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白の無才  作者: kuroro
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第14話「紫陽花祭りについて(2)」

放課後ーー。


本日の授業がすべて終わり、開放感と安堵による喧騒けんそうの中、俺は榊原に声をかけた。


「榊原、ちょっといいか?」


「あら、羽島君。どうしたの?」


榊原はきょとんとした顔をして尋ねた。


「実は……」


秀一は授業が終わるなり、「悠、榊原さんの件頼んだぞ!」と言い残し、すぐに部活へ行ってしまった。

そういうわけで俺は一人で、今朝秀一と話した紫陽花祭りの内容を榊原に伝えた。


「紫陽花祭り……面白そうね。是非、行ってみたいわ!」


榊原は紫陽花祭りの内容を知ると、表情を明るくしてそう言った。

榊原のこの表情を見逃すなんて、秀一は全く惜しいことをしたな。


「何話してるの?」


そんなことを思っていると、榊原の後ろから声が聞こえた。


「話、聞いてたのか……」


俺は呆れた顔をして言った。


「えへへ。麗ちゃんと羽島が、何にかこそこそ話してるの見えたら聞かずにはいられないじゃん?」


彼女は猫のような笑顔をし、活発的なショートカットの髪を撫でながらそう言うと榊原に抱きついた。


「あら、朝霧さん」


「莉緒でいいって言ってるのにー。で、何の話してたの?紫陽花祭りがどうこうって話してなかった?」




彼女の名は朝霧莉緒あさぎりりお

朝霧も俺や秀一と同じ第一中学出身で、秀一と同じ陸上部に所属している。


朝霧は明るさの塊みたいなやつで、元気の良さは秀一にも引けを取らない。

榊原がクラスに転校してきた時、真っ先に声をかけたのも朝霧だった。


朝霧は榊原とかなり親しくなっているらしく、榊原のことを「麗ちゃん」と名前で呼んだ。


中学の頃から思っていたが、秀一といい朝霧といい、誰とでもすぐに親しくなれるのは彼らにそういう「才能」があるからなのだろう。

俺にはない「才能」ということもあり、素直に羨ましいと思う。




特に隠すようなことでもないため、俺は朝霧にも紫陽花祭りのことを話した。


「……ということで、榊原も紫陽花祭りに誘ってみようってことになったんだ」


朝霧は俺の話をふむふむと頷きながら聞き、俺が話し終わると「それじゃあ……」と口元に笑みを浮かべてこう言った。


「私も麗ちゃんと一緒に行きたい!ねぇ羽島、私も一緒じゃダメかな?」


朝霧の目からは「連れて行け」という強い想いが伝わってきた。


確かに、男子2人に対して女子は榊原1人というのは、榊原も気を使って疲れてしまうだろう。

俺は少し考えてから答えた。


「あぁ、いいよ。女子1人だと榊原も思い切り楽しめないだろうからな。秀一にも報告しておくよ」


「やったー!麗ちゃんと一緒に紫陽花祭りに行けるなんて楽しみだよ!」


朝霧は榊原の手を握ると、その手を激しく振り回し喜びを全身で表現した。


「私も朝ぎ……、莉緒さんと一緒にお祭りに行けるなんてとっても楽しみ」


燦々《さんさん》と輝く太陽のように全身で喜びを表現する朝霧とは対照的に、榊原はまるで夜空を明るく照らす月のように静かに微笑んで言った。


榊原と朝霧に当日の集合場所と時間を伝えると二人に挨拶をし、俺はカバンを持って教室を出た。


秀一には明日の朝、報告することにしよう。


俺はそう考えながら昇降口で靴を履き替え、傘立てに入れておいた傘を手に持つと校舎を後にした。


雨は既に止んでいて、雲の切れ間から爽やかな青空が見えた。


学校から家に帰るまでの道には幾つかの紫陽花が咲いていて、パステルブルーの花弁にはしずくが付いていた。


花弁の上に乗った雫は紫陽花のパステルブルーをその中に取り込み、雨上がりの空から顔を出した太陽に照らされて、まるで宝石のようにキラキラと美しい輝きを放っていた。


