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白の無才  作者: kuroro
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第25話「期末テストについて(2)」

期末テスト2日目、最終日ーー。


今朝はいつもより少し早く家を出て登校した。


教室で今日のテストに向けて最後の勉強をするために。


テストの日にギリギリ登校するのは精神的にもあまり良くない。

どれだけ心に余裕が持てるかというのは、テストの結果にも繋がってくる。


そういうわけで俺は学校へ向けて足を動かしている。


外はシトシトと雨が降っている。

天気予報では昼過ぎ頃から晴れるようだ。


右手に持った傘に雨粒が当たり、パラパラと弾けるような雨音が聞こえる。


そんな雨音に耳を傾けながら、学校へと向かった。






昇降口に着き、傘を閉じて雨粒を払うと傘立てにしまい、靴を履き替えた。


そして教室へ向かうと、教室内にはチラホラとクラスメイトの姿が見られた。


どうやら俺と同じことを考えている奴が他にも何人かいたらしい。


そんなことを思いながら教室内をサッと見回すと、信じられないような光景が俺の目に飛び込んできた。


俺の席の前ーー


つまり秀一の席に座って、教科書を開きながら黙々とノートに書き込みを入れている奴がいた。


そいつが誰かはすぐ見てわかったが、いつもの感じからは予想がつかなかったため、一瞬目を疑った。


俺は自分の席までゆっくり足を運ぶと、そいつに声をかけた。


「お、おい、秀一。一体どうしたんだ……」


「ん?おぉ、悠か。どうしたんだって……今日テスト最終日だろ?早めに教室行って勉強したいと思って」


その人物ーー、榎本秀一はさぞ当たり前のかようにそう言った。



秀一が……勉強?



確かに昨日の放課後はかなりやる気みたいだったが、まさか俺より早く教室に着いて自主的に学習しているなんて……


昨日、この世の終わりのような暗い顔をしていたやつと同一人物とは到底思えなかった。


秀一も、たまには勉強するんだな。


俺は不気味さ半分、感心半分といった感じで自分の席に着いた。


席に着くと、真剣にテスト勉強に取り組む秀一の背中を見て俺も最後の確認をすることにした。



教室内に話し声は一切なく、ページをめくる音とノートの上をシャープペンシルが滑る音だけが響く。


俺たちは始業の鐘が鳴るまで、黙々と勉強に取り組んだ。






勉強を始めてからどれくらいが経っただろうか。


唐突に鐘の音が響き渡り、俺はハッと顔を上げた。


教室の黒板付近に設置された時計を確認すると、時刻は8時30分。

どうやら先ほどの鐘の音は始業の鐘だったようだ。


周りの空気に当てられて、かなり集中してテスト勉強に取り組んでいたらしい。


気がつけば、教室内にはもうほとんどの生徒が揃っていた。



HRホームルーム始めるわよー。準備して」


教室前のドアが開き、担任の佐倉先生が生徒名簿を持って教室に入ってきた。


今までテスト勉強をしていた生徒は先生が教室に入ってくるなり、机の上に広げられた教科書類を机の中にしまった。


俺と秀一も、それまで開いていた教科書やノートを閉じて机の中にしまう。


佐倉先生は教室内を見回し、準備ができたことを確認すると口を開いた。


「それじゃあ、HR始めるわね。今日の主な予定はーー」






HRが終わった後、ノート以外、机の中のものを全てロッカーに移動させ、筆記用具を机の上に置いて1限目の鐘が鳴るのを待つ。


1限目は現代文。


現代文に関してはかなりの自信がある。


俺は出題範囲の漢字や評論、小説を再度確認し深く息を吐く。


準備は万全。後は落ち着いて問題を解くだけだ。


ふと前の席に目をやると、秀一が自分のノートを何度も見直している。


教室内にはテストを受ける前から「もう無理だ」だの「諦める」だの弱音を吐いている奴がいるが、そんな奴らに比べると最後までノートにしがみついている秀一はとてもかっこよく見えた。


そんなことを思っていると、1限の予鈴が鳴り響いた。


予鈴とほぼ同時に試験監督役の佐倉先生が教室に入ってくる。


「教科書類しまってー。問題用紙配るわよ」


今まで開いていたノートを閉じてロッカーにしまい、机の上には筆記用具だけを用意する。


全員が教科書類をしまい終わったのを確認した先生は、うんうんと頷くと左側の列から順に問題用紙を配り始めた。


俺の元にも問題用紙が届く。


全員の元に問題用紙が届くと、教室内は静寂に満ちた。


聞こえるのは時計の秒針がカチカチと時を刻む音だけ。


1秒、また1秒と時間が過ぎていく。




そしてーー




「始め」


1限開始の鐘の音と共に佐倉先生の声が響いた。


同時に教室のあちこちからは問題用紙を裏返す音が聞こえ出す。



こうして、期末テスト2日目最終日が始まった。







時間は刻々と過ぎ、気がつけばもう既に4限目。


期末テスト最終科目の漢文に入っていた。


残り時間も僅か。


俺は解き終えた問題と答えを見比べ、間違いがないかを確認する。


誤字脱字ないか、凡ミスはしていないか、名前はしっかり記入欄に書いたか。


端から端までくまなくチェックする。



そしてーー



「はい。終了。後ろから回収してきてー」


4限終了の鐘の音と共に、佐倉先生が声を上げた。


教室内では、2日間に渡る期末テストからやっと解放されたことによる安堵と達成感の声があちこちから漏れ出した。


「はぁ〜〜〜〜やっと終わったぁ〜〜〜〜」


前の席の秀一もそう言って、全力を出し切ったのかスライムのように全身を脱力させている。


俺もかなり疲れた。


2週間しっかりとテスト勉強に取り組み、昨日今日とテストを受け、それが終わったことで今までの緊張の糸がプツンと切れ、疲れがドッと押し寄せてきた。


何はともあれこれで安心して夏休みを迎えることができる。


……赤点があった場合は別だが。



俺は椅子に座ったまま教室内をぐるっと見回す。


立ち上がって伸びをする者、友人同士とテストの手応えについて話し合う者、そそくさと家に帰る準備をする者。


彼らの顔には総じて、これから来るであろう『夏』に対する期待と喜びが現れている。


俺は彼らの表情を見てから、窓の外を眺める。


今朝シトシトと降り続いていた雨は既に上がり、空には青空と白い太陽が顔を見せている。


その青空と太陽は、まごう事なき『夏』のものだった。


「夏が来た……」


俺は無意識に口元に笑みを浮かべ呟く。


夏の青空に目を向けていた俺は、ふと榊原の方に目をやった。




榊原も同じように窓の外を眺めていた。



俺の位置からでは横顔しか見えないが、その横顔も榊原の長い黒髪に覆われてよく見えない。



しかし、それでも俺には確かに見えた。



夏の青空と白い太陽を眺める榊原の口元に、うっすらと笑みができるのを。



太陽は、榊原の優しく温かな微笑みを受けてその輝きを一層強めた。



まるで夏の白い太陽が、榊原に微笑みを向けられて照れたかのように見えたーー。



読んでいただきありがとうございます。


作者もリアルでそろそろテストが始まります。


とても憂鬱です……


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