第21話「テスト勉強と蛍について(3)」
土曜日。
蛍観賞の前日ーー。
窓の外から聞こえる激しい雨音で目が覚めた。
カーテンを閉め切った部屋は暗く、今が朝なのか夜なのか分からない。
俺はもぞもぞと腕を動かすと、枕元に置いてあるスマホに手を伸ばし、ボタンを押してディスプレイを起動させる。
ディスプレイの明かりが真っ暗な部屋で激しく発光し、俺は寝起きの目を眩ませた。
ディスプレイの光に目を慣らし、薄目で時刻を確かめると、ちょうど11時を回ったところだった。
俺はスマホを枕元に戻すと、のそのそとベッドから身体を起こす。
部屋の中には窓の外から聞こえる雨音だけが響いていた。
ベッドから腰を上げ、カーテンを開けると、窓の外は予想以上の大雨だった。
今日が休日で本当に良かった……
俺は安堵の溜息をホッと一息つくと、身震いを感じ、両手で交差するように腕をさすった。
腕にはボツボツと鳥肌が立っている。
ここ最近、雨の日が続いたため部屋の中は少し肌寒く、半袖のTシャツを着ていた俺はクローゼットから長袖の上着を取り出して着替えることにした。
上着に着替えた俺は部屋の明かりを点けると、欠伸をしながら猫のように身体を伸ばす。
今日は特に予定はなく、外はご覧の通り見るのも嫌になるほどの大雨。
「……よし」
俺は寝起きの頭で少し考えると、昨日学校から出された課題と再来週のテストに向けての勉強に取り組む事に決めた。
机の上に教科書とノート、それと筆記用具を出し、スイッチを寝起きモードから勉強モードに切り替える。
とりあえず課題を先に片付けてしまおう。
そう考えた俺は、早速教科書とノートを開くとシャープペンシルを持ち、問題と向き合った。
課題を一通り片付けた俺はスマホで現在の時刻を確認する。
時刻は13時30分を回ったところだった。
どうやら2時間以上課題に取り組んでいたらしい。
俺は椅子から腰をあげると、部屋を出てリビングへ向かった。
「あら、起きてたの?」
リビングへ行くと、母さんがソファーでくつろぎながらテレビで昼の情報番組を見ていた。
俺はそんな母さんを横目に冷蔵庫の扉を開ける。
「昼前にはもう起きてた」
「そうだったの?お昼ご飯は?」
「今から」
冷蔵庫の中を覗き込みながらそう言うと、母さんはテレビの方を向きながら「何もないわよ」と声をかけてきた。
続けて「たまには自分で作ってみたら?」などと言ってきたが、あいにく今はそんな気分ではない。
課題を終えて、脳が疲弊している時に料理なんかしてしまったら何ができるか分かったもんじゃない。
俺はそんなことを思いながら冷蔵庫を閉め、キッチン上の収納扉を開いた。
ガサゴソと中を漁っていると、インスタントの焼きそばを1つ見つけた。
俺はそれを取り出すと、キッチンシンクの横でフィルムを剥がし、蓋を開ける。
カップの中から加薬や粉末ソースを取り出すと、ポッドに入っていたお湯をその中に注いだ。
その後蓋を閉じ、スマホで3分間にセットしたタイマーを起動させると、俺はダイニングテーブルの椅子に座った。
「母さん、由紀は?」
妹の由紀の姿が見当たらなかったため尋ねてみる。
「え?あぁ、部活に行ったわよ」
「部活!?こんな大雨の日に?」
てっきり部屋でまだ寝ているのかと思った俺は声を裏返らせて言った。
「大変よね〜」
母さんは他人事のようにテレビを見ながら言った。
俺は再び窓の外に目を向けた。
外では変わらず雨が降り頻っている。
俺は顔を歪めると、大雨の中、激しい雨風にさらされながら学校へ向かう由紀の姿を想像した。
こんな日でも休まず部活に参加するなんて、由紀はすごい根性をしている。
俺だったら間違いなく休んでいただろう。
実妹に尊敬の念を抱いていると、3分が経過したことを知らせるアラームが鳴った。
俺はアラームを止めると、カップの湯切り口を開け、お湯をシンクに捨てた。
カップの中のお湯を捨て切った後、蓋を開け、取り出しておいた加薬と粉末ソースの袋を開けてその中に入れる。
箸で加薬と粉末ソースがいい具合に絡むように麺をかき混ぜると、出来上がったカップ焼きそばをテーブルまで運び、椅子に座って勢いよく麺をすすった。
俺は昼食を食べた後部屋に戻り、再来週のテストに向けて勉強を再開した。
