『見えない足跡』
僕はミナモさんの調べていることの進展が気になったので、ミナモさんを呼んでみた。いつもなら呼ぶなと言わんばかりの不機嫌そうな顔だが、今回はそうでもなかった。
「今つかんでいることはあまり多くない。」
ミナモさんが言ったが、あまりということは少しは何かわかったのかと思い黙っていると
「まず、反乱の前から生き残っているやつはかなりたくさんいたし、そこから探すのは難しそうだということ。
反乱にすべての人の神が参加した訳じゃないし、反乱の意思はあっても行動に出なかった者もいただろうから見つけるのはかなり時間が必要だ。
二回戦も終わって、いつ志士上との決勝戦があるかわからないから時間のかかる調査をしている暇はない。」
「じゃあ、今回のゼウス決定戦のおかしなところは何かないんですか?
何かを仕組んでいる人がいるなら、不自然なこととか。」
僕も何かおかしいことはないかと考えて見た。
「ゼウス決定戦のやり方は、そのときのゼウスが決めることだから、今回のやり方はセイのやり方としては不自然ではないと思う。」
「あっ!
1000年に一度のお祭りとか言ってる夢を見たんですけど、前回は70年くらい前ですよね?
開催時期がおかしくないですか?」
「ああ、あれは嘘だ。
誇大広告ってやつだよ。世界の導き手である『ゼウス』がコロコロと変わってるなんてあまり印象よくないだろ。
下らない見栄だよ。」
「じゃあ、人数はどうですか?
確か本選に進めるのは10人っていってましたけど、実際は15人も選ばれて辞退者がでて11人でしたよね?」
「参加人数が多かったのと、今回はA級が思った以上に出たから本当にお祭り気分で人数を増やしたんだろ。」
僕が知らない事情をたくさん知っているミナモさんは僕の出す疑問に答えをくれた。
「あとはなんで今なのかってことですかね。」
僕は深くは考えずにしゃべってしまったことを後悔した。
「どういうことだ?」
ミナモさんはすぐに否定してくると思ったがなぜか食いついてきたので、
「いや、父さんは封印されてるけど、連れ戻したことで世界は安定したんですよね?」
「まぁ、そうだな。」
「それなら、このまま封印状態のゼウスの方が、世界の混乱とかを起こさないし、上層神の人達がやりたいことにも文句を言われないじゃないですか。
文句を言えなくて、問題も起こさない傀儡があるなら、ずっとそのままの方が楽でよくないですか?
それとも何か問題があるんですか?」
ミナモさんは黙って考え出した。
「確かにお前の言う通りだな。
無理に変えて、新しいゼウスに反発されるかもしれない可能性を考えると今の状況の方が奴等は安心できる。
セイが決めた方針に基づいて、世界は進められている。
あとは俺達が調整をして、ゼウスの方針に合う世界にしているだけだから何か問題があるとまでは言えない。
なら、なんでだ?」
ミナモさんは考え込んでしまった。
「もし、今回のゼウス決定戦を開催することの時点で仕込まれてたとしたら目的はなんでしょうか?
父さんの方針が気に入らないとかですかね?
それとも反乱のきっかけを作ることですかね?」
「……………………その辺を先に調べよう。」
ミナモさんは踵を返して、帰ろうとしたが、急に立ち止まった。
「どうかしたんですか?」
僕が聞くとミナモさんは勢いよく振り返り
「やられた。
次の対戦は明日の正午だ。
もう時間がない、俺は急いで調べる。お前は別れを伝えたい人に伝えて、少しでも時間を稼いでくれ。」
「どうやってですか?」
「知るか!
天罰を考える時間を長くするとか色々とあるだろ。
何でも良いから、俺に調べる時間を作れ。
いいな?」
ミナモさんは僕の返事を待たずに光と共に消えてしまった。
何かを仕組まれていると言うのも、父さんが伝えてきたことで立証するだけの証拠は何一つとしてない。
僕とミナモさんの杞憂である可能性もある。
それほどに仕組んだ人の足跡が見えないのである。
人間ではできない所業を『神業』というが、もしも神様が犯罪を起こせば証拠など何一つ残さずに完全犯罪ができるのだろう等と考えてしまった。
ミナモさんは見えない足跡を頼りに走り回ってくれているのだから僕は僕にできることをしようと思って、電話を取った。




