『天野原』
目の前に立つずっと笑っている男ががすごい人?物?なのだとわかったところで、僕にはどう対応していいのかもわからずにいた。
というか、そんな凄い、とりあえず人がなぜ僕を訪ねてきたのかもわからずにいた。
「それよりミナモ、お前が調べていることに答えは出たのか?」
ムラクモさんがはじめて真面目な顔になり聞いた。ミナモさんは首を横に振り、
「いえ、残念ながら」
「セイが息子に『今回のゼウス決定戦は仕組まれてる』って、伝えてきたんだろ?
上層界は、さっきも言ったが次のアマテラスを決めるのに注目してて下層のことなんて気にしてない。
逆に、天の一族は自分の系列の一族がゼウスであることは利になっても不利にはならないはずだから、セイを排除するとは俺も思えない。」
「それではやはり、あの反乱の生き残りが仕掛けていると考えた方がいいですよね?」
「あの~、テンの一族ってなんですか?」
僕が話に入ると、みなもさんは明らかにめんどくさそうな顔をして、ムラクモさんはミナモさんを見てあきれた顔をしてから、僕に向かって笑顔で、
「天照大神の子孫の一族を『天の一族』って呼ぶんだ。
その系列は増えたり減ったりしながら50くらいはある。
他の神の一族にも『アマテラス』になる資格は与えられているが、正直に言うと、天候の力を操る天の一族は別格で、張り合えるのは『地の一族』くらいだが、勢力としてはあまりいないから、毎回のようにアマテラスは天の一族から出てるんだよ。」
「その50の家が競いあってるんですか?」
ムラクモさんは悲しそうな顔になり、
「残念だが、一族の中でも天照大神の力の継承が濃い一族に限られている。昔はたくさんの家から候補が出ていたが、血が薄れ、力も薄れていってる今では5家から選ばれる感じになってる。
他の家は、その5家の傘下に入ることでなんとか一族として認められる形になってる。」
「神の力は遺伝していく。自分の遠い祖先に神の一族がいた者からゼウス決定戦の候補者が選ばれるように、遺伝情報に刻み付けられた神の力を発現させられた者が神に戻れるんだ。
だが、その先祖が遠いほど力は発現しにくくなる。それは人の世界でも神の世界でも変わらない。
お前みたいに母親側も神の一族で、父親が現在進行形で神様ならその遺伝情報は明確になる。
つまり、他の者より強い力を手に入れられるということだ。」
ミナモさんが言ったことで、僕は気になったことがあったので、
「じゃあ、神様の世界でも強い一族との結婚とかしてるんですか?」
「まぁ、それは賭けだよな。
強い一族との結婚で子孫を残しても、力は個体差があるし、相反する力の場合、相殺して力のない子供が生まれることだってある。」
ムラクモさんが言い、ミナモさんが
「そんな都合よく一族を強くすることはできない。」
「なるほど…………」
僕が呟いた所でひとつの疑問が浮かんだ。
「ムラクモさんはアマテラスにはなられたんですか?」
ムラクモは苦笑いを浮かべて
「残念ながら最高神物である私には、その資格はないんだ。
私の子孫にはその資格もあったのだが、問題を起こして今はその資格もなくなってるからね。」
「問題って……………」
僕が聞こうとしたところでミナモさんが
「おい、あまり聞くな。」
確かにこんな話聞かれたくないだろうと思って謝ろうとすると
「まぁまぁ、いいじゃないか。
それに彼には関係のある話だしな。」
ムラクモさんは笑いながらいった。
「実は私の息子がね、他所の一族の娘と駆け落ちしてしまってね。
私が逃げるのを手伝ってしまったんだ。
それが原因で一族同士の喧嘩が起こって、当時のアマテラスに怒られて、私の一族のほとんどが人間界に追放されてね。
今では、私しか私の一族は天界にいないんだ。」
「そ、そうだったんですか………………すみません。」
ミナモさんはめんどくさそうに
「お前な、他人事じゃないんだよ。
お前の天野原一族が、ムラクモさんの一族なんだよ。
お前が追放されたどの家の子孫かまでは知らないが、お前らの超ご先祖がこのムラクモさんなんだよ。」
僕が驚いて見るとムラクモさんはイタズラぽく笑って
「おじいちゃんと呼んでくれても良いぞ!」
「…………………考えさせてください。」
混乱する頭でようやく出した言葉は、自分でも恥ずかしくなるほど語彙力の無さが感じられた。




