Fine. Ⅱ
アパートひしめく下町の裏道をひとり、歩いている。
来た時よりも、おぼつかない足取りで。
来た時よりも、しっかりとした意志で。
もう終止符を打ったのだ。この不毛な関係に。
そして二度と手に収まらない。最も心を傾けた男は。
背に触れる、生温い体の感触は別れを惜しくした。
規則正しく繰り返される鼾は母性本能を刺激した。
もう、聴くことはないだろう。
切ないピアソラの調べも、あの男が創る木管楽器のメロディーも。
クラリネットのように甘く優しく包み込む、あの声も。
二度と。