たまには雨も悪くないかもしれないな。


俺はそんなことを考えながら家に帰った。




そして、翌日ーー。


今朝も相変わらず雨が降りしきっていた。


俺は今朝も大きな傘を手に持って開くと、降り頻る雨の中に飛び込んだ。


昨日、学校の帰りに見た紫陽花の花弁の上には小さな蛙が1匹、雨に打たれながらたたずんでいた。


俺は心地のよさそうな表情をしたその蛙をチラリと見てから学校へ向かった。



学校に到着すると昇降口の傘立てに傘を入れ、靴を履き替え、教室へと向かった。

教室に入ると、既に秀一も朝霧も榊原も席についていた。


秀一は俺に気がつくと、それまでいじっていたスマホを制服のポケットにしまい、声をかけてきた。


「おう!悠。昨日はどうだった?榊原さんにOKもらえたか?」


秀一は期待に胸を躍らせた様子で聞いてきた。


「あぁ。あと、朝霧も一緒に来ることになった。」


「莉緒も!?……まぁ、いいっか!」


唐突に出された朝霧の名前を聞いて、秀一は声を裏返した。

そして少し悩んだ後、秀一は朝霧も同行することに納得したようだ。


「榊原さんと一緒に紫陽花祭りに行けるなんて夢みたいだな!」


すると秀一は以前、俺が受けた罰を思い出したのか、耳元で囁くように続けて言った。


「あっ、他の男子に知られると色々と面倒だから、このことは黙っておこう……」




それからというもの、秀一はSNSで毎日のように「紫陽花祭りまであと◯日!」と、まるで日めくりカレンダーをめくる子供のようにカウントダウンをし始めた。


そして、秀一のカウントダウンが「あと1日!」になった、紫陽花祭り前日ーー。




俺たちは放課後、秀一と朝霧が部活へ行く前に明日の予定を再確認した。


「それじゃあ、明日は16時にほたる駅集合ってことでいいか?」


俺が集合時刻と場所の確認をすると、3人はコクリと頷いた。


「明日が待ち遠しいな!んじゃ、俺たちは部活行ってくるからよ。悠、明日遅刻すんなよ!榊原さん、また明日ねー!」


「麗ちゃん、明日は思う存分楽しもうね!それじゃあ羽島、麗ちゃん、また明日!」


秀一と朝霧は俺と榊原にそう言うと教室を出て、部室へ向かった。


俺と榊原もその後教室を出て、家に帰ることにした。




「羽島君、紫陽花祭りに私を誘ってくれてありがとう。明日が楽しみだわ」


校門を出て帰り道を歩いていると、隣を歩く榊原がこちらを向いて言った。


「前に一度ほたる市を案内した時は、ほたる市のイベントをあまり紹介できなかったからな。今回はいい機会だと思って誘ってみたんだが、喜んでもらえたようでよかったよ」


俺は榊原と一緒にほたる市を周った時のことを思い出して言った。

あの時は俺と榊原の2人きりだったが、今回は頼もしい友人が2名同行することになる。


「秀一も朝霧も中学からの付き合いだが、2人ともいいやつだよ。少し騒がしいのが問題だがな」


俺は首をすくめて言った。

すると、榊原は軽く微笑んで、


「榎本君も莉緒さんも、明るくて一緒にいるとなんだかこっちまで楽しい気分になるわ。これも周りを楽しませる才能なのかしらね」


と、尊敬の眼差しを雨上がりの青々とした空に向けて言った。



その後、俺たちはいつもの横断歩道前で別れの挨拶を交わし、各自帰路に着いた。


俺は今朝同様、紫陽花を観賞してから家に帰ると、自室で明日の天気を調べた。


すると、「明日の天気」の欄にニコニコとした顔が描かれた晴れマークがいくつも並んでいた。


「よかった。晴れるみたいだな」


明日は久しぶりに1日中晴れで、気温も正午には26度まで上昇するらしい。


祭りは11時から開始されるが、俺たちは夕方から祭りに行くため、その頃には気温も落ち着いているだろう。


俺は珍しく胸を高鳴らせると、スマホを取り出し、榊原たちに明日の天気が晴れということをメールで伝えたーー。



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