『ゼウス』
僕は目を覚ますとすぐにパソコンを起動して、ミナモさんを呼び出した。眩しいほどの光とともに現れたミナモさんはとても不機嫌そうに
「今何時だと思っている?
お前らと時間軸は同じなんだから寝てる時間も同じなんだよ。」
「今、夢にお父さんが出てきたんです。」
ミナモさんは怒りを通り越してあきれた顔になり、
「お前は、芸能人が夢の中に出てきただけで友達にその話をするのか?」
「えっ?何の話ですか?」
「だから、人の夢の話なんかに興味はないし、夢にどんな人間が出てきても俺の知ったことじゃないだろ。」
「あっ、ち、違うんです。
お父さんがゼウスの力で僕に話しかけてきたんです。
あまり使うと回りにバレるから多用はできないっていってましたけど。」
ミナモさんは真剣な顔になり
「それで?
何て言ってたんだ?」
「この話は信じてもらえるんですか?」
「それなら俺も何回か受け取ったことがあるやつだから、疑う必要はない。」
「ああ、そうなんですね。
なんか今回の『ゼウス決定戦』は仕組まれているとか本選には出場するなとか言ってました。」
「『ゼウス決定戦』が仕組まれているか……………………」
ミナモさんは何か思い当たることがあるかの様に考え始めた。
「何か思い当たることでもあるんですか?」
僕は思いきって聞いてみた。
「今回の決定戦は様式が今までのものとはまるで違う形だった。
確かに晴は……お前の親父は争いが嫌いで、今までの決定戦にも批判的な立場だったことは否定できないが、本来は神の仕事である天罰を候補者、しかも能力のないド素人に決めさせるなんてことはあり得ないと思ってた。
それでも、アイツなりに試行錯誤して決めたのならと思っていたが、どの段階で誰が仕組んだかがわからないから、このあたりの判断は難しいが、使ってはいけない能力を使ってまで伝えてきたということはそれほど深刻な問題なのかもしれない。
他には何か言っていたか?」
「仕組んだ人物はゼウスという存在を消そうとしていると言ってました。」
「ゼウスを消すか…………………」
「そもそもゼウスって万能の神様の名前ですよね?
それを何で、神様でもない人から選ぶんですか?」
「世界には信仰の数だけ神様がいるとされている。
人間では理解できない自然現象、原因のわからない恐怖を人は神が与えたものだとして無理矢理に受け入れる。
そうしたなかで、意味を、原因を解説しだした者を指導者として宗教が生まれる。
日本のように八百万の神がいるところもあれば、唯一神として他の神を否定するところもある。
だが、実際は各地域に一番偉い神がいて、その他の神を支配する形になっている。
では、神とはどこから生まれたのか?
なぜ、たくさんいるのかという話になるんだ。」
「神様の起源にゼウスが関係しているんですか?」
「この星が生まれたとき、神は一人だった。
すべての創成を行い、すべての生き物を育み、そして進化させてきた。その唯一の神が初代『ゼウス』だ。
だが、ゼウスは次第に増え始めた生き物を一人で管理することができなくなり、知能を兼ね備えた存在である『ヒト』を作り出した。
そして、『ヒト』にあまたのことを教え、進化させるなかで『ゼウス』は自らが持つ万能の力を優秀な『ヒト』に分け与え始めた。
生き物が増え、管理を外れた生き物は次第に凶暴な存在へと変わり、他の生き物を滅ぼし始めていた時期で、生き物の管理こそが『ゼウス』のそして神となった『ヒト』達の役割だった。
だが、増え続ける生き物を止めることができなくなり、『神』と呼ばれる存在も管理のために増えていった。
そして、初代『ゼウス』は分け与えすぎたことにより、力を失って死んだ。
残った神たちは、『ゼウス』の名を引き継いでいったが、次第に増えすぎた神達のなかに初代『ゼウス』を批判するものが現れた。
力を求める者の中で争いが起こり、そしてその戦いの果てに『ゼウス』の名をただの星を管理するだけの存在へと変質させていった。
全能の力を持っていても、人間の会社で言うところの中間管理職程度の権力しかない。神の世界では『ゼウス』とは雑用をこなす奴隷のリーダーにすぎない。」
僕は絶句した。『ゼウス』が神の世界で一番偉いのかなと思っていたからである。しかも、今の話では目に前にいるミナモさんも神の世界では奴隷でしかないということになる。
「じゃあ、神の世界の上層部の人達は何をしているんですか?」
僕はやっと整理をつけてミナモさんに聞いた。
「何もしていない。
奴等はただ偉そうにふんぞり返って、人間に敬われているだけだ。
神のすむ世界を『天界』と言い、奴等はやつらで自分達の世界を作り、そこで人間界を見下ろして、気に入らないことがあれば我々に指示を出すくらいだ。」
「じゃあ、『ゼウス』になる意味ってなんなんですか?」
「人に寄り添い、そして人間を導くこと。
板挟みになっても人間を守り、育て、そして存在を保ち続けることが決められる。
神からすれば人を殺すことは、人がアリを踏んだり、蚊をはたき落とすことと何も変わらないんだよ。」
「そんな…………………………………」
「ああ、今連絡が来たぞ。
今日の夜8時にパソコンで『神様ゲーム』を起動しろ。
本選についての説明会を開くらしい。
お前が参加しないなら、その時間に起動しなければ良い。
もし用事で起動できないときは神使に事前に伝えておけば参加資格だけは保持されるそうだ。
お前が参加するのもしないのもお前が決めろ。
お前のこれからが決まる判断だ。誰の影響でもなく自分で決めろ。
お前はお前しかいないんだからな。」
ミナモさんはそう言って光とともに消えていった。




