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白の無才  作者: kuroro
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第24話「期末テストについて」

高校時代を思い返しながら読んでみてください。

「ーーはい、終了。最後尾の人は後ろから答案用紙回収してきてー」



テスト終了の鐘の音と共に、試験監督役の佐倉先生が呼びかけた。


教室ではピンと糸の張ったような緊張感から一変、糸の切れたマリオネットのように体を脱力させ、安堵とも憂鬱ゆううつとも取れるため息を漏らす生徒がちまちまと見られた。


俺もやっと1日目のテストが終わったという安心感と、ニアミスがあったらまずいなという不安感にかられ、長く重いため息をらす。


最後尾に座っている俺は席を立ち、後ろから順に答案用紙を回収して教卓に並べ、自分の席に戻った。


教卓から席に戻ってくる時に秀一の顔をチラッと見ると、まるでこの世の終わりのような暗い顔をしていて何だかいたたまれない気持ちになった。


窓側の列の真ん中辺りに座っている朝霧も、秀一と同じように頭を抱えてうつむいている。


どうやら2人とも初日のテストはかんばしくなかったようだ。



そんなことを思いながら、俺はふと榊原の方に目を向けた。


窓側最前列の榊原はここからでは後ろ姿しか見えないが、ほとんどの生徒が机に突っ伏したり椅子にもたれかかって天井を見上げている中、1人背筋をピンと伸ばし、使い終わった筆記用具をペンケースにしまっている。


俺はそんな榊原の後ろ姿を見つめながら、先日の出来事をふと思い出した。




先週の日曜日、俺と榊原は蛍を見るために夜の夜煌川へおもむいた。


あの日見た光景は今も目にしっかり焼き付いている。


淡い光を放ちながら初夏の夜空を飛び交う蛍はそれはそれは美しいもので、あの場にいた誰もが心を奪われた。




しかしあの場にはもう1つ、蛍に勝るとも劣らない美しいものがあったーー。



それが、俺の隣で真剣に蛍が飛び交う様子を眺めていた榊原だ。




榊原の黒く大きな瞳には、蛍が放つ蒼く淡い光が反射して映っていた。


榊原の横顔を見た俺は思った。




人は美しいものを目にした時、こんなにも慈愛に満ちた表情をするのだな……と。




榊原の大きな瞳が。長い睫毛が。頬にかかる艶やかな黒髪が、夜空を飛び交う蛍の光にボーッと照らされ、美しさを何倍も跳ね上げているように見えた。


ほたるヶ丘の頂上から、夕日に染まるほたる市を眺めた時もそうだった。


榊原は何か綺麗なもの、美しいもの、激しく心揺さぶられるものを見ている時にとても良い表情をする。


ひょっとしたら俺は榊原のそんな顔が見たくて、蛍鑑賞に榊原を誘ったのかもしれない。


またいつか、榊原と一緒に綺麗な景色を見たいと……そう思った。





そんなことを思い返していると、前の席の秀一が後ろを振り向き声をかけてきた。


「……なぁ、悠。今日のテストどうだった……?」


「ん?あぁ、まぁまぁってところか。そういうお前は……聞くまでもなさそうだな」


俺の言葉を聞くなり、秀一は沈んだ表情をさらに暗くした。


「ま、まぁ、テストは明日もある。そこで挽回すればいいさ」


秀一の励みになるかはわからないが、とりあえず希望を持たせるようにそんな言葉をかける。


「明日か……」


秀一は小さくそう呟くと、鞄を持って立ち上がった。


「帰るのか?」


「うん……」


「それじゃあ、俺も」


そう言って立ち上がり、机の横にかけられた鞄を取ると、俺は秀一と一緒に教室を出ることにした。


教室を出る前、榊原のことが気になってもう一度見てみると、さっきまで頭を抱えていた朝霧に泣き付かれ、助けを求められていた。


榊原は困ったような顔をして、そんな朝霧をなぐさめている。


……頑張れ、榊原。


俺は心の中で榊原にエールを送り、教室を後にした。




その後昇降口で靴を履き替えたのち、校舎を出て正門へと歩いた。

隣ではまだ秀一が暗い顔をして俯いている。


暗い顔をした秀一を見かねた俺は、なんとかいつもの明るい秀一に戻ってもらおうと声をかけた。


「いい加減顔を上げろよ。終わったことをいつまでも気にしてても仕方ないだろ」


すると俺の言葉が響いたのか、秀一はゆっくりと顔を上げた。


「うん……、そうだよな。切り替えないとな。……悠!ありがとな。俺、明日に向けて勉強頑張るよ!」


「おう、その意気だ」


秀一は拳を握りしめてガッツポーズをすると、いつもの明るい表情に戻って言った。


「それじゃあ悠。俺は急いで帰って勉強するから、また明日な!」


「あぁ。また明日。頑張れよ」


「おう!」


そう言うと秀一は、家に向かって勢いよく走っていった。




正門前で秀一と別れた俺はふと空を見上げる。


今日は空に雲はかかっておらず、白い太陽が顔を見せている。


榊原と蛍を見に行ってからというもの、次第に雨が降る日は少なくなっていった。


梅雨の終わりと夏の始まりがどんどん近づいているような気がする。


そんなことを思いながら、俺は帰路に着いた。






家に着いた俺はすぐさま自分の部屋に行き、制服から部屋着に着替えると、鞄から教科書・ノート・筆記用具を出し、明日のテストに向けて勉強を開始した。



今日は数学、歴史、古文の3科目が実施された。


明日は期末テスト最終日。

現代文、地学、英語、漢文の4科目が行われる。



俺はどちらかといえば文系科目の方が得意なため、明日のテストには少々期待が持てる。


とりあえず、英単語の暗記から始めようと俺はノートを開いた。


ノートには、テスト範囲に指定されている英単語とその単語の訳がずらりと書き並べてあり、英単語には全て緑色のマーカーが引いてある。


俺はノートに挟んでおいた赤シートでそれらの単語を隠しながら、声に出して復唱する。


「Expression……表現……Expression……表現……Expression……表現……」


部屋には俺の声だけが響く。


自分の口から発せられる言葉に耳を傾けながら、どんどん英単語を読み進めていく。


「Insist……要求する……Insist……要求する……Insist……要求する……」


「Please……〜を喜ばせる……Please……〜を喜ばせる……Please……〜を喜ばせる……」


口に出した言葉がイメージとして頭に入ってくる。

この調子なら単語の暗記はなんとかなりそうだ。


そんなことを考えながら次の英単語を読み上げる。



「Dear……愛しい……Dear……愛しい……Dear……愛しい……」



その単語を読み上げた時、なぜだか無性に榊原のことが気になり出した。




今、榊原は何をしているだろうーー。


まだ朝霧に泣き付かれて教室に残っているのだろうか。


それとも、もう家に帰って勉強を始めているのだろうか。



榊原の口から、いくつもの英単語がポツポツと綺麗な音色と共に溢れ出てくるイメージが唐突に湧いてきた。



「Dear……愛しい……Dear……愛しい……Dear……愛しい……」



繰り返し唱えるたびに榊原の顔が脳裏に浮かぶ。




この単語だけは絶対に忘れないと、なぜだかそんな確信が俺にはあったーー。



読んでいただきありがとうございます。


この話を書いている時、自分の高校時代を思い出しました。


それにしてもテストって嫌だよなぁ……



評価・感想・アドバイス、お待ちしています!


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