『父のお告げ』
志士上と出会ったことが印象的すぎて、色々と考えさせられることもあった。自分はなぜこのゲームを続けているのか、自分がもしゼウスになったら世界をどう変えていくべきなのか、色んなことを考えて一周してまたなぜこのゲームを続けているのかに戻ってしまった。
考えれば考えるほど、ループして同じ問題に突き当たる。
志士上のように明確に人類を滅ぼしたいと思う理由が、僕のこのままの世界を保ちたいという目的に正当な、誰もが納得する答えを見つけられずにいた。パソコンで順位を確認したが7位となっていた。
上位ではあるが、参加者がどんどんと減り、すでに15人くらいになっていた。
A級の神様も30人以上いたのにそのほとんどがいなくなっているということだ。
僕の知らない間に世界が少しずつ変わっていく。
でも、その世界の変化をあまり気にしていない自分もいる。
もう少しでいなくなる世界のことを気にやんでも仕方ないと思ってしまうからなのだろうか?
僕はベッドに横たわり静かに目を閉じた。
白いもやの中をかき分けて歩いていた。
『ああ、これは夢だな』とすぐに気がついた。自分の行き先もわからずにもやの中を進むさまが現実の自分と重なる。
ふいに誰かが呼んでいるような気がしてあたりを見回すが、相変わらず白いもやで囲まれていて何も見えない。
気のせいかと思って目を覚まそうとすると今度はっきりと
『星、こっちだよ』
名前を呼ばれ、声が聞こえた方に歩いていく。
いつの間にか白いもやは薄れていき、目の前に記憶の中のままの父が笑顔で立っている。
『見ないうちに大きくなったね」
父の声は明るく、そして懐かしかった。
夢なら何でもありだなと思い近づいていく。記憶の中の父なのだから若いままだし、知っている姿そのままでいるので、昔は見上げていた父も今では僕が少し見下ろすようになっていた。父は笑顔のまま
「息子に見下される日がこれるなんて思ってもいなかったよ。
本当に大きくなったんだね。」
「20年も経ってますから。
夢なのにこんなに会話って成立するものなんですね。」
「アハハ、ただの夢ならもっと星の好きな言葉だけ言う感じなんだろうね。」
「ただの夢じゃないんですか?」
「そうだね。
ミナモから聞いていると思うけど、僕は今自由に動き回ることも、当然、誰かと話すこともできない状態にいるんだ。
でも、ゼウスの力の中に人に念って言うのかな?テレパシーみたいなことができる力があってね。
頻繁に使うと、バレてしまうからなかなか使えないんだけど、星や他の候補者に危険が迫っているんだ。」
「どういうこと?」
「今回の『ゼウス決定戦』は仕組まれたものなんだ。
何が目的で誰がどうやっているのかもわからないけど、ただひとつ言えることが、この仕組んでいる人物はゼウスという存在を消そうとしているみたいだ。
そのために今回の候補者を犠牲にするつもりなんだ。
星、本選に出ずに辞退した方がいい。
これ以上、星の人生を辛いものにしたくない。
星のお友だちにも伝えてくれ。今回の決定戦は危険だと。」
「どう危険なの?
辞退したら僕はどうなるの?」
僕が聞くと父は何かに気づいたようなそぶりをして、
「ダメだ、アイツに気づかれてしまった。
ごめん、星。詳しくは言えないし、その時間もない。
とにかく、辞退してくれ。」
父はそう言い残すと白いもやの中に徐々に隠れていく。
僕は手を伸ばして父を引き留めようとするが、その伸ばした手がつかむのは白いもやばかりだった。




