、連絡先が表示されている画面を俺に向ける。


俺は表示されている連絡先を登録し、同じように自分の連絡先を表示した画面を榊原の方に向けた。


榊原は俺の連絡先を確認すると、


「登録できたわ」


そう言ってスマホをカバンにしまった。


「それじゃあ、今度こそさようなら。学校で会えるのを楽しみにしているわ」


榊原はまばゆいほどの笑顔を俺に向けて言った。



「あぁ。また、学校で」


俺は榊原にそう言い、横断歩道を渡りきるまで榊原の後ろ姿を見つめていた。


横断歩道を渡り終えた榊原は、もう一度こちらに顔を向けるとペコリと頭を下げ、書店脇の通路へと入っていた。



榊原の姿が見えなくなったのを確認した俺は、横断歩道とは逆の通路へ向かって歩き出した。


俺の家はここから約10分ほど歩いたところにある。


徒歩だと家から学校まで少し遠いが、普段部活もしていない俺にとってはいい運動になる。


俺は先ほどの学校での出来事を思い返しながら帰路についた。


「変わった奴だな……」


榊原の言葉を思い出しながら、俺はそんなことを呟いた。



今まで「才能」について誰かに話したり、話そうとしたことはなかった。


けれど、今日初めてそれを人に話した。


俺と同じ『才能を欲している』人間だったから話すことができた。



「1人では見つけれられない才能もある……か」


そんなことを思い返しているうちに、家に着いた。


もう夕飯の支度も済んでいる頃だろう。


「ただいま」


そう言って俺が玄関の扉を開けると、


「お兄ちゃん!遅い!帰宅部なんだからもっと早く帰ってきてよね!!」


と、妹の由紀ゆきがすごい剣幕で出迎えてきた。


「わ、悪い……。担任に頼まれて、転入生に校内を案内してたんだ」


そう言うと由紀は、まったくもう!と若干腹を立てた様子でリビングへと戻っていった。


俺は靴を脱ぐと2階の自室へ向かった。


部屋に入るとカバンをベットに投げ捨て、制服から部屋着に着替える。


「お兄ちゃーん!ご飯!」


由紀に呼ばれた俺は、階段を降りリビングへ向かった。


リビングからはカレーのいい匂いが漂ってくる。


「早く席について!みんな待ってるんだから!」


由紀に急かされ、俺は席に着く。


俺はテレビを見ている父さんの向かい側に座った。


「美味そうだな」


俺は目の前に並べられたカレーを見ていった。


「でしょ?今日は由紀が作ってくれたのよ!」


そう呟く俺に、父さんの隣に座る母さんがニコニコと嬉しそうに話しかけてきた。


それを聞いた由紀は自慢げな顔をしながら、


「私だってもうこのくらいはできるんだから!中学では調理自習もやってるし!」


と、腰に手を当てて胸を大きく反らしてみせた。


由紀が俺の隣に座ったのを確認した俺は、由紀が作ったという自慢のカレーをスプーンで1口掬い、口に運んだ。



辛さは中辛。


野菜も豚肉も食べやすい大きさに切り分けられている。


隠し味にはおそらくチョコレートが使われていて、それにより口当たりが柔らかく、しっかりとしたコクが出ている。



「おぉ……よくできてるじゃないか。美味いぞ」


由紀は照れたような表情を浮かべ、当たり前でしょ!と再び胸を張る。


由紀の作ったカレーを黙々と口に運んでいると、


「そういえば、今日はどうして帰りが遅かったの?」


と母さんが尋ねてきた。



「実は今日、来週からうちのクラスに転入してくるっていう生徒と会って、担任の頼みでそいつに校内を案内してたんだ。それで今日は少し帰りが遅れた」


俺は事の経緯を母さんに伝えた。


「そうだったのね。でもこんな時期に転校だなんて、その生徒さんも大変ねぇ」


母さんはそう言いながら、空になった父さんの皿にカレーのお代わりをよそった。




カレーを食べ終えた俺は、自室に戻りベットに横になった。


ポケットからスマホを取り出し、先ほど交換した榊原の連絡先を画面に表示する。


しばらくボーッと榊原の連絡先を眺めていると、突然スマホが鳴り出した。



驚いた俺はベットから飛び起き、発信主の名前を確認する。


そこにはついさっきまで眺めていた「榊原麗」の名前が表示してあった。


俺は慌てて通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。



「も、もしもし?榊原か……?どうしたんだ突然……」



少し上ずった声で尋ねる。



『もしもし羽島君?さっきぶりね。ちょっと相談があって電話したの』



榊原はそんな俺とは対照的に、非常に落ち着いた声で話を続けた。




『——明日、羽島君に街を案内してもらいたいのだけれど、可能かしら?』




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