効率よくテスト勉強を進めるため、スマホでタイマーを1時間にセットしてから各教科の勉強を始めた。
最初の1時間は数学、その次は英語といった様に、1時間ごとに10分間の休憩を挟みながらテスト勉強を進めていく。
休憩を挟みつつテスト勉強を進めたため、思ったよりも集中力が続き、気がつけば3回目のアラームが鳴っていた。
「んっ……」
俺は手に持ったシャープペンシルを机の上に置き、両手を上げて思い切り伸びをした。
時刻は17時30分。
部屋の中にはギシッっと椅子の軋む音だけが響く。
そういえば、先ほどまで煩いほどだった雨音が聞こえなくなっている。
俺は椅子から立ち上がると窓のそばへ行き、外を眺めた。
先ほどまで滝のように降り頻っていた雨は、今では霧吹きを吹きかけられているような弱々しい雨に変わっていた。
俺は開きっぱなしだったカーテンを閉めると、そのまま脱力しきった身体をベッドに埋めた。
「あー……、疲れた」
口から無意識に言葉が漏れる。
テスト勉強の続きはまた後でやろう。
俺は自分にそう言い聞かせ、そのまま仮眠することにした。
集中して勉強していたせいか、いい感じに頭が温かい。
血液が頭の中をぐるぐると循環しているのがよくわかる。
目を閉じて、深い呼吸を何度か繰り返すと、俺はスッと眠りに落ちたーー。
眠りについてからどれくらい経っただろう。
俺は耳元でけたたましく鳴り響くスマホの着信音で目が覚めた。
目を瞑りながら手探りでスマホを探して手に取ると、発信ボタンを押してスマホを耳元に当てた。
「はい……羽島です……」
寝起きのガラガラとした声でそういうと、スマホの向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あっ、羽島君?……もしかして、お休みだった?」
その発信主ーー、榊原は少し申し訳なさそうな声でそう言った。
「いや、大丈夫だ。気にするな。それで、どうしたんだ?」
「いえ、ちょっと明日のことをもう一度確認しておきたくて。明日は19時にほたる駅集合で合っていたかしら?」
「あぁ、合ってる。雨が降ると悪いから、一応折りたたみ傘を持ってきてくれ」
「えぇ、わかったわ。……それで羽島君。テスト勉強の方は捗っているかしら?」
榊原はどこか楽しげな声で聞いてきた。
「まぁまぁだな。一応頑張ってはいるが、結果としてどの程度現れるかは分からないな」
榊原は消極的な発言をする俺に対し、フフッと軽く笑うと「それならきっと大丈夫よ」と励ましの言葉を贈った。
榊原の方は聞くまでもないだろう。
毎日欠かさず職員室へ足を運び、各教科担当の教師に質問をしていたのだ。
おそらく今日も授業の復習などに取り組んでいたに違いない。
「ありがとう。……明日は雨が降らないといいな」
俺は励ましの言葉を贈ってくれた榊原に一言礼を言うと、祈るような気持ちでそう呟いた。
「えぇ、そうね。私、今までテレビや図鑑でしか蛍を見たことがなかったから、とっても楽しみだわ」
そう言う榊原の声は、期待で弾んでいるように聞こえた。
「それなら、明日は榊原にとっていい1日になるな」
俺は、蛍を見て目を輝かせる榊原を想像しながら言った。
「フフッ、そうね。……それじゃあ私はそろそろ勉強に戻るわ。羽島君も一緒に勉強頑張りましょうね。それではまた明日」
「あぁ。また明日」
そう言って俺は榊原との通話を終えた。
通話を終えた俺は通話画面からホーム画面に戻すと、ディスプレイの上部に目をやる。
時刻は20時を少し回ったところだった。
時刻を確認した俺はベッドから立ち上がり、机に向かう。
「『一緒に頑張りましょう』か……」
榊原の言葉を口に出して言うと、なぜか勉強をやる気になってくる。
夕食や風呂は後でいい。
今はとにかく勉強がしたい。この気持ちが冷めない前に。
俺は机の上にあるスタンドライトを点けると、シャープペンシルを持ち、教科書を勢いよく開いたーー。
今回も読んでいただきありがとうございます。
「ノー・タレント」を書き始めてから約20日が経過しました。
毎日投稿を目標に頑張っていますが、最初の頃に比べて少しは成長したでしょうか?
皆様の感想やアドバイスなどいただけると大変嬉しく思います。
次話も楽しみにしていてください